13 到着


 初日の襲撃があったからか警戒に気を張っていたけれど、結局それからはなにもなく目的地の街に到着した。

 荷物はその街にあった商店の中へと収められた。

 それを確認して依頼は完了となる。

 依頼完了の札をそこでもらい、冒険者ギルドに報告する。報酬はそちらに預けられているので、ここではもらえない。


「なぁ、アキオーン」


『風切り』の連中と冒険者ギルドに移動しようとしているとウィザーに声をかけられた。


「今日は泊まるだろ。どうだ、一杯?」

「いや、悪いけど。やめとくよ」

「そうか」

「うん。悪いね」

「なぁ、俺たちのこと恨んでるか?」

「そうだね。昔はね」


 不意に聞かれた質問に、自分でも驚くほどするりと答えることができた。


「そうか」

「いまは会わなければそれでいいよ」

「わかった」


 すぐに話を終わらせて、先を行った『風切り』を追いかけた。

 冒険者ギルドで報酬を分けてもらう。

 基本報酬9000Lに危険手当5000Lが足された。

 14000Lの儲けだ。

 帰りの三日分も考慮すると一日2300L前後の稼ぎ。

 薬草採りよりは儲かるけども、危険なことを考えると薬草採りを続ける方がいいような気もする。

 いや、そもそも冒険者が本気で儲けようと思ったら魔物退治かダンジョンに行くしかない。


 このまま商隊護衛を繰り返しながらダンジョンのある街に向かうという『風切り』と別れ、俺は冒険者ギルドを出ようとした。

 最初は王都に戻る際になにか依頼を探そうと思っていたのだけど、ウィザーに会ったせいでその気も失せた。

 焦って依頼を探さないといけないほど困っているわけでもないのだから、このまま乗合馬車でも見つけて帰ろう。

 そう思っていたのだが。


「あの、アキオーンさんですか?」

「はい?」


 冒険者ギルドを出てすぐのところで声をかけられた。

 振り返ると受付の制服を着たお姉さんが、息を弾ませてそこにいる。


「えっと……はい。アキオーンですが?」

「ああ、よかった。ちょっとよろしいですか?」

「え? あの?」

「お願いします。本当に」

「え? なんですか⁉」


 よくわからないままお姉さんに引っ張られてギルドの中に引き戻された。

 それだけでなく、職員しか入れない通路に案内されて、なんだか立派なドアの前に立たされた。

 受付嬢のお姉さんがノックをすると「入れ」と太い声が聞こえて来る。

 なんだろう? 何か悪いことをしただろうか?

 ドキドキしながら室内に入る。

 受付嬢は入らず、ドアは無情に閉じられた。


 広い部屋の奥には立派な机を中心とした執務空間があり、その手前には向かい合ったソファが置かれている。

 そのソファの奥に一人、座っている。


「おお、来たな」


 口に出そうになった「うへっ」という悲鳴をなんとか飲み込む。

 とはいえ表情までは誤魔化しきれない。

 俺は、引きつった顔でソファに座っているファウマーリ様を見た。


「なんじゃその顔は?」

「は、はははは……ファウマーリ様こそ、どうしてここに?」

「うむ、とりあえずはここに座れ」


 そう言って対面のソファを示される。

 ファウマーリ様の側には怖い顔の男が立っている。

 他には誰もいないので「入れ」と言ったのはこの人物だろう。


 男がじろりとした視線でずっと俺を見ている。


「大公閣下、本当にこの男に?」

「うむ、適任であろ?」

「私にはそうは見えませんな」


 そんなやり取りをしている。


「なにをしている? 早う座れ」

「は、はい」


 圧に負けてその場に立ったままでいるとファウマーリ様に促されたので慌ててソファに座った。


「まぁ、これは妾の主導じゃ。人選も任せよ」

「……わかりました」

「あの……なにを?」


 なにか、すごく怖いことが自分の理解の外で進行しているのだけはわかる。


「アキオーンよ。お前にな、ある物を運んでもらいたい」

「は?」

「大事な物じゃ。丁重に運べ」

「え? あの……なんで……俺……ですか?」

「うむ。まぁ技術はいまいちだが、能力は見るものがあるからの。お前は」

「うっ……」


 これは夜魔デイウォーカーのことだけではない雰囲気だ。

 きっと、黄金サクランボを増やして食べていることを見越している気がする。


「ああ、そうだ。仲間を引きこんだりはするな。一人で運べ」

「え? そんな!」


 当てなんてないけれど、一人でやることを強制されて思わず反論してしまった。


「できるじゃろう? そなたなら」

「できないですよ!」

「いいや、できる」


 動揺する俺を放置して、ファウマーリ様は断言する。


「やってもらわねばならん」

「うっ、でも……」

「貸し一つ」


 ファウマーリ様が指を立てる。


「あったじゃろう?」

「ううっ」

「お前は妾の頼みを断れんのじゃよ」


 ニヤリと笑われて、俺はがっくりとうなだれた。




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