21 腰が重い


 あれからしばらく……。

 薬草を採りに行ったり、いつもの子たちから買ったり、ポーションを作ったり、商業ギルドで果物を売ったりした。

 たまにフード娘たちの様子も見る。

 彼女らは書写だけじゃなくて他にも室内で出来る仕事を見つけて来てはそれをこなしている。

 あまり宿から出ていないようで日に当たらない生活をしているのが心配で、前の時のように果物を差し入れするようになった。


 気が付くとそういう生活を繰り返していた。

 おっさんの時間の流れって、油断すると一瞬だよね。


 ダンジョン?

 興味はあるけど腰が重いのです。

 俺が悪いのか、それともおっさんだからか……新しいことをするのって億劫だよね。

 商隊護衛なんかはやったことがあるし、卵のお使いの件は逆らいようのない方からの圧力があったり、賞金の件はさっさとあの首を片付けたかったっていうのがあったから割かし早く動けたけど。


 こう、背中をせっつかれないとなかなか難しかったりね。


 それでも、クエストの物品の情報を集めようとしたことはあるよ。


 冒険者ギルドと商業ギルドで。

 トレントの木材は貴族や金持ちの屋敷の建材に使われることがある高級木材だけれど、物が物だけに持ち帰るのが大変なため、あまり市場に流れることはない。必要な時にはそれ専用のチームが作られるのだそうだ。


 酔夢の実の方はたまに冒険者がダンジョンから持ち帰ることがあるけれど、いま王都の市場にはないそうだ。


 で、どちらも手に入るだろうダンジョンというと西の街だそうだ。

 そう。ポーション需要が上がったっていう、あのダンジョン。


「行くんなら、冬になる前だよなぁ」


 朝の冷気が心地良いのレベルを超えそうだ。

 吐く息がわずかに白くなったのを見て思った。

 あとちょっとって思っていると、このまま冬を超えそうだ。


「……よし」


 どうせ、どこに行ったってやることはそう変わりない。

 行くと決断して動くとしよう。

 そうと決めたらまずは商業ギルド。

 葡萄の時期は終わったので桃を収めつつ、リベリアさんに報告。

 ちなみに桃は一個1000Lで売れている。

 ここら辺だと見ない珍しい果物だけれど美味しいので様子見の値段だそうだ。

 後、葡萄よりも傷みやすいので輸送が難しいのも値段が上がりにくい理由だそうだ。


 ゲームの中だと年中採れるとか腐らないとか、本来の季節感的にいま桃ってどうなんだ? とか色々あるけれど、この辺りだとメジャーじゃないのでそれで良しということで。


 さっきの季節感の話だけど、こっちの世界的に新鮮な果物が出回る時期も終わるので、ダンジョンに行くのもちょうどいいのかもしれない。


「そうですか」


 リベリアさんも残念そうだけど、やはりその辺りの理由があるからか引き止めてくれたりはしなかった。

 いや、リベリアさんと個人的なあれこれがあったりしたわけでもないので、引き止められても……ねぇ。


「またリンゴの時期には戻りますよ」

「わかりました。お待ちしていますね」


 にっこりと微笑まれて送り出された。

 後は冒険者ギルドで長期移動の手続きをしたり、いつもの子供たちに移動を伝えたりする。フード娘たちにもいつもより多めにリンゴを上げて、たまには日に当たるようにと言ったりした。

 それで終わり。

 長年王都で暮らしてきたはずなのに、それぐらいしか人脈がないというのが悲しい。


「まっ、そんなのはいまさらか」


 前のはバンに壊されたので新しい皮鎧を着て、槍を担ぐ。

 後は背負い袋。

 それだけでそのまま王都の門を抜ける。

 最初は乗合馬車を考えていたけどやめた。

 たぶん、自分で走った方が早い。


「さて、後はこの道を進むだけ」


 普通に歩いたら二週間。乗合馬車を乗り継いで五日ぐらい……だったか?


「どれだけ短縮できるか、やってみようか」


 自分でテンション上げること言わないと、ほんとうにやる気がでない。

 だっておっさんだから。


 ちょっとずつ足を速めていって、王都が見えなくなる頃には全力で走ってみた。

 もうこうなったら進むしかない。

 さあ、がんばれおっさん。




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