19 クエスト発生


 リベリアさんへのお願い事というのはバンの子供がいるという孤児院のこと。

 名前もわかっている。どこの孤児院かも。

 なのでそのティナという子がいる間だけ、孤児院に出資することにした。

 とりあえず、賞金から百万Lをそっちに回す。どういう風に出資するかは商業ギルドの人に任せることにする。

 いきなり全部孤児院に預けてもいいけど、たぶんそんなことしてもお金の使い方がわからなくて無駄にする方が多そうだ。


 それを受けてくれる代わりに賞金の内三百万Lをリベリアさんの勧める資金運用に回す。

 残りの百万Lは現金でもらってゲームにチャージする。


 さて、今日は早めに宿に入った。

 ちょっと気になる事があったのだ。


 部屋に入ってから自分に鑑定をかける。



名前:アキオーン

種族:人間

能力値:力45/体70/速23/魔20/運3

スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/瞬脚/忍び足

魔法:鑑定



 黄金サクランボは毎日食べているから能力値が上がっているのは別におかしくない。

 問題は、スキル。

 いつ、増えた?


 色々考えて、もしかしてと思ったのはバンともう一人。

 あの二人から吸血したときにスキルを奪った?

 可能性としてはそれぐらいしか思いつかない。


 だからと言って『ちょっと試してこよう』とはできないから、またそういう危険があったときまでは放置ということになる。


「……ラッキーぐらいに思っとこ」


 そういうことにしておく。


 なにか食べて寝ようかと思っていたのだけどなんだかちょっと目が冴えている。

 なんだろうか?


「なんだか肌がピリピリしてるみたいな?」


 緊張してる?

 よくわからないけれど眠れない。


「こういう時は酒かな」


 久しぶりに酒場にでも行ってみようと部屋を出る。

 そこまで好きじゃないのもあるが、そもそも金がなかったのでそんなに飲む機会もなかった。


 宿屋を出て少し歩けば酒場がある。

 お客がいっぱいだったけれど、なんとかカウンター席の端っこが開いていたのでそこにこそこそと座る。

 ハーブたっぷりの腸詰肉と果実酒でちまちまと飲む。


 なんだかやっぱり落ち着かない。

 こういう時はなにか別のことを考えよう。

 久しぶりの酒は美味しい。

 地球で飲んでいた酒の方がもっと磨き上げられた味がしていたとは思うけれど、それももうかなり記憶が怪しくなっていたりする。


「う~ん、酒、酒かぁ……」


 果実酒。

 そういえば、ゲームの中も果実類が色々溜ってるな。

 以前はゲーム内の金策のために商店で売っていたけれど、いまはこっち側で売れるからと溜め込んでいる。

 とはいえ、俺が週一ぐらいで売っている量ではぜんぜん消化できていない。むしろ増える一方だ。


「う~ん、売る量を増やせばいいんだろうけど」


 希少性が崩壊して値崩れが起きたり、そもそも運搬方法を疑われたりするのが面倒なので売る量は増やしたくないという考えはいまのところ崩れていない。

 余っている分はやっぱりゲーム内の商店で売っておくか?

 ゲーム内のお金が少なくなるのも嫌だから、なるべくトントンになる感じでやっていきたいし……。


「……ん? 酒?」


 そうか。酒にする方法があればいいんだけど。

 でも、ゲームでは酒は造れないしなぁ。


 なんて……思ったからなのか?


《ピコーン! クエストが発生しました》


 いきなり、そんな音が脳内に響く。


《クエスト『酒造方法を探せ!』が発生しました。役所で内容を確認してください》


 いきなり、そんなのが出てきた。


「えー?」


 こんなところでコントローラーを出して『ゲーム』を起動するわけにもいかない。

 落ち着かないのは相変わらずなのでさっさと腸詰を果実酒で流し込んで店を出た。

 そのまま宿にまっすぐ向かう。


 いつも使う宿は安宿だし、周りも同じぐらいの連中が使うような場所だからかこの区画は街灯がない。

 辺りは真っ暗だ。

 それでもどこも入り口にカンテラをかけるぐらいはしているから、目印程度には明かりがある。

 だけどそれだけ。

 他には何も見えないに等しい。


 普通の人にとっては。


「うひっ!」


 建物の隙間からぬっとあらわれた人影が、そのまま俺に近づいてくる。

 その手には抜き身の剣が握られていた。

 夜魔デイウォーカーのおかげだと思うけど、暗い所でも視界には困らなくなっているからわかったけど、そうじゃなかったらもっと反応が遅れていたはずだ。


 慌てて跳びさがると、いままでいた場所を剣が縦に通り過ぎた。


「ちっ!」


 通り魔が舌打ちする。


「な、なんだあんた!」

「うるさい! 貴様のせいで!」

「え? あんた……」


 あ、こいつ。

 冒険者ギルドで会った、あのお嬢さんに付いていた騎士だ。

 俺が出したバンの首を疑って文句をつけて、お嬢さんに怒られていた。


「もしかして、本当に置いて行かれた?」

「黙れ!」

「ひぅっ!」


 横薙ぎの剣をしゃがんでかわす。


「こうなったら、貴様から金を奪ってあんな国、捨ててやる!」


 騎士の発言じゃない!


「冗談じゃない!」


 ぐるぐる視線を動かして、通り魔騎士が隠れていた建物の隙間が目に入る。

 そうだ、あそこに……。


「あっ、待てっ!」


 横を抜けて建物の隙間に潜り込む俺を通り魔騎士が追いかけてくる。

 うん、それでいい。


『忍び足』と『瞬脚』を使って、上に跳ぶ。


 隙間に飛び込んだ通り魔騎士は俺の姿が見えなくて慌てて、さらに奥に入り込む。

 その背後に着地した俺は『忍び足』のまま接近して……。


『夜魔デイウォーカー』を使う。

 膨れ上がった牙を、そいつの首に……。


「なっ!」


 それが、そいつの最期の言葉だった。




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