07 黄金の木の実の効果
それからまた一週間が過ぎた。
商業ギルドでリンゴを卸してリベリアさんのクールな美貌を堪能する。
それから二日に一度ぐらいの頻度で下級回復ポーションを冒険者ギルドで売る。
売る時にはこの前と同じように薬草をフードの子たちや子供冒険者たちから買うようにしている。
儲けはさほどではないけれど、下級回復ポーションを売るととても感謝されるので止められない。
それ以外の日はなにをしているかというと、冒険者ギルドの訓練場にいた。
ギルドの裏手にある空き地がそう呼ばれており、冒険者たちが個人で訓練をしたり、あるいはお金を払って戦い方の講習を受けたりできる。
なのでいまはここで練習に勤しんでいた。
講習は昔受けているので、それを思い出しながら練習用の棒を振ったり突いたりしている。
あの時習ったのは野外での戦い方だ。
槍で距離を取った戦いに徹し、潜り抜けられたら槍は諦めてナイフや小剣に切り替える。
教えられたのはあくまで時間稼ぎの戦い方だ。
「ふう……」
へっぴり腰で的に向かって槍を振るのもなかなか疲れる。
「ようおっさん」
「ああ、こんにちは」
端に座って休んでいると戦闘講習を担当しているギルド職員に話しかけられた。
彼は元冒険者で片目を負傷で失って引退してからここで働いている。
俺よりも若いけれど冒険者にはこういう引退もあり得る。
「最近調子がいいんだって?」
「あはは、まぁ……」
「ポーションを作れるようになったんなら外に出る必要もないだろ? ガキから薬草買ってポーション作る。いい商売じゃないか」
子供たちから薬草買っているのもばれていた。
まぁ、後ろめたいことではないので別にいいのだけど。
「なんでいまさら武器まで覚える?」
「まぁなんていうか……若いころの気持ちを少し思い出したので」
「ぶっ……わははははははは!」
「笑うことはないだろう」
「いや、悪い悪い。でもま、嫌いじゃないが無茶はするなよ」
「わかっているよ」
少し気恥ずかしくなりつつも、むくれるのも年甲斐もない。
そう思っていると訓練所に誰かが入って来た。
見たことのない連中だった。
年若い女性を中心にした五人組のパーティだ。
女性の整った顔が目を引く。
「あの連中は?」
「さあな。新顔だろ」
講師の彼が知らないのだとすれば本当に新顔なのだろう。
女性冒険者は多いが、だいたいは日雇い働きのために登録しているだけだ。
彼女のように腰に剣を佩いた堂々とした出で立ちというのは珍しい。
服装が見るからに金がかかっている。
先日に見たファウマーリ様のことを思い出し、もしかして貴族の令嬢なのだろうかと思った。
周りの仲間たちも彼女ほどではないにしろ装備の質が高い。
というか、全員が鎧を身に纏い剣を佩いている。
少々、バランスが悪い。
冒険者をしに来たわけではないのかもしれない。
「まぁ俺には関係ないか」
なんとなく気が失せたので、今日はそのまま冒険者ギルドを出た。
風呂屋に行って汗を流す。
風呂と言ってもサウナ風呂だ。体に張り付く湿気と一緒に汗を流してさっぱりしてから宿に戻る。
「おっさん!」
今日は夕食をどうしようと考えているといつもの子供たちが話しかけてきた。
「今日は買い取ってくれないのか?」
「ん、ああいいぞ」
とはいえいつもは森の近くで受け取ってそのまま森で隠れてすぐにゲームに入れていた。
街中でそんなことはできない。
「だけどいま袋を持ってない。宿まで付いて来るならな」
「あの安宿だろ? いいぜ」
リーダー格の彼を見ていると昔一緒にいた仲間のことを思い出す。
自分の苦い記憶を思い出しつつ、この子たちは全員、ちゃんと冒険者として成功して欲しいなとか考えてしまう。
そんなことを考える余裕ができている自分にむず痒さも覚えつつ……偉そうなことを言っているが、自分だってまだ安宿暮らしだと自戒する。
急な変化で自分の気持ちが騒がしすぎる。
もっと落ち着かないと。
子供の時のような若い気持ちを思い出しているからと言って、行動や思考を感情に左右され過ぎているのは大人らしくない。
宿で薬草を受け取って子供たちに別れを告げる。
彼らは個人部屋ではなく大部屋を借りている。
そろそろ武器を見繕えそうだと彼らは嬉しそうに話していた。
100Lばかりの得とは言え、彼らの夢に貢献できているのだと考えるとやはりうれしい。
俺も負けていられない。
すぐに『ゲーム』を起動して薬草をそちらに移すとポーションをクラフトする準備に入る。
畑の一角を植え替えて定期的に薬草を二十個採れるようにしたので、そちらも回収してからクラフト。
「……いまから食べに出るのも億劫だな」
ゲームの中から取り出すか。
なにを食べようかと考えつつ作り置きしている倉庫を確認しているときにふと思い出した。
そういえば、ファウマーリ様に貰った木の実はそろそろ実っているのではないだろうか?
果樹園に移動して確認すると、できていた。
「実ができるまで一週間か。最長だな」
立派な大樹に三つの木の実が成っている。木をゆすって実を回収して、交易所へ。
「念のために一つは残しておくとして……」
二つ購入。2L也。
黄金のサクランボが二つ。
「金……玉……」
ふっと、どうでもいい下ネタが頭に浮かんで来た。
「いやいや……」
頭を振って、いざ実食。
口に含んでみると中に種がなかった。少しカリッとする食感で、口の中に芳醇な甘さが広がり、アクセント程度の酸味が走る。
前世で食べたもらい物の高級サクランボを思い出した。
「美味い」
ただの美味しい木の実だったかと思いつつ二つ目も口にいれる。
味だけで言えば葡萄と桃の方が美味い。
……と。
《ドッドルルルルルルルルルルルルルルルル……》
「な、なんだなんだ!」
いきなり頭の中でドラムロールが鳴り響いた。
しかも輪唱のような感じで二重で聞こえる。
頭を押さえて我慢していると、最後に破裂音が二つ聞こえ、そしてファンファーレもまた二重で聞こえた。
《おめでとうございます。ステータスアップ! 力+1をゲットです!》
《おめでとうございます。スキルゲット! 夜魔デイウォーカーを獲得しました!!》
そんな声が頭に響いた。
俺は、しばらく茫然とした。
能力が上がったのは、いい。
いわゆるドラクエの○○の実みたいなものだったということだから。
それを増やす手段を手に入れたのだと考えると、すごくラッキーだ。
でも……。
二つ目の声はどういうことだ?
「や、夜魔デイウォーカーって……」
なんか、聞いたことがあるな。
デイウォーカー?
ちょっとマイナーな感じの呼び名。
なんの作品だったかな?
そうそう……『ブレイド』とか『吸血鬼ハンターD』とか……。
「吸血鬼……」
その言葉が繋がったからなのか、それともスキル名を口にしたからなのか……。
口の中に違和感が生まれて手を当ててみると、犬歯が立派な牙に成長していた。
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