29 そして七日後。
とりあえず十五階まで攻略した。
ホブゴブリンやオークが姿を現すようになったり、ゴブリンシャーマンやゴブリンアーチャーの出てくる確率が増えて、遠距離対策が必須になっていた。
とりあえず、俺一人なら耐えられるのでそのままごり押したけど。
後、火矢の魔法を覚えていたので使ってみたけど、狙いを付けるのがなかなか難しい。
たぶんだけどスキルの『射撃補正』が狙いを付ける助けになってくれていたみたいだけど、これがなかったらもっと練習が必要だったと思う。
敵を見つける。→『火矢』連射。→接近したら鎧の防御とグレートソードの振り回しで対抗。
いまのところ、これでなんとかなった。
まだまだいけるだけの体力と精神力があったけど、約束の七日後が近づいたので、十五階で一度戻った。
ああ、でもこれ、ポータルのシステム的にどうなんだろ?
たしか、あの子たちと行ったのは六階だったよね?
でも、俺はもう十五階なわけで。
あれ? これ俺がやり直さないとだめな状態?
いや、わかってたんだけど……わかってたんだけど……ここまで順調に行くと思ってなかったからなぁ……。
いまのところトレントも見つかってないし、このままだともっと深くに行かないといけないんだけど。
……まぁ、焦る必要もないんだし、いいか。
とりあえず戻ろう。
ポータルで戻って、人目を避けて鎧を脱いでから馬車でアイズワの街へ。
まずは冒険者ギルドで魔石を換金しよう。
「あ、おじさん!」
魔石の換金所で順番待ちしているといきなり聞いたことのある声に止められてしまった。
うわぁ……いきなりかぁと思いながら振り返る。
……と?
「あれ?」
ミーシャとシスが並んでそこにいた。
ただし、二人の間にもう一人いる。
しかも、男。
しかも、腕を組んでいる。
男は……うん、イケメンだね。
二十代前半くらいかな。爽やかな顔立ちだ。
「ええと……久しぶり」
「おじさん! 実はさ、パーティの件、なしでもいい⁉」
これはどういう展開? と思っているとミーシャの方が勢いよく話し出した。
「実はさ、この人とパーティを組むことになったんだ! だから、ね!」
なんてことを言う。
「あはは……すいませんねぇ、おじさん」
爽やか君は申し訳なさそうにしている。
「ごめんなさい。この人の方があなたより強そうだから」
シスが感情のない声で無情なことを言う。
「ああ……」
そして俺は……。
「そっかぁ、それじゃあ仕方ないね!」
やり直さなくていいとわかって大歓喜。
「うん、まぁ、都合が合わなかったら仕方がないって話だったからね。わかったよ」
「よかったぁ。おじさん納得してくれて! それじゃあね」
「では」
「すいません」
「頑張って!」
俺は去っていく彼女たちに元気に手を振った。
「まぁ、元気だしな」
同じく順番待ちしていた同い年ぐらいの冒険者が慰めの言葉を投げかけてくる。
ただし、顔にはちょっと馬鹿にした雰囲気がある。
パーティとはいえ公衆の面前で振られたからね。
しかも、いい歳したおっさんが若い娘に。
他からもそういう視線がある。
「ああいう若いのは勝手なもんさ」
「ええ、わかってますよ」
だけど俺は気にせずにこにこしている。
なにしろおかげで、懸念が一つ消えたのだから。
それでも同い年のおっさん冒険者は俺を慰めるつもりなのか舌がなめらかになっただけなのか、自分の失敗話を始めた。
そうしていると順番がやってきた。
「あ、マジックポーチですね」
俺が換金所の前に置かれた籠の前でポーチを開いていると、ギルドのお姉さんが小さくそう言った。
「十階攻略おめでとうございます」
「わかるんですか?」
「ええ、それは十階のボスフロアの宝箱から確率で出るアイテムですから」
「へぇ」
出るものが決まっているのか。
でも、あっちの世界のRPGとかでもドロップアイテムは決まっていたりするし。そういうものなのかもと納得し、ポーチを開いて籠の上で逆さまにする。
十五階までで貯めた魔石がざらざらと出てくる。
その量に、換金所の周りにいた人たちがざわついた。
魔石は、籠が一杯になってもまだ止まらない。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
お姉さんは後ろから助けを呼んでから籠を抱えて、新しい籠を用意する。
それにまた魔石をざらざらと出していくのを、三回繰り返した。
「ずいぶん貯めていたんですねぇ。マジックポーチが一杯になってたんじゃないですか?」
「え?」
「え?」
お姉さんの言っている意味が分からずに首を傾げる。
いや、鑑定の結果通りならまだまだ余裕があるはずだけど。
「ともあれ凄い量ですね。この重さですと……六十万Lになります」
「ふおっ!」
「ひえっ!」
あまりの額に変な声が出て、お姉さんを驚かせてしまった。
「な、なにか問題が?」
「すいません、驚いただけです。それでいいです」
「はぁ……もう……」
お姉さんは少しぶつぶつ言いながら奥からお金を持って来て渡してくれた。
思わぬ量なので、とりあえずマジックポーチに入れておく。
「ありがとうございました。次も頑張ってくださいね」
お姉さんの営業スマイルに見送られ、その場を離れる。
「お前、実はすごい奴だったんだな」
さっきのおっさん冒険者がそう声をかけて来た。
「あの姉ちゃんらは損をしたってわけだ」
そう言って笑う。
「ははは……」
愛想笑いしか返せなかったけれど、その言葉がなんとなく嬉しいと思えてしまった。
なにしろいままで、捨てられる側でいた方が長かったから。
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