23 初ダンジョン
《おめでとうございます。スキルゲット! 倍返しを獲得しました!!》
朝目覚めて気合を入れて黄金サクランボを食べているといつもの能力値アップに混ざってそのアナウンスが聞こえた。
名前:アキオーン
種族:人間
能力値:力85/体110/速45/魔40/運5
スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/瞬脚/忍び足/挑発/倍返し
魔法:鑑定
それにしても体が良く上がる。
これって体力なのかな?
防御力も関係してそう。HPMPの表記がないけど、鑑定を使いこなしているとその内表示されるのだろうか?
そんなことを考えつつ、支度を済ませて部屋を出る。
「おはようございます! ダンジョンですか?」
「ダンジョンです」
受付嬢にそう答えると登録証を確認してから通行証を発行してくれた。
ダンジョンはこの街の領主が管理していて、これがないと入れないそうだ。
発見済みのダンジョンはだいたいどこも同じらしい。
通行証は向こうの出入り口を管理する役人に渡し、出て来た時に返してもらう。
こうして、ダンジョンに入った冒険者を管理しているそうだ。
一月以上ダンジョンから戻ってこないと死亡扱いにされてしまうそうだ。
ダンジョンは街の外にある。
真新しい砦のようなものに囲われた中にある光の渦が入り口だ。
ダンジョンは様々な富をもたらせてもくれるが、崩壊という魔物を溢れさせる災害の危険もあるので、こういう形で管理していないといけないそうだ。
通行証を渡して砦を通り、恐々と光の渦の中へ……。
石造りの空間が目の前に広がる。
ついに来た。
いつか来てやるとは思っていたものの、来ると緊張で胃が重い。
なんだか場違いだと思われてそうと、入り口の広間で足を止めている冒険者たちの中をそそくさと抜けて奥を目指す。
あちこちで戦いの音がする。
俺の感覚が以前よりも鋭くなっているのもあるけど、石造りの通路で構成された迷路という形のせいか、音があちこちで反響しているからだ。
とりあえず先へ先へと進んでいく。
正しい道を進んでいるのかはわからない。
「そういえば、地図とか売ってなかったのかな?」
これだけ人がいるならそういう商売があってもよさそうなものなのに。
急ぎ過ぎてるかなと反省しつつも先へ進む足は止まらない。
「キキッ!」
やがてそんな声が聞こえて曲がり角から魔物が現れた。
ゴブリンだ。
前にも見た緑色の魔物は、外にいる連中よりもちゃんとした腰巻をして手にしている武器も鉄製のようだ。
見慣れたゴブリンで良かった。
向こうがこっちに気付く前に距離を取って槍を構える余裕があった。
ゴブリンの数は五体。
近づいて来る前に素早く叩きまくってゴブリンたちを倒すことができた。
「ふう……」
すぐに戦いが終わってほっとする。
ちょっと待ってみるとゴブリンの死体は消えてしまった。
代わりにそこには薄紫色の石が残る。
これが魔石。
色々と使い道の多いものだそうで、ダンジョンに入る冒険者たちはこれを集めて換金することが主目的になっている。
もちろん、奥へ行く実力者たちはその他にも様々な財宝や魔法の武器防具やアイテムを手に入れる好機がある。
さて、俺はどこまで行けるのか……あんまり無理しないぐらいに頑張ってみよう。
次の階層へ階段を見つけるごとに帰るためのポータルというものがあるのだというのを聞いていたので、今日は一階層が終わったところで帰ることにした。
広間の側にあるポータルに出てくるのだけど、そこから入ると前に使ったポータルの所に出られるらしい。
便利だ。
「ふう」
換金も終わって、いまは冒険者ギルドの食堂でご飯を食べていた。
ギルドの食堂はあまり種類がない。
その代わり、他よりも少し安い。
今日はスープとパン。
もぐもぐとそれらを食べながらダンジョンでのことを思い出す。
一階層ではゴブリンしか出てこなかった。
戦ったのは五回。
五体から三体の集団だった。
それらから手に入れた魔石を換金して3000L。
これをパーティで分けることを考えたら、一人で薬草を採っていた方がマシ。
やっぱり、どんどん下の階に行かないとダメみたいだ。
ただ今の感じだとしばらくはなんとかなりそうだから問題ないと思うけど……。
「ちょっと! いい加減にしてよね!」
「なんでだよ。前衛を探してたんだろ? 俺たちでいいじゃねぇか」
「うっさい黙れ」
「……消えろ」
「なんだとてめぇ!」
そんな感じの言い合いが聞こえてくる。
なんだなんだと見てみると、女性二人を囲んでいる男三人という光景があった。
気にしているのは俺だけじゃない。
周りの視線を集めたままギャアギャアと言い合いを続けている。
どうも、男たちは女たちを仲間に誘おうとしているみたいだ。
女二人は見た感じ、魔法を使う後衛職という感じ。
前衛をしてくれる仲間を探していたのだろう。
そこであの男たちが絡んできて、だけどいかにも別のことが目的ですみたいな顔つきを察して拒否しているという感じか。
大変だなぁ。
え? 見ているだけ?
うん。
だって怖いよね。トラブルって。
それにひどいことになりそうなら周りに人も止めるだろうしね。
別に俺が無理をする必要は……。
「たすけてください!」
ええ……。
そんなことを考えているおっさんの俺に女の一人が話しかけてきた。
「な、なんで俺?」
「あいつらしつこいんです!」
俺の訴えを無視して女は言う。
「おう! おっさん! なんか文句あんのか⁉」
「いやぁ……文句というか」
ああもう……しかたがない。
「なんだよ?」
男はでかい体を良いことに圧をかけてくる。
仲間の二人が囲んできた。
しかもこれ幸いと女二人が逃げた。
ひどいな。
もう。
「振られてるのにしつこいのはカッコ悪いですよ?」
あ、問答無用で拳を振り上げた。
そのまま振り下ろす?
でも、ちょっと遅い。
能力値が上がってるからだね。
ひょいっとかわす。
「っ!」
それに男は驚いているみたいだ。
「てめぇ……」
あ、避けられて怒った。
うーん。このまま喧嘩は嫌だな。
男が二撃目の拳。
やっぱり遅い。
今度は避けずに片手で受けとめる。
こういう時は握力だね。
「やめましょうよ。こういうの。みんなお腹空いてるんだし」
「あっ! がっ!」
拳に指が食い込んでいく痛みに男が堪えきれずに声を漏らす。
「てめぇ!」
ガン!
後頭部に衝撃。
後ろに回った仲間がイスを頭に叩きつけてきた。
「……痛ぁ」
「ぎゃあっ!」
痛い。
思わず拳を握っている手に力がこもるぐらいに痛かった。
おかげで手の中でボキボキって音がした。
たぶん、骨が折れた。
相手の。
「な、なんだよお前」
イスで叩いた方が驚いている。
もう一人は? あ、腰の剣に手をかけてる。
さすがにそれは喧嘩の範疇じゃないって判断なのか、周りで様子見中の冒険者たちの気配が鋭くなった。
「うっ……」
それに気付かないほど、この三人も鈍感じゃなかったみたいだ。
「くそがっ!」
そう吐き捨てて去っていく。
去っていくなら止めないから、俺も拳から手を離す。
ええと……。
女たちは逃げてるし、なんだか俺も注目されてるし。
「……それでは」
仕方ないので俺も食堂から逃げ出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。