30 かつ丼
宿でお湯を頼んで部屋で体を拭う。
ダンジョンで使っていた服とか鎧とか武器とかは全て一度ゲームに入れてきれいにする。
そして換金したお金も半分はゲームに入れておく。
残りは……とりあえず明日から少し休みを取るつもりなので使うかもとマジックポーチに残しておく。
さて、食事はどうしよう?
荷物のやりとりの時から起動しっぱなしのゲームを操作してクラフト台に移動する。
表示されるクラフト一覧から食べられるものの項に移動して眺める。
ダンジョンの中でもストレス回避のために食べられるときはしっかりしたものを選んでいたけれど、とはいえ保存食だった時の方が多い。
「和食。がっつり」
さすがにダンジョンで箸を使って食べるようなものは選べなかった。
ご飯が食べたい。
それでいてがっつり。
となると丼か。
かつ丼、親子丼、天丼、海鮮丼……。
「よし、かつ丼にしよう」
海鮮丼にもちょっと引かれた。まず生食がありえない衛生状況なので、刺身や寿司のことを思い出すとそれだけで、お腹が鳴る。
だけど今日は温かいものをお腹に入れたい気分なので、海鮮への欲はまた別の日に解消するとしよう。
熱々のとんかつに出汁汁と混ざったとろとろの卵が染みこんだものがご飯の上に乗っている。
かつを齧り、ご飯をかきこむ。
「うまひ」
口の中をいっぱいにしてもぐもぐする。
米を噛む感触というのは脳内麻薬を分泌するなにかがあると思う。そこにとんかつと卵と出汁の味が混ざってさらに加速する。
「うまひ」
つまりはそういうことになる。
「……ごちそうさまでした」
お腹が満ちた後はごろごろしながらゲーム内の領地を整備する。
ダンジョン内だと果実の採集とか最低限のことしかできなかったからね。
領地内に生えた雑草など排除しておかないと畑や果樹園の実る個数に影響が出てしまう。
後は領地で増やせない肉系の食材を商店で買ったり、それと畑の野菜で食べ物とかをクラフトしたり、冒険者を派遣して周辺の魔物を駆除したり。
駆除もしておかないと、ある日突然に魔物に襲撃されましたとアナウンスが出て、領地の色んな所が破壊されたりするのだ。
「ああ、魔法」
冒険者に支援する魔法のアイテムを作っていて、思い出した。
『夜魔デイウォーカー』の人格? が言っていた魔法を覚えろという言葉。
魔法は買って手に入れることができる。
いままではお金がなくてそんなことできなかったけど、いまならできる。
試しにやってみてもいいかも。
「ふぁ~あ」
ゲームをしていると何度もあくびが出てくる。
やっぱりなんだかんだで疲れているのかも。
なんとか領地の整備が終わったので、『ゲーム』をオフにして眠ることにした。
翌日。
ダンジョンでの習慣が抜けず浅い眠りを繰り返したせいかひどく疲れてしまった。
あんまり寝なくても大丈夫だと思ってたんだけど……いや、疲れたのはこの変な寝方のせいか。
部屋を出て井戸場で顔を洗い、食堂に行く。
温かいスープとパンだけの朝食だけど胃がぬくもると目も冴えてくる。
と、元々ざわざわしていた食堂がさらにうるさくなった。
「おい、あれ」
「ああ、『鋼の羽』だ」
そんな声が聞こえた。
なんだと思ってそちらを見ると四人組が食堂に入って来て、カウンターで朝食をもらうために並んでいるところだった。
「三十階まで行ってるんだろ?」
「らしいな。今年は突破するのかな?」
「『炎刃』とどっちが早いかな?」
そんな会話だ。
どうやら有名なパーティのようだ。
特に一人の女性に目が吸い寄せられる。
まるで貴族の令嬢のような美しさがある。
以前に会った、バンを追っていた令嬢に似た雰囲気があるから、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。
しかし、だとしたら相当な変わり者であることは間違いないだろう。
「うわ、『炎刃』まで来た」
またそんな声がした。
宿の方から新しい集団がやって来た。
赤髪の勝気そうな女性を先頭にしたこちらも四人組だ。
食堂の空気がしんと静まり返った。
好敵手の二パーティがいることでなにかが起こることを危惧しているような、期待しているような空気だ。
だけど、どちらもそんな空気を気にした様子もなく、食事を受け取り、別のテーブルで食べている。
期待外れのがっかり感がなんとなく流れている。
その内に、どちらが先に三十階を攻略するのだろうという話で再び空気がざわつき出し、俺は食事を終わらせて部屋に戻った。
まだ動く気になれなかったので『ゲーム』を起動しつつ黄金サクランボを摘まみながらダラダラと過ごす。
食べきれなくて数が溜まっていたので、脳内のやかましさに我慢しながら食べていく。
名前:アキオーン
種族:人間
能力値:力110/体140/速60/魔44/運5
スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/瞬脚/忍び足/挑発/倍返し/不意打ち強化/支配力強化/射撃補正/剣術補正/嗅覚強化/孕ませ力向上(封印中)
魔法:鑑定/火矢
がんばって二十個食べたところで終了。
うーん、力と体力の上りが良すぎる。
そして運が本当に上がらない。
「さて……そろそろ動こうかな」
ゲームでやることもなくなってきたし、街の店もほとんど開いたことだろう。
思い切り伸びをすると、部屋を出た。
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