37 二十一階へ
階段を下りて二十一階へ。
「うわっ」
目の前に現れた光景に思わず声が漏れた。
階段を出てすぐは狭い石造りの空間だったのだけど、そこを出るとすぐに緑を透かした陽光に出迎えられた。
森だ。
しかも青い空まである。
振り返ると階段のあった場所には朽ちかけた塔のような建物があった。
塔は途中で折れている。
怖くなったので一度階段を戻ると、そこにはちゃんと二十階があった。
「不思議だ」
なにがどうなっているのやら。
とはいえダンジョンという存在自体が不思議の塊なのだから、あまり深く考えるべきじゃないのかもしれない。
よく見ると塔の壁に「21-30」の文字があった。
どうやら本当に、この空間が二十一階から三十階をまとめたものらしい。
それでいいのかダンジョンと思わないでもないけど、それよりもなによりも……。
「やっとここに来た」
森だ。
つまり植物系の魔物がいるに違いないし、冒険者ギルドで得た話が本当ならここにトレントがいることになる。
「よし、まずは探すか」
気合を入れて森の中を進む。
森から現れた魔物は虫や植物の姿をした者が多かった。
ジャイアントスパイダーにジャイアントアント、ジャイアントビートル、ジャイアントスタッグ、ジャイアントローカスト、ジャイアントビーなどの大型虫シリーズ。
強力な棘のある蔓を持ち、強酸を貯めた壺のような部分に放り込もうとするカニバルヴァイン。
近づくと破裂して無数の種を射出するブリッドフラワー。
蔓の集合体で踊るようにうねうねしながら森を移動するダンシングプランツ。
トゲトゲを纏ったままの栗の実のようだけれど自分で回転して移動し、襲ってくるときには集団で飛び掛かって来るローリングナッツ。
手のひらほどの花に対して異常な量の根を持ち、それで骨をかき集めて異形の動物を作って操るボーンアーティスト等々。
これだけ大きな森なら動物がいそうだけれどそんな姿はない。
厄介なのはジャイアントビーやダンシングプランツ、ローリングナッツなどの仲間を呼ぶタイプだ。
持久戦をしているといつの間にかすごい大群に囲まれているということが何度かあって困った。
それに、こいつらは吸血をしてもスキルを奪えない。
ただひたすら戦って魔石をかき集めるだけの日々となってしまった。
ただ、面白いものを見つけた。
「家?」
ツリーハウスのようなものがある。
罠かと思って鑑定を使ってみると……。
『レンタルツリーハウス:魔石一つで六時間の安全をお約束』
「お約束って……」
鑑定結果が広告文みたいだ。
とはいえこういう場所で安全地帯となると万金に値するのはいままでで十分に理解しているので、試しに魔石を一つ取り出してみた。
すると樹上から蔓がするすると下りて来て魔石を引き取る。
同時に、同じように蔓製の梯子が下りて来た。
梯子を上がり、恐々とドアを開けると、中にはちゃんと設えられたベッドのある六畳ぐらいの空間があった。
あ、トイレもある。
でもキッチンはないのか?
いや、ベランダみたいになってる場所にかまどがある。
でも、とりあえず調理をする予定もない。
いきなり油断するにはあやしすぎるので鎧も脱がずにベッドに腰かける。
『ゲーム』から片手で食べられる料理を選び、いつものダンジョンの隅で休む時の気分でじっとする。
ウトウトしながら過ごしていると、いきなりドアがバタンと開いた。
「うわっ!」
驚いているとベッドや床がグニグニと動いて立っていられない。
なんだなんだと思っている内に床を転がされて外にポイと放り出された。
「ぐへ」
周囲が草が多少は優しく受け止めてくれる。
このまま襲うつもりかと思って慌てて立ち上がったのだけど、そこには最初に見たツリーハウスの状態でじっとしている姿があった。
「……あ、六時間経ったのか」
ようやくそのことに気付いて脱力する。
まさか、ほんとにツリーハウスだとは。
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