32 魔法訓練


 魔法を覚えた頭痛にぐったりして、その日は宿に戻るなり寝た。

 気が付いたら翌朝。


 晩御飯も食べ損ねていたので、今日は良い物を食べようと『ゲーム』を起動。

 今度こそ海鮮……と思ったけど朝から生魚の気分じゃない。

 天ぷらうどんに変更。

 おにぎりも付けてこれで元気を出す。


 さて、魔法の練習でもしよう。

 覚えたのは斬撃強化と打撃強化以外はここでも試すことはできる。


「まずは明かりっと」


 部屋の窓を閉めて使ってみると、すぐ側に青白い光の球が現れて……。


「ぎゃっ!」


 凄まじい光に目を焼かれて悶絶した。

 こ、光量が強すぎる!


「か、解除! 解除!」


 慌てて解除し、目に『回復』の魔法を使う。

 痛みが引いて、恐々と目を開けると、ちゃんと見えた。


「びっくりした。失明したかと思った」


 能力値の魔の値で効果が変わると言っていたけど、こういうことなんだろうか?


「ええと、どうやって暗くするんだっけ?」


 頭の中で考えるとすぐにそれがわかった。もともと光量調節の機能はあったみたいで、弱くする分には追加消費は要らないみたいだ。

 とりあえず、部屋を照らすLEDライトぐらいをイメージして、もう一度『明かり』を使う。

 ぱっと、部屋が白く照らされた。


「これはいい」


 こっちの世界の照明設備はそこまで良くないから。ここまで明るくなるのは助かる。

 それから対物結界と対魔結界も試す。

 対物結界はやや白い光、対魔結果は薄紫の光で全身を包む。

 振り回さなければ問題ないかとグレートソードを出して斬撃強化と打撃強化をかける。

 斬撃強化は刃部分を、打撃強化は全体を、そしてどちらも淡い赤色の光で包んだ。


 効果時間は明かりが一時間で、結界と強化はどちらも五分。


 訓練場で試してみようかなと思ったけどグレートソードを振り回すのがどうも気恥ずかしくて、とりあえずメイスだけをベルトに引っかけて部屋を出た。


 訓練場は人が一杯だった。

 あちこちで打ち合い、気合の声が響く、打ち込みの練習をするためのかかしの前にも人が一杯で練習する場所がなかった。

 王都のギルドでこんなに人がいっぱいな光景は見たことがなかったので驚いた。


「さすがはダンジョンのある街は違うなぁ」

「はは、違う違う」


 観客席の所に立ってそんなことを呟くと、それが聞こえた近くの人が言った。


「見てみろ」


 とその人が指差した先は俺たちがいる観客席の反対側。

 そこに昨日食堂で見た『鋼の羽』と『炎刃』が並んでいた。


「三十階攻略のために新しい仲間を募集してるんだってさ」

「二つ同時に?」

「ああ、どうも三十階にいるボスが一つのパーティで倒すには難しいんだとさ。だから協力するし仲間も集めるんだと」

「はぁ……三十階ってそんなに難しいんだねぇ」

「ああ、俺も聞いた話だけどな。三十階……ていうか二十一階から三十階までが一つになったとんでもなく広い空間なんだってさ。で、そこをボスがうろうろしてるんだと」

「それはすごい」

「なぁ、すごいよな」


 そういえば今話しかけているのは換金所で話をしたおっさんだ。


「とはいえ、おれらみたいなおっさんにはもう関係がない話だなぁ。あ、でもお前は十階とか行ける実力者か。あそこに参加してみたらどうだ?」

「ははは、いやぁ、いいよ」

「そうかぁ?」


 ミーシャたちで少し懲りた。

 仲間は欲しいとは思っているけど自分のチートを晒す気になれないのも問題だということにも気が付いたのだ。

 いつかはそういうことを知られてもいいという人物に出会える日もあるかもしれないけど、焦る必要もないかという気持ちだ。


「ん?」


 ぼけーっと訓練場を眺めているとミーシャたちの姿を見つけてしまった。

 女神官のシスもいるし、あのイケメンもいる。


 まだわからないけど、あの三人が混ざるなら絶対に関わらないでおこうと思った。




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