40 トラブル


 七日。

 たぶんそれぐらいが過ぎた。

 時間の基準はツリーハウスでゲームをチェックして果実が生っているかどうかなので、微妙に違うかもしれない。

 なにしろこの階層は陽が動かない。


 とりあえず、この七日間で残りのポータルも全て見つけた。とはいえ頭の中で地図ができているわけでもないのでこれからも半分迷子のままうろつき続けることになるだろう。

 そういえば三十一階に行くための階段みたいなのは見つからなかった。

 ウッズイーターを倒すと出てくるとかかな。


「そろそろ戻ろうか」


 予定通りマジックポーチが魔石でいっぱいになった。

 他の収穫というとトレントの木材があれから二つ増えて、三つになった。

 酔夢の実に関してはまったくわからない。


 後、ゴーストナイトのような存在と何度か戦った。

 その度に魔石とは違う報酬をもらえた。

 手に入れたのは幽茨の盾に、魔法やスキルが手に入る宝石が三つだった。

 幽茨の盾は魔力を込めると盾の表面に茨というか大きめの棘が現れる。敵は迂闊に近づくと自分から棘に刺さることになるし、盾突との相性もいい。

 宝石からは炎波と分身という魔法と、視力強化というスキルが手に入った。

 この間も黄金サクランボを食べていたので能力も上がった。

 なぜか『運』だけはあがらない。

 この頑固さはなんなのだろう?

 ドロップアイテムとかを考えると運が悪いとは思えないのだけど。


「……とにかく、一度戻って魔石を売って、それから酔夢の実の情報を改めて集めてみよう」


 そう決めるとツリーハウスを出てポータルに向かって移動した。


『24』と記されたポータルを抜けて地上に戻る。ポータルを抜ける前に装備の類はすべて外している。

 休んだばかりなのもあったし、乗合馬車を待たずに歩いてアイズワの街に入る。


 冒険者ギルドに入って魔石の買取の列に並び……。

 自分の番が来たところで問題が起きた。


「ちょ、ちょっと待っててください!」


 マジックポーチを逆さにして全ての魔石を出し切る。

 うん、すごい山ができたとぼんやりと見上げていると買取担当のお姉さんが悲鳴に近い声を上げて奥に消えた。

 ぽかんとしていると周りのざわつきが耳に入った。


 あ、これやっちゃったか?


 いかん。ダンジョンに潜り過ぎてて感覚が狂ったかも。

 内心で反省していると、お姉さんが偉そうな男性を連れて戻って来た。


「君、話がある。ちょっと来なさい」


 その言い方に引っかかるものがあったけれど大人しく従うことにした。

 通された部屋はたぶん応接室だ。

 前に通されたことのある部屋と同じ雰囲気がある。

 また、変な依頼を頼まれるのかなと思っていたのだけど……違った。


「君、素直に言いなさい」


 ギルドマスターだと名乗った男はいきなりそんなことを言った。


「……は?」


 なにを言っているんだ?


「あの魔石は君が採って来たものではないだろう?」

「いやいやいやいや! どういうことですか? 俺が採って来たんですけど?」

「嘘を吐くな!」


 間にあるテーブルをドンと叩いてギルドマスターが俺を睨む。


「君の経歴は調べてある。登録を行ったのは三十年も前、登録証が銅になったのは最近だね」

「……ええまぁ」

「そんなに長い期間、鉄……日雇い層で満足していた君が、どうやったらあんなに魔石を手に入れられるのかな? パーティに入っている様子もないが」

「自力ですけど?」

「だから……そんなことがあるわけないと言っているだろう!」

「ここにあるんだから仕方ないでしょう!」


 キレ気味に反論する。

 同時に冷静な部分で「あちゃあ」と思ってもいた。

 いかん。なんの前情報もない冒険者が大活躍してるから疑われたんだ。

 周りの反応を気にしてこそこそしていたけれど、成果そのものを報告しないといけない冒険者ギルド相手では逆効果だったか。


 とはいえ、弱気になっていると向こうの言い分を認めることになる。ここは強気で否定していくしかない。


「……いまなら君の罪は問わない。誰に頼まれているのか喋りたまえ」

「なんの話です?」

「君は、登録証をはく奪された不正冒険者たちの代わりに魔石を売りに来ている。そうだろう?」

「そんなわけがない!」

「それ以外にどんな理由があるのかね!」

「実力ですけど⁉」

「三十年も日雇い冒険者していた奴が、どうすればそんな活躍ができる!」

「実際にできているんだからできるんですよ!」

「……いいだろう」


 ギリギリと歯を軋ませていたギルドマスターは深呼吸をしてからそう言った。


「君……『雷光』が戻っていただろう。呼んでくれるかな?」

「はい」


 ドアの側にいた秘書が部屋を出ていく。

 しばらくすると戻って来た秘書は三人組の冒険者を連れて来た。


「え?」

「……あ」


 その内二人が俺を見て声を上げた。

 魔法使いのミーシャと神官のシスだ。

 そして二人の間にいるのはあのイケメン君だ。

 そうか『雷光』なんて名乗っているということは固定パーティになったのか。


「なに? おじさん。何か悪いことしたの?」

「してないよ!」

「彼にはとある疑惑がかかっている」

「ああ……」

「……最低」

「君ら⁉」


 ギルドマスターの言葉に二人は冷たい目をした。


「実力を疑われてるんだって! 君らなら俺と一緒にダンジョン潜ったことがあるんだから、わかるでしょ⁉」

「ええ……」

「……さぁ?」

「なんで⁉」

「だって、私らの魔法で活躍してただけっていえば、そうだし?」

「そうですね。おじさんが強かったという証拠はないのでは?」

「…………」


 うわぁ……。

 言葉が出ない。


「……それで、ギルドマスター。僕らが呼ばれたのはなんでですか?」


 イケメン君が微妙な笑みを俺に向けながら質問している。


「彼らは最近十階を攻略した新人の中でも腕利きの冒険者だ。君が本当にあの魔石を自分で採って来たというのなら、彼らと戦えるだけの実力があるはずだな?」

「……当然でしょう」


 ギルドマスターが俺に聞いてくる。

 答える俺の声は沈んでいた。


「ギルドマスター?」

「すまないね。ちょっと腕試しに付き合ってもらいたい。もちろん報酬は出す」

「……それならいいですけど。おじさん、怪我する前に自首した方がいいのでは?」

「…………ふう」


 ため息しか出ない。


「君、名前は?」

「え? シグルドだけど?」

「シグルド君。君こそ……怪我をする前に辞退した方がいいんじゃないかな?」


 じろりと睨んでみたけれど、シグルドは「はっ」と唇を曲げて小さく笑っただけだった。


「では、いまから訓練場へ行こうか」


 ギルドマスターが言う。

 俺は立ち上がった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る