39 ドロップアイテム


 トレントを求めて捜し歩いていたらツリーハウスがあったので今回もそこで休憩する。

 ゲーム内の日課をこなし、食事を済ませて軽く眠る。

 まだ鎧を脱いで寝るほど信頼はできない。


 今回はツリーハウスに追い出される前に外に出られた。

 再びトレントを求めて歩き回る。

 他の魔物は頼まなくてもどんどんと現れて襲って来るのにトレントだけは出てこない。


「これは、意外に手間がかかるなぁ」


 小休止で足を止めてみかんを食べていると、いきなり地面がドンと揺れた。


 そのままドン……ドン……と揺れが続く。


「なんだ?」


 と身構えていると、はるか向こうで木々が砕ける音が連続して聞こえる。

 しばらく様子を見ていると、やがてその威容が視界に入った。


「でかっ!」


 それは亀だ。

 ダンジョンの似たような木々と同じぐらいの高さがあり、横幅は十メートルを超えているかもしれない。

 突き出した頭も足も岩山のように荒々しい肌をしている。

 その口には木が咥えられていて、強力そうな顎でバキバキと砕いて口の中に入れている。


『ウッズイーター:階層の門番』


 鑑定の結果にはこう記されている。


「つまり、あれがここのボスか?」


 あれを倒さないと三十階より先に行けないのか。


「急に難易度があがってないか?」


 だが、俺はいまのところここから出るつもりもないので、目を付けられても困るとその場から逃げ出した。

 能力任せにひたすら走って距離を稼ぐ。

 途中で何体かの魔物に絡まれたけれど、それも無視して突き進んだ結果、ようやくウッズイーターの足音が聞こえなくなったので足を止めた。


「ふう……って、なんだここ?」


 この階層の森はツリーハウスのような一部を除いて似たような木ばかりが並んでいるから、あっという間に自分の位置や方向感覚が失われてしまう。

 気が付くと俺を囲む木々が変わっていた。

 ねじくれた枯れ木のような木々が並び、しかも枝のあちこちに青白い火が果実のように宿っている。

 その木々に囲まれているのだと気付いた時、自分の前で青白い火が弾けてそれが現れた。


『ゴーストナイト:階層をまたいで現れる強力な魔物。勝者には褒賞を敗者には死を』


 鑑定の結果に首を傾げるけれど、ゴーストナイトは問答無用で襲ってくる。

 鎧に中身があるとは思えないほどに細い。

 手には俺のグレートソードぐらいに長い剣が握られて、剣身から怪しい光が漏れている。


「ああもう! 心の準備が!」


 ウッズイーターから逃げてきたせいで、気分が戦いに向いていない。思わず逃げを選択しそうになったけれど、囲むようにあるねじれ木にあった青白い火が宙を舞い、円陣を組んでいた。

 即興のリング?

『だが逃げられない』っていう状況だ。


「ええいくそ!」


 問答無用で襲ってくるゴーストナイトの剣を盾で受け止める。

 重い。

 強い。

 くそ、気分を変えないと。


 まずは防御を固めて気持ちがまとまるのを待つ。

 その間もゴーストナイトは遠慮なく切りつけてくる。

 痛い痛い。

 なにか、鎧を無視した痛みがある。

 持っている剣の力か?

 鎧の中でドロドロした感触がある。出血してるなこれ。

『夜魔デイウォーカー』を起動して、血液化で出血を止める。

 ゴーストって言っているから血も吸えないだろうし、このままだと削り殺される。


『眷族召喚』でクレセントウルフを複数召喚して襲わせる。

 あまり長持ちしなかったけれど、あいつの攻撃を受けない時間ができた。

 おかげで冷静になる時間ができた。


「よし!」


 やっと気分がまとまった。

 というわけでシールドダッシュ!


「っ!」


 クレセントウルフを倒したすぐ後だったゴーストナイトはいきなりの俺の攻勢を受けて吹き飛ぶ。

 あ、これたぶん『不意打ち強化』も影響してるな。

 そのままトレントを倒したときのようにグレートソードを叩きつけようとしたけれど、ゴーストナイトは全身鎧とは思えないような速さで動いて距離を取られた。

 そこに再びシールドダッシュ。

 さすがに吹き飛びはしなかったけれど、当てることはできた。

 再び『眷族召喚』でクレセントウルフを呼び出し、ゴーストナイトを囲む。

 あいつがこっちの攻略法を見つける前に叩き潰す!

 時間との戦いだと、猛攻を開始した。


 それからだいたい五分後。


「らっ!」


 俺の振るったグレートソードがゴーストナイトの兜を叩き割った。

 ゴーストナイトは膝から力を失って崩れ落ち、消えていく。


 あれ?


 ゴーストナイトが持っていた大剣が残った。


「あ、褒賞ってこういうことか」


 とりあえず鑑定。


『幽毒の大剣:剣身の炎はあらゆる妨げを無視して獲物に襲い掛かる』


 あの痛いのって毒だったのか?

 なんか違うような?

 でもいいか。

 とりあえず、防御無視ダメージの特典があるってことだよね。

 拾って握ってみる。

 うん、いままでのグレートソードと同じような使い心地だ。

 ありがたくいただくとしよう。


 それと、気になったことがあった。

 戦いの途中でシールドダッシュの使い心地がよくなった。


 なにか変化があったのかとステータスを開いてみる。



名前:アキオーン

種族:人間

能力値:力125/体170/速73/魔50/運5

スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/盾突/瞬脚/忍び足/挑発/倍返し/眷族召喚/不意打ち強化/支配力強化/射撃補正+1/剣術補正+1/斧術補正/槍術補正/盾術補正/嗅覚強化/孕ませ力向上+1(封印中)

魔法:鑑定/光弾/火矢/回復/解毒/明かり/対物結界/対魔結界/斬撃強化/打撃強化



 盾突ってスキルが増えてる。

 これってシールドダッシュのことかな?

 うん、それっぽい。

 そっか、スキルってこういう風に増えることもあるのか。

 うーん、知らなかった。

 なにか思いついて、ずっと使っていたら覚えるのかな?

 今後も、なにか思いついたらそうやってみよう。




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