34 死神パニッシャー戦


 オークと戦いながら順調に進んで、そろそろ次の階段が見つかるかなと思っていたら。


 KYAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!


 という、異様に甲高い音が響いた。


「な、なんだなんだ?」


 声?

 いかにも危なそうだ。


「どっちからだった?」


 たぶん、あっちかな?

 でも、どうしようか?

 危ないことに近づくべきかどうか?


「行ってみようか」


 ふわっと出てきたのは好奇心なのか善意なのかわからないけれど、本心であることは確かだと近づいてみることにした。


「む……」


 そこに、いた。


「なんだあれ?」


 黒いガスに髑髏と大鎌が引っ付いているような魔物がいる。


『死神パニッシャー:ダンジョンに出現する魔物。ダンジョンのルールを守らないと出現し、その個体に襲い掛かる』


 鑑定結果にびっくりする。


 なにそれ怖っ!

 ダンジョンのルールってなに?

 そんなの知らないんですけど?


「ええ……これ、どうしようか?」


 よくわからないけど、誰かがルールを破ったから出現しているってこと?

 それなら他には危険はない?

 でも、誰がそんなルール破りなんて……?


 と、目を凝らしてみると、死神の向こう側で血を吐いて座り込んでいる人物を見る。


 あれ?


『鋼の羽』の人か?


 あの目を引いた美人じゃなかろうか?


 なら仕方ない!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 気合の雄叫びを上げて接近する。

 だけど死神はこちらを見向きもしない。

 目標を倒すことだけに特化しているのか?


 なら、無理矢理こっちを向かせるだけだ。

 対物&対魔結界に斬撃&打撃強化を使って戦闘準備を完了。

 さらに瞬脚で死神の横に移動し、さらに瞬脚を使った体当たりを敢行する。

 盾を前面に構えたシールドダッシュだ。


「ぐっ!」


 死神の周りの黒いのが口に入り込んだ瞬間、体の内部が痛くなった。

 毒か?


 だけど体当たりは成功して、死神は吹き飛んだ。


「大丈夫か?」

「ぐふっ……う……」


『鋼の羽』の人は口から血を吐いてそのままそこに倒れた。

 気を失った?


 やばいかもしれない。

 けど、回復を使っている暇もない。


 死神は空中で回るようにして体勢を立て直すと、こちらを見る。

 いや、『鋼の羽』の人を見ている。

 ということは、まだ彼女は生きているってことだ。


「生きている内に決着を付けないと」


『夜魔デイウォーカー』を起動する。

 あっちの意識は出てこない。

 自分でやれってことか。

 吸血は使えそうにないけど、他のスキルは使えるだろうし、このスキルを使っている間は他の能力値も上がっている。


「よし、やってやる」


 死神パニッシャーとの戦いはこれまでにない激しい戦いだった。

 油断すれば『鋼の羽』の人のところに向かおうとするのでそれを止めるために立ち位置を調節したり、『挑発』を使って奴の意識をこちらに向けるようにし続けなければならなかった。

 物理的な攻撃はあのガス状の体を簡単にすり抜けてしまい、意味はあまりなさそうだった。

 かといって『火矢』や『光弾』と言った攻撃魔法はこちらの魔力が足りないのか、あるいは別の要因からなのか無効化されている雰囲気がある。

 その一方で死神の大鎌の一撃は重く、受けるたびに全身に衝撃が走るし、ずっと近くにいると黒いガスを吸ってしまい、その度に全身に痛みが走る。


 それでも戦えると思ったのは最初の体当たりが聞いた要因、魔法による強化だ。

『対物結界』や『対魔結界』、『斬撃強化』や『打撃強化』

 どれが効いたというわけではなく、魔力を介した接触が死神パニッシャーには有効に働くということだと思う。

 四つの魔法を切らさないように戦えば、勝機はあると信じて戦った結果……。


「らああああ!」


 戦いは十分も経っていなかったと思う。

 だけど、持っている盾は半ば以上裂け、鎧もあちこち貫かれた。血液化で傷そのものをなかったことにしなかったらとっくに死んでいる。


 そして俺の放ったグレートソードの一撃が死神の髑髏に命中した。

 血装を使って死神の大鎌に負けないような形状となっていたグレートソードは『倍返し』を乗せた一撃で髑髏を砕くと同時に折れてしまった。


 KIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 これでだめならやばいと思って緊張して見守っていると、死神パニッシャーは最初に聞いた声を上げるとガスを霧散させて消えた。


 そして、何も残らない。

 魔石もない。

 宝箱もない。

 あんな強敵を倒したのに、報酬ゼロ。


「嘘だろう……」


 これだけ苦戦して何もないとは。

 戦わないようにするのが利口なんだとしみじみ思った。


「おっと……それどころじゃない」


『鋼の羽』の人は?


「息はある」


 近寄って様子を見ると、青白い顔をしているけれど、息はある。

 回復魔法を使う。


「う、うう……」


 なんとか顔色は戻ったけど、気絶したままか。


「今日はここまでだ」


 装備もボロボロだし。


『鋼の羽』の人を抱え、ポータルまでの道筋を思い出しながら走った。

 なにしろ武器がないし、『ゲーム』から新しいのを出してる余裕もない。両手が塞がっているから魔物と戦うのも面倒だ。

 すたこらさっさと逃げ帰った。


 ダンジョンから出たけれど、乗合馬車の時間が微妙だったのでそのまま走って西の街に向かう。

 冒険者ギルドの近くにギルドが運営している診療所があるので、そこに彼女を預けるとやれやれと自分の部屋に戻って鎧を脱いでから魔石を換金してもらった。


 はぁ、でもどうしよ。

 あんなに鎧ボロボロの姿を見られてるし、明日すぐにきれいな鎧で行くってわけにもいかないかな?

 何日かは休憩しないとだめかなぁ?





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カクヨムコン8総合10位/異世界ファンタジー2位 感謝です!


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