31 魔法屋へ


 冒険ギルドで魔法屋の場所を聞くとすぐに教えてくれた。

 ちゃんと暇そうな時間を選んだから、受付嬢も余裕をもって丁寧に説明してくれたので、これならすぐわかるだろう。


「ああ、そうだ」


 ついでに質問してみる。


「王都のギルドでトレントを探すならここのダンジョンって言われてきたんだけど、何階ぐらいにいますかね?」

「トレントですか?」


 受付嬢は難しそうな顔をした。


「トレントが出るのは三十階だと聞いています。独力で向かうのは難しいですよ」

「そうなんですか?」

「ええ」


 受付嬢さんが言うには、このアイズワの街のダンジョンでの最高記録は四十階。

 これは国内で最強のパーティと言われている『英雄の剣』が打ち立てた記録だそうだ。

 その後は三十階で足止めを食らっているのがほとんどだそうだ。


「今年は『鋼の羽』と『炎刃』の二パーティがいらっしゃるのでそちらならいずれ三十階に到達するはずですから、トレントの素材が必要なのでしたら、そちらと交渉してみるのがいいのではないですか? ギルドとしては依頼として出してくださるとうれしいのですけど」

「はは~、考えてみます」


 三十階か。

 自力でやってだめならその方法も考えてみよう。


 とりあえずは魔法屋だ。

 言われた通りの道を進むと十分ほどでそこに辿り着いた。


「いらっしゃいませ」


 店番をしていたのは眼鏡の少女だった。


「魔法屋さんだよね?」

「はい、そうですよ。冒険者さんですよね? 初めてですか?」

「ええ、まぁ……」

「では、簡単に説明しますね」


 と、話し出した。


「こちらでは購入していただいた魔法を使えるようにするお店です。使えるようにできる魔法はこちらの一覧にあるものだけです。これは冒険者ギルドの登録証を持っている方向けの一覧です。資格の有無によってお売りできる魔法は違いますので、もし、冒険者ギルドの登録を解除するような場合は気を付けてくださいね」


 資格によって売れる魔法が違うのか。

 なんだか銃みたいだと思った。

 と……ふと思った。


「……すいません、魔法屋で買う以外の手段で手に入れた魔法はどうなるんですか?」

「どんな方法かは聞きませんが、冒険者なら冒険者ギルドの規則を守っていれば問題ありません」


 つまり、自衛以外で人には使わなければ問題ないってことか。

 そのことにほっとして、説明を続けてもらう。


「こちらでは魔法を使うための式、魔法式を頭の中に強制的に記憶させます。ですので、記憶した通りの魔法を使うことはできますが、それを応用的に変化させるような使い方はできません。これはあなたに魔法使いとしての基礎知識がないからです」


 なるほど。


「ですが、消費する魔力で効果を倍増させるようなことはできます。基本的に全ての魔法は魔力を1消費します。つまり、あなたの能力値にある魔の値が、そのまま一度に使える魔法の回数だと思ってください」

「はい」

「1の消費を2にすることで威力や効果を上げることができますが、これは単純に二倍や三倍になるというわけではありませんので注意してください」

「ほうほう」

「それ以外でも、威力や効果などは能力値の魔の値で変わりますので、手に入れた魔法は一度、安全な場所で使い勝手を試してからの方がいいです」

「あの、使いこなすのに一週間はかかるって聞いたのですけど?」

「それも嘘ではないです。特に攻撃に使うような魔法は正確に相手に命中させるために一週間ほど要する場合もあります。特に魔法使いなどの専門的な方は、自分なりの応用を効かせるために魔法を解析して改造したりする方もいるでしょう」

「はぁ、なるほど」


 ミーシャたちは嘘をついていたわけじゃないのか。


「とりあえずの説明は以上です。他にも質問がありましたらどうぞ」

「思いつかないので、まずは一覧を見てもいいですか?」

「はい、どうぞ。あちらのテーブルを使ってくださって結構です」

「ありがとう」

「わからない魔法がありましたら、説明しますので。では、ごゆっくり」


 俺が指定されたテーブルで一覧を眺め始めると、眼鏡少女はカウンターで読書を始めた。

 とはいえ一覧に載った魔法はそんなに多くないし、簡単な説明も付いている。

 向こうの世界でやっていたRPGの基礎知識がこちらでも役に立ったので、念のための質問だけをして、買う魔法を選んだ。


 買ったのは、『明かり』に『対物結界』『対魔結界』と『斬撃強化』に『打撃強化』そして『回復』と『解毒』。


「では、全部で三十万Lです」


 眼鏡少女はにこにこと値段を付ける。

 高い。

 特に『回復』と『解毒』が高かった。


 理由を聞くと『回復』と『解毒』は医療行為として利用が可能なため、高く設定せざるを得ないのだという。

 みんながもっと簡単に怪我や毒を治せたりした方がいいとは思うが、それで利益を得ている一部の人たちにとっては、自分たちの持つ特権を簡単に侵されたくないのかもしれない。


「でも回復の魔法って神官が使うものだと思ってましたよ」

「魔法使いと神官は魔法の身に着け方が違うだけですよ」


 と眼鏡少女は言う。


 魔法使いは学問として魔法を身に着け、神官は神に祈りを捧げ、奉仕することで神に魔法を授けてもらう。


「神が授けてくれる魔法にはいまだ魔法使いが開発できていない物もありますし、魔法使いには神が授けてくれない独自の物があります。違いはありますよ」

「なるほど」


 もしかしたら俺の転生には神が関わっているのかもしれない。

 だとすれば神に感謝した方がいいのだろうか?

 でも、いままで接触とかされていないしなぁ……と、最後には考えが横道にそれてしまった。


 お金を払うと、眼鏡少女は扉に「一時閉店」の札を下げて鍵をかけると、俺を奥の部屋に案内した。

 そこには一部が欠けた魔法陣があり、俺をその中央に立たせると、欠けた部分に奥の棚から取り出した石板をはめ込む。


「これであなたの頭に魔法式を記憶させます。一度ずつしかできないので時間がかかりますよ」

「はい」

「では…………………………」


 眼鏡少女がなにかを唱えると、魔法陣に光が走り、俺の頭にその光が飛び込んできた。


「うっ!」


 すごく……頭が痛い。

 ファウマーリ様に鑑定を授かった時にはこんなことはなかったような?


「さあ、一つ終わりです。次々行きますよ~~」

「うう……はい」


 気合を入れる眼鏡少女とは真逆に、俺はこれから続く頭痛を考えてげんなりとした。





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