27 黙々と


 メイスを振り回してどんどん下へと向かって行く。

 六階からは罠が出てくるようになった。

 とはいえ膝までぐらいの落とし穴だったり、ダーツぐらいの矢が飛んできたりするぐらいだ。

 痛いし、場合によっては大怪我になったりするだろうけれど、いまのところは大丈夫。

 むしろこれぐらいの時に罠に警戒する能力を身に着けろと言われているみたいに感じる。

 魔物も序盤は弱いこともあって、なんというか、初心者に優しい感じだ。


 そして俺は……。


 ずんずんと進んでいく。

 新兵器を投入したのだ。

 その名も鉄の全身鎧!

 これなら魔物からの多少の打撃を無視できる。

 ダンジョンバットの攻撃は通じないし、ダンジョンウルフの噛みつきも弾き返す!

 十階に近づいてくると弓を持ったゴブリンアーチャーや魔法を使うゴブリンシャーマンも出てきたけど、鎧のおかげで弾き返したり我慢したりできる。


 後は、瞬脚を使って一気に距離を詰めてからメイスで殴ればいい。

 頑丈な奴には倍返しを乗せて殴るとよく通じた。


 魔石は背負い袋に放り込み、一杯になるとゲーム内に移動させた。

 休憩できそうなタイミングは逃さずに使い、食べ物も我慢せずにゲーム内から購入した。


「ふう……」


 鳥のもも肉を齧りながら、少し先にある立派な扉を見る。

 この十階でもあちこちで戦いの音が聞こえては来るけれど、近くにはいない。それに数も一階に比べれば段違いに少ない。


「ボス部屋かな?」


 これまで見たことのない立派な扉だから、きっとそうだろう。

 腹ごなしを済ませ、ゲームを確認する。

 果樹が生っていると一日が過ぎたという判断だ。

 これでもう三回黄金サクランボを収穫したので、三日が過ぎたということになる。

 デザートの黄金サクランボを食べて能力アップ!


「よし、行くか!」


 兜を被って立ち上がると、扉の中に入った。


 ガチリ。


 背後で扉が閉まるとそんな音がした。

 試しに手をかけてみても開く様子がない。

 鍵をかけられたのか、それともこっちからでは開けられない仕様なのか。


「……もう逃げられないってことか」


 ずっとダンジョンに潜っていると恐怖が麻痺してくる。

 いつもの自分では考えられないぐらいにすっと覚悟ができて、盾とメイスをしっかり握った。


 広い部屋の中央には一塊の集団がいた。

 ゴブリンたちだ。

 ゴブリンジェネラルを中心にゴブリンソルジャー、ゴブリンアーチャー、ゴブリンシャーマンと、いままでに出会ったゴブリンたちが勢ぞろいしている。

 槍を構えたコボルトたちもいる。

 もうこれは、立派な部隊だ。


 いま着ている鉄の鎧もここに来るまでにそこそこに形が変わったけどまだまだ余裕がある。

 このままいつもの戦いを続けても問題……。


 あ……。


 そこで、思いついた。

 もしかしたら、思いついたらいけないことだったかもしれない。

 それはつまり、魔物の血を吸ってもスキルは手に入るのか?


 試してみる価値はあるかな?


 それなら『夜魔デイウォーカー』を使う。


 カチリ。



†††††



 くっはぁぁぁぁ……。

 やっと出番か。

 くく……前は緊急事態だったが今回はそうでもないな。

 魔物の血を吸ったらどうなるか、か?

 良いところに気が付くな。


「それならついでだ」


 吸血鬼の戦い方というものを教育してやろう。


「その前に……」


 なんだこの鎧は?

 邪魔くさい。


 ずるりと……鎧から抜け出す。

『血液化』という。『夜魔デイウォーカー』を使用中にのみ使えるスキルだ。

 それを使って鎧から抜け出す。

 だが、このままだと服も脱げてしまうから全裸になる。

 ゴブリンの一族ごときこの状態でも問題ないが、今回は教育が目的だ。

『血装』を使う。

 己の血を武器や防具とする、同じく『夜魔デイウォーカー』使用中のみのスキルだが、これで服を作る。


「さあ、これで……」


 と、こちらが準備をしていたというのに、無粋なゴブリンどもは遠慮なく接近し、俺に棍棒の一撃を見舞ってきた。

 他のゴブリンやコボルトたちも剣や槍を好き放題に突き刺してくる。


「……まぁ、落ち着けよ」


 他の生物なら即死間違いなしの状態だろうとも、俺なら問題ない。


「相手の準備中に襲い掛かるのは無粋だと習わなかったか?」


『血液化』で擦り抜け、すぐそばで再構築する。

 だが、剣や槍に流れ、奴らに飛び散った血はそのまま。


「そういうのは好かないね」


『血装』を使う。


 奴らに残っていた血が針となって突き刺さる。


「グッ」とか「ギャッ」とか悲鳴が上がるが、そんなチクッとしただけの傷みでこの攻撃は終わらない。

 針は牙に変わってさらに肉に食い込み、血を啜る。

 啜った血は牙の根元から宙へと飛び出し、そして俺へと向かって来る。


「わかるか?」


 俺は、この体の主人に話しかける。


「吸血鬼を腐肉野郎ども(アンデッド)に類別したがる馬鹿野郎どもがいるが、俺たちは違う。俺たちが操るのは命だ。俺たちは命の究極を目指す存在だ」


 瞬く間に干からびたゴブリンどもだが、すでに次なる攻撃がゴブリンジェネラルによって発せられ、ゴブリンアーチャーが矢を放ち、ゴブリンシャーマンが火矢の魔法を撃つ。


 矢が胸に刺さり、火矢が全身に火を走らせる。


「……まぁ、死ににくいからと回避を怠るのが俺たちの悪いところでもある。後、お前、ちょっとは魔法を覚えろ。そうすりゃ自然と、魔法に対抗する術も身に着く。で……」


『血液化』で矢を抜き、燃え盛っている部分を破棄しつつ、ゴブリンジェネラルたちのところへ肉薄する。

 正面を守っていたゴブリンソルジャーたちが慌てて身構えているが、そんなものは無視だ。


『血液化』そして『血装』


 この体の主人の異様な能力値を利用した疾走の慣性を利用し、全身を血液と変えたのちに血の薄刃に変化する。

 自走……いや、自飛するギロチンの刃だ。

 ゴブリンソルジャーはまとめて両断され、その奥にいたゴブリンアーチャーやゴブリンシャーマンも同様の運命を辿る。


「ゴブッ!」


 さすがに勢いが殺された。

 ゴブリンジェネラルの腹に食い込んだところで勢いが止まる。


「と、まぁ……いまのところはこれぐらいかな?」


 他にもできることはあるが、こいつら相手だと使う場面でもないな。


「俺が出て来なくても使いこなせるようになってな」


 そう言い残し、俺は腹を割かれて倒れているゴブリンジェネラルにとどめを刺すべく、一歩を踏んだ。




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