26 そして再びソロに……


 ミーシャの話を聞いてみると、一応、ちゃんとした理由はあった。

 手に入れたお金で新しい魔法を買うのだという。


 魔法を習得する方法は幾つかあるが一般人的な方法では二つある。

 師となった魔法使いに伝授してもらうか、買うかだ。

 どちらであってもその魔法の構成を魔法陣という形で頭脳に入力してもらうことになる。


 そういえば鑑定の魔法をファウマーリ様に授けてもらった時に魔法陣が光っていた。あれはそういうことだったのか。

 で、ここはミーシャにとってはアウェイな街だけれど、ダンジョンがあるということで魔法を研究する魔法使いギルドの支部がある。そこで新しい魔法を買いたいのだそうだ。


 で、ここからが問題。

 新しい魔法というのは、買ったからすぐに戦闘で使えるというものではないらしい。使う訓練をして初めて、戦闘で即座に発動させることができるのだそうだ。

 そのための訓練がミーシャのこれまでの経験上、七日、ということになる。


 そして神聖魔法の場合は神とどれだけ通じているかが新しい魔法を得る鍵になるそうなので、時間があるなら祈っていたいという。


 二人にとってはそれが普通。

 だけど、おっさんは知らなかったのでびっくりという。


 なるほど。

 王都の冒険者たちでも、よく戦士っぽい人と魔法使いっぽい人たちが口論している場面があるけど、もしかしたらこういう内容だったのかもしれない。

 他人事気分だったけど、もっと聞いておけばよかった。


 とはいえ、うーん。


 二人は修行のためにここに来ているのでお金儲けよりも新しい魔法を獲得できる機会にすぐに飛びつきたくなるのはわかる。

 わかるけど、それだと待たされている俺の立場は? ともなる。

 パーティになったんだからね?

 そこはある程度妥協してスケジュールの調整をすべきだと思う。


「ええ⁉」

「そんな……」


 俺がそう言うと、二人はあからさまに不満そうな顔を浮かべた。

 見た感じ二人は二十代には入っていないが十代後半の上の方……十八とか十六とかにはなっていそう。

 その年頃はこっちの世界では成人扱いされる年齢でもあるんだけど、なんとも子供っぽい。

 やっぱり、たくましさとか世間ずれという意味だと子供の頃から日雇い冒険者をしている連中の方がしっかりしていそうだ。

 だけど教育という面ではミーシャとシスの方がしっかりしているようだし、この点だけで良し悪しを判断するものでもない……か。


 とはいえ……。

 面倒になって来たな。


「わかった」


 折れることにする。

 どうせここに来た時にはソロでやるつもりだったんだし。

 やれるかもと思ったから来たわけだし。


「君たちとはこういう感じの、タイミングがあったときに一緒にダンジョンに潜る関係ということで」


 固定パーティではなく野良パーティに近い感じ。

 半野良?

 MMOだとよくあるけど、こっちに来てからは商隊護衛の人数合わせ以外でそんなの見たことないけどね。

 ああ、あとは大勢の冒険者を招集する大規模討伐があるかな?

 でもあれは野良狩りというよりはレイドという感じかな?

 やっぱりチームプレイを熟成させるなら固定されたメンバーによるパーティでないとそれは不可能ってことが重要なんだと思うけど。


「君たちがいない間も俺は勝手にダンジョンに潜るし、場合によっては次の君たちの都合がいいタイミングの時には、俺の方が都合悪くて断るってことがあるかもしれないけど、それでもいいね?」

「……ん、まぁしょうがいないね」

「わかりました」


 やや不満そうな雰囲気を見せたものの、二人は納得したようだった。


「じゃあ、次の時もよろしくね!」

「それでは」


 ミーシャはテンション高く、シスは小声だが礼儀正しく去っていく。


「はぁぁぁぁぁぁぁ……」


 二人を見送った俺は長くため息を吐くと一度自分の部屋に戻った。

 ちょっと自棄気味に黄金サクランボを食べる。

 十個まとめて口に頬ばる。


《ド、ドドドルドルドルドルドルドルルルルルル……》


 重なり合うドラムロールがやかましい。

 そして上がっていく能力値。

 だけど運だけは上がらない。


「俺のこの運って出会い運的な奴なんじゃないかな?」


 そんなことを思いながらゲーム内の日課を済ませると、再び部屋を出る。

 今度は歩いて街の門を抜けると、ダンジョンに潜った。


 このまま一人でいけるところまで行ってやる!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る