38 木精人
マジックポーチが一杯になるまで探索を続けることに決めた。
襲いかかって来る虫やら植物やらの魔物を薙ぎ払いながら進んでいく。
そうしているとポータルを見つけた。
化石化した大樹の洞の中にキレイに収まっている。
幹には『22』とある。
つまりこの辺りが二十二階に相当する空間ということなんだろう。
ということは、同じように三十階までのポータルがそこかしこに点在しているということになるのか。
本当に広そうだ。
「お?」
変な木を見つけた。
根元が大きく膨れ上がっている。その割に上が細いのでなんだか不格好だ。
なんだっけ? なにかで見たような?
こんな木を元の世界の媒体で見たような気もする。
でもそれとは違う。
違うんだけど似ている。
ああそうだ。
大きなかぶだ。
かぶの形をした木。なんだかそれっぽい。
とりあえず、鑑定。
『トレント:動きます。襲います。注意』
これがトレントか!
思わず跳びさがって身構えたからか、向こうも動かない振りをするのを止めた。
地面を揺らして根を引き上げる。
上にあるかぶの葉みたいな枝と葉がわさわさと動く。
球根みたいな幹が震え、そこから目と口が現れる。
ボボボボボボボボボボ……。
獣のように勢いはないけれど、なんだか不気味な音を発しながらトレントが襲いかかって来た。
攻撃は上の枝葉を鞭のようにしならせて打ってくるのと、口からドングリみたいな硬い実を弾丸のように飛ばしてくる。
それから体当たり。
鈍重そうな見た目に反して動きが早い。ダンプが縦横無尽に襲いかかって来るような重量感と威圧感があってなかなか怖い。
様子見で逃げ回りながら火矢と光弾を撃ち込んでみる。どちらも打撃力という意味では効果はあるみたいだけど、火矢の方は火が広がるという効果は起きなかった。
トレントは見た目よりも水気がしっかりしていて、そのせいで燃え広がらないようだ。
だけど、砕けるのはわかった。
各種強化を身に纏い、シールドダッシュ!
激しい音が生まれて、トレントの幹部分が大きくえぐれる。
ボボ!
トレント本体も大きく斜めに傾いでいる。
せっかく詰めた距離が惜しい。
「おおおおおおおおおお!」
グレートソードを振り上げ、全力で叩きつける。
ボっ!
破壊の余波が食い込んだ剣身以上の範囲を破壊して、トレントはふっとんで転がっていく。
「逃がすか」
コンボか、追い打ちか。
再びのシールドダッシュで幹を打ち、そしてグレートソードによる叩きつけ。
ボー…………。
今度こそ幹が両断され、トレントは息絶えた。
「ふう」
と、息を吐いているとトレントの姿が他の魔物と同じように消えていく。
「あ、トレントの木材」
どうやって手に入れるんだ?
魔石になる!
慌てていると、いつもならそこに落ちているはずの魔石がない。
代わりに立派な木材が置かれていた。
製材所で樹皮を削り落とされた後のような、それでいて幹の中に黒い部分などもないきれいな状態の木材だ。
これはマジックポーチの類がないと持ち帰るのは大変そうだ。
というか、俺のマジックポーチだと長さ的にアウト扱いで入らないかもしれない。
『トレントの木材:高級品』
鑑定がそう告げる。
「なるほど。こうやって手に入るのか」
と納得し、さっそくゲームの方に入れる。
『酒造クエスト:トレントの木材:1/10 酔夢の実:0/1』
おお、クエストが進行した。
「よし、この調子で頑張るか」
と気合を入れたものの、その日はもうトレントと遭遇できなかった。
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