24 初めての仲間?


「あ、おじさん」


 朝。

 二度目のダンジョンに向かおうと宿を出たところで声をかけられた。

 あの女二人だ。

 ウィッチハットと、神官衣らしい白い服の二人組。

 見たまんまなら魔法使いと神官なのだけれど。


「昨日はありがとうね」

「…………」


 ウィッチハットの女が気楽な口調で言い、神官衣は黙って頭を下げた。


「……まぁ無事でなによりだね」


 そう言ってそのまま二人の前を去っていく。


「ちょいちょいちょい! おじさん!」


 と、ウィッチハットが追いかけてきた。


「おじさん。それはないよ。こんなに可愛い子が話しかけてるんだよ?」

「おかげで昨日はトラブったけどね」

「それはごーめーんー。でさ! 見てたんだけど、おじさんって強いよね? ねぇ、あたしらとパーティ組まない?」

「はぁ?」

「将来有望で可愛い魔法使いと神官だよ? 全力で守ってあげたくならない? ね? ねね?」


 ……それってつまり、俺に盾役をやれって?

 ああまぁ、スキルの挑発と倍返しがあるのはこういうことなのかな?


「ねね? どう? お試しだと思って今日だけでも⁉」


 両手を合わせて頼むウィッチハット。

 神官の方はぼーっとした様子で動かない。


 お試しか。

 はぁ……まぁいっか。

 それに女の子たちとパーティを組むという状況に男としてウキウキしているのも事実。


「はぁ、じゃあ……ちょっと待ってて」

「やった!」


 一度宿に戻る俺に、ウィッチハットが喜んだ。

 宿の部屋に戻ったのは装備を変えるためだ。

 ゲームを使っているところなんて見られたくないからね。

 槍を戻して……盾役ならやっぱり立派な盾はいるよね。鉄の盾にしよう。で、そうなると片手で槍はダンジョンだとちょっと使いにくいから振り回す系でメイスかな。

 鎧……まで変えてたらさすがにやり過ぎか。

 ゲームからメイスと盾を購入して装備。軽く構えたり振ってみたりする。

 うん、問題なさそうだ。


「うわっ。すごっ!」


 戻るとウィッチハットが大げさに驚く。

 神官も目を丸くしていた。


「そんなの持ってたんだ。やる気満々じゃん!」

「ははは……」


 そんな風に言われると照れる。


「ええと……まぁとりあえずよろしく。アキオーンだ」

「よろしくねおじさん! ミーシャだよ」

「シスです」


 ウィッチハットの魔法使いがミーシャ。

 寡黙な神官がシス。

 こうして、初めてのちゃんとしたパーティ(?)を組むことになった。


「さあ、ダンジョンにレッツゴー!」


 明るい彼女たちとともに冒険者ギルドからダンジョンへと向かう乗合馬車に乗る。

 自分の足で行くという考えはなさそうだ。

 そっかぁ、ないかぁ。

 とはいえ、他にもそう言った冒険者はたくさんいるようなので、これは普通のことなのかもしれない。


 馬車に乗っている間に軽く自己紹介をしあった。

 俺の話はすぐに終了。

 王都で子供の頃から日雇い冒険者してました。最近になって冒険者業を頑張ろうと思ってます。

 以上。

 語ることなんてほとんどないし、ゲームのことは話せないし。


「じゃあ、次は……シスね!」

「私ですか……? シスです。神殿で育ちました」

「はい」


 神殿でっていうことは、才能があったから引き取られたのか、それとも口減らしで神殿の下働きとして預けられて神官になったっていうパターンか。


「……以上です」


 まったくわからなかった。

 俺より短いとは。


「はい! じゃあ次はあたし!」


 シスのあの態度なのはいつもなのか、ミーシャは咎める様子もない。


「あたしはねぇ……」


 ミーシャは貴族の子女だった。

 とはいえ領地を持たない法服貴族という存在だ。官僚貴族とも言われている。国に多大な貢献をしたり、要職に就いた平民に授与される種類の爵位で一代限りの場合が多い。

 ミーシャの家は代々宮廷魔導師団に人材を派遣している一族なので、貴族としての歴は法服貴族の中では長いのだそうだ。

 ミーシャはそんな一族の分家筋の三女。そう聞くと一族内の地位は低そうだが、そうでもないそうだ。一族全体で貴族としての地位を維持しているので実力が物を言うらしく、そのためにミーシャもダンジョンで実戦経験を得たいのだそうだ。


「シスはねぇ。うちの家がある街の神殿にいてね。年が近いから友達になったの。魔法友達ね!」

「系統が違うんですが」


 確かに、魔法を研究対象として様々に扱う魔法使いと、神に授けられた魔法を人々のために使うシスとでは系統が違う。


 ちなみに、この世界の考え方では神に属する聖と魔の属性があり、他の属性はこの二つの衝突によって生まれているとされている。

 魔イコール邪悪という考え方はない。

 そうでないと魔法とか魔力とかあちこちに付いている『魔』という言葉を気軽に使っている理由にならない。

 魔、そのものは悪くない。

 だけど、属性としての魔には死や破壊、腐敗などのイメージが付いて回っているため魔属性の魔法……神魔魔法を使う者はほとんどいない。


「とはいえ、神魔魔法が司っているイメージって結局は攻撃に繋がる全ての魔法に宿るものであるわけだから、あたしたち魔法使いは遠回りながら神魔魔法を使っているっていう考え方もできるわけでね……」


 ちょっと頭の軽い子かと思ったミーシャがちゃんと魔法使い的な知識を披露したことに驚いた。


 そこまで話したところで乗合馬車はダンジョン前に辿り着いた。

 冒険者ギルド管理の乗合馬車だったから出る際の審査は免除されたらしい。なるほど、みんながこれに乗っていたのはそれが目当てだったのか。

 ただし、帰りは色々と戦果もあるだろうからそういうわけにはいかないそうだ。





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