17 反省会と竜王
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
バンの首を前にして心の悲鳴が止まらない。
彼を殺してしまったことへの後悔ではない。
『夜魔デイウォーカー』の凄さに驚いているわけでもない。
いや、驚いているけど、声が止まらないのはそういうことでもない。
なに、あの性格。
あの言動。
なんであんなに悪ぶっているんだ?
どうして?
わけがわからない。
悪役中二病ロールプレイとか、どうして……どうしてこんなことに!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
…………と。
「はぁ……よし、反省終了」
長くため息を吐いて四つん這いの姿勢から立ち直る。
おっさんは自分の恥への耐性もできているのだ。
「さて」
目の前にはバンの首がある。
それ以外の部分はもう一人と同じ泥のような物になって崩れてしまった。
死体が残らないのがなぜなのか不思議だ。
吸血鬼が血を吸ったら吸血鬼に感染するんじゃなかったのだろうか?
その疑問はともかくとして、バンの首は残った。
「これで五百万Lが手に入るのかな?」
バンが本当に手配されていたのなら、だけど。
とりあえず運ばないとだけど、このまま持ち歩いていたら腐ってしまう。
こういう時は塩漬けとかするんだっけ?
だけどそんな大量な塩はないし、もっといい方法がある。
『ゲーム』を起動。
キャラクターを操作して交易所でバンの首を購入希望商品にすると、向こうに持って行けるのだ。
データとして保存できるので腐敗もない。
果樹園や畑から採った果物や野菜がいつまでも腐らないのと同じ理屈だ。
ああそうだ。
ついでに、これを取り出しておこう。
同じような理由で安全のためにゲームの中に入れておいた竜の卵を取り出す。
ポンと出てきたそれは両手で抱えないといけないほど大きい。
高さも腹の下から胸の辺りまである。
ずっしり重い。
これを運ぶためにあの大きな背負い袋が用意されていたけれど、運んでいる途中に転げたらなんてことを考えたら怖くてこうしてしまった。
とはいえドラゴンロードの前で自分のスキルを見せるようなこともしたくないし、そもそものんびりとやらせてくれるかもわからないし、ついでに俺の度胸や精神力でドラゴンロードの前でそんなことをできるかどうかもわからない。
ここからは自力で運ぶとしよう。
……と、思っていたのだけど。
「あれ? 雲?」
いきなり周囲が暗くなったので、雨雲でも流れてきたのかと思って上を見ると……。
そこに竜がいた。
巨大な竜だ。
大きく広げられた翼が空を覆って陽光を遮っている。
これはきっと、ドラゴンロードに違いない。
こんな大きな存在と祖王は戦ったのか。
怖ぁ……。
無理無理無理。そんなの俺には無理だ。
茫然と立ち尽くしていると、ドラゴンロードは俺の前に着地した。
「ア゛ア゛……人間よ」
喉の調子を見るように声を放つと、いきなり流暢に話しだした。
「それは我らの卵だ」
「…………」
「おい」
「あっ! はい!! その通りです! ファウマーリ様の使いで参りました!!」
「うむ。あの王の娘だな。約束通りだ。ご苦労である」
「あ、は、ははぁ……」
「では。これよりは我が引き受けよう」
ふわりと、いきなり俺の腕の中から卵が抜け出した。
念力? テレキネシス?
「では、さらばだ!」
ドラゴンロードはあっさりと俺の前から去っていった。
いや、それでいいんだ。
ほっとした。
“ああ、そうだ!”
「うひゃぁぁぁ!」
いきなり頭の中に聞こえて来た声に驚いた。
「ド、ドラゴンロード様?」
“うむ。一つ、答えをやろう”
「答え?」
“そなたが血を吸った相手が泥のようになったのはな。王の因子を継ぐ器ではなかったからだ。そんな者ほとんどいないが、もしも形を残す者がいた時は気を付けるのだな。奇妙な夜の王よ”
うあぁ……。
ということはここで起きたことはちゃんと見られていたってことか。
“この答えが忌々しい盗人を屠った褒美だ。では、今度こそさらばだ”
「…………」
しばらくじっとしていたが、もうドラゴンロードの声が頭に響くことはなかった。
「ほっ……」
それにしても『忌々しい盗人を屠った』って。
もしかして、バンかもう一人の方が、ドラゴンロードから卵を盗んだ犯人だったってことか?
まぁ、とにかくもう帰ろう。
走って帰ろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。