12 護衛の戦い


 当たった。

 倒せた。

 実は魔物を倒したのはこれが初めてだったりする。

 冒険者歴二十年以上で初めての魔物退治。


 なんて感慨に浸ってる場合じゃない。


「気を抜くな!」


『風切り』のリーダーの声とともに正気に戻り、槍に刺さったゴブリンを足で押さえてから引き抜く。

 ゴブリンはすでにたくさん近づいて来ていた。


「突くより叩け!」


 リーダーの声で、講師も同じようなことを言っていたと思いだした。

 なにかに刺さって身動きが取れなくなるぐらいなら叩きまくれと。

 脳内の言葉に従って叩いたり振り回したりする。


「ゲグッ!」

「ギャッ!」


 頭を叩かれ、首を払われたゴブリンたちが倒れていく。

 そのあまりに簡単な結果にびっくりしていると、他のゴブリンたちの動きが鈍くなり、俺に近づくのを止めた。

 足を止めたゴブリンたちが横からの衝撃で倒れていく。

 矢だ。


「はい、お待たせ」


 射手の彼の声が届いた。


「大活躍だねおっさん。僕がとどめを刺すからそのままがんばって」

「他の人は?」


 意外に戦えている自分にびっくりしているけれど、話をしたら弱気が顔を覗かせた。

 だというのにがんばれ? 話が違う!


「ちょっと、大騒動みたいだから。ここは僕らががんばらないと報酬ももらえなくなるよ」

「はぁ⁉」


 どういうことなのかと思ったが、目の前のゴブリンたちから目を離すこともできない。目の前に現れてしまったら、もう他を気にするなんてできない。


「くそう! もう! えい! この!」

「はは! おっさん、すごいすごい!」


 射手の彼に褒められながら戦っていると周りからゴブリンがいなくなった。


「はぁはぁ……」

「おっさん、悪いけどまだ休めないよ」

「ええ⁉」

「ほら、戻って来て荷馬車を守って」


 言われた通り荷馬車に戻ると、そこら中が大騒ぎだった。

 夜の休憩場をゴブリンの集団が暴れ回っている。

 とはいってもどこにも護衛がいるし、ゴブリンは弱い魔物だから苦戦している様子はない。

 けれど、いきなりの大量の出現に混乱はしている様子だった。


「おっさんおつかれ」


 こちらの荷馬車に近づいてくるゴブリンを切り払いながらリーダーが近づいてきた。


「おっさんのおかげで、こっちは早くにまとまることができた。このままなら被害なしだ」

「こんな襲撃は初めてですよ」

「俺もだよ」


 護衛歴はそれほどでもないが、ゴブリンの襲撃なんて多くて十体ぐらいだ。

 なのにこれは、どう見ても十以上……もしかしたら百とかいるんじゃないかと思うぐらいにいる。


「確かにおかしいんだよな」


 リーダーも気にしている様子だ。


「おっさん、こうなったら危険手当もしっかり五等分だ」

「ええ⁉」

「ゴブリンだけじゃなく、他にも気を付けて見ててくれ」


 そう言ってリーダーが近づいてくるゴブリンに対抗するべく離れていく。

 ゴブリンだけじゃなく?

 つまり、何らかの作為を感じているってこと?


 なら、なにか狙いがあってこうしたっていうことだけれど。


「おい!」


 それはウィザーの声だった。

 驚いてそちらを見ると、荷馬車の中に入り込もうとしていた誰かを見咎めている。

 俺がいた後ろ側からではなく、御者側の方から。


「ぐあ!」


 次に聞こえたのはウィザーの悲鳴だった。誰かはウィザーを押し退けて荷馬車の中に上がり込んだ。

 反射的に、俺も荷馬車の中に入った。


「そこで止まれ!」


 槍を構えて叫ぶ。


「…………」


 そいつは顔を隠していた。

 ターバンみたいな布でぐるぐる巻きにして目だけ出している。

 あちこちに火があるとはいえ、幌の張られた荷馬車の中まではなかなか届かない。相手の姿はほとんど影に呑まれている。

 こんな状態だと相手の動きに反応できるかもわからない。

 どうする?


「ちっ」


 影の中から舌打ちが聞こえた。

 瞬間、相手は身をひるがえして荷馬車から飛び出していった。


「大丈夫か?」

「あ、ああ……」


 戻って来る様子がないのを確認してウィザーに声をかける。

 見ると怪我をした様子がない。


「足がないから舐めたんだろうな。蹴られただけだ。へっ」

「それはよかった。それにしても……」


 と、俺は荷馬車にたった一つある樽を見た。


「あの男、あれを盗むつもりだったのかな?」

「……そうだろうな。中身は教えられないぞ。ていうか俺も知らん」

「知ったら厄介事に巻き込まれるだけだろ。知ってるよ」


 思ったより変な依頼に巻き込まれたのかもしれない。

 とはいえその夜はそれ以上のことはなく、ゴブリンの集団は退治された。




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