04 ポーションを売ってみた


 次の日、ポーションを持って冒険者ギルドに向かう。


「おや、朝から買取ですか?」

「ええまぁ」


 暇そうにしている買取コーナーのお姉さんの前に箱に並べた下級回復ポーションを置く。


「これの買取をお願いします」

「……回復ポーションですか?」

「ええ」


 買取コーナーのお姉さんは何度か見たことがある。

 俺が薬草以外を売りに来たことが珍しいのだろう。


「鑑定させてもらいますよ」

「はい、どうぞ」


 買取コーナーには特殊な鎖で繋げられた鑑定用の魔法具がある。

 モノクルのようなそれでお姉さんはポーションを一本一本確認していく。


「はい。確かに下級回復ポーションです。一本300L。九本で2700Lですがよろしいですか?」

「はい、それで」


『ゲーム』で買う下級回復ポーションが二倍で売れるってことだな。つまり儲けは一本で150L。

 今回は1350Lの儲け。

 うーん、薬草を採る苦労を考えたらそんなに儲けていないなぁ。

 ゲーム内の畑を完全に薬草にしたら儲けも出るだろうけど。

 いまのところ畑で作ってるのって普通の野菜だし……野菜も売ってみるか?

 野菜……自分で料理すれば食生活も改善できるのか。

 でも、調理場を手に入れるのがまずなぁ。

 ああ、いやそれよりも……。

 でもあれもあれで問題があるか?


 あ……。

 思いついた。


「おじさん、名前なんでしたっけ?」

「え? アキオーンだよ」


 思わず考え事をしてたら買取コーナーのお姉さんに話しかけられた。


「アキオーンさん、錬金術師になったんですか?」

「あ、はは……まぁこのポーションの作り方だけ、偶然知ることができて」

「素晴らしいです。ずっと冒険者ギルドに通われていましたもんね。やっと努力が実られたんですね」

「は、はぁ……」


 そう言われるとちょっと後ろ暗いような。

 いや、この世界、スキルは普通にあるんだから、俺のスキルがちょっと特殊なだけだから……。


「いま、西の街のダンジョンが人気だからポーション需要はすごく上がってるんですよ。作られたらまた持って来て下さいね!」

「それって……いくらでも?」

「はい!」


 そう言って、2700Lの乗ったトレイを俺の前に差し出しながらお姉さんが明るい笑顔を向けてくれる。


 またポーションを持って来よう。


 おっさんはちょろいのだ。


 回復ポーションを量産しようと心に決めて街を歩く。

 となると薬草をたくさん手に入れる手段が必要だ。

 ゲーム内の畑を全部薬草に変えてみるのもいいけど、まだ薬草が育つって結果が出たわけじゃないし。


 だとしたらとりあえずは。


「人手を確保しないといけないわけだけど……」


 おっさん、冒険者の横のつながりがあんまりないからなぁ。

 夢と希望にあふれた若い頃ならそういう情報のやり取りとかもするんだけど、年を取るごとにそういうものは摩耗していって、依頼札を見るだけという生活になっていく。


 それに、俺みたいなおっさん冒険者は数も少ないし……癖が強い。

 この年で薬草採りや日雇いで稼いでいるような冒険者は上昇志向が摩耗している分、怠け者だったりする。


 頼るのはちょっと不安だ。


 あ、いや、あのフードの子供たちがいるな。


 他には……。

 と、新しい大袋を買って外に向かっているときに彼らが見えた。

 俺と同じ大袋を引きずるようにして外へと向かっていく十代になったばかりのような子供たち。

 孤児だったり、俺みたいに口減らしで放逐されたり、親がいてもあの年で働かないといけなかったりと事情のある子供は多い。

 薬草採りのほとんどはあんな子供たちが多い。


 見ているとなんだか切なくなる。

 俺もあの頃にもっと努力して、なんらかの技術を身に着けるべきだった。


 そんな胸が痛くなるような気持ちを抱えつつ、思う。


 そうだ。彼らに頼もう。

 思いつくと、追加の大袋を買いに戻った。


 王都を出て森で薬草を採る。夕方になる前に王都に向かう道の途中で待っていると大袋を膨らませて帰っていく子供たちがいた。


「ねぇ君たち」

「あ、なんだよおっさん」


 うん、口が悪い。

 フードの三人組は例外なんだなと改めて思う。

 だけど気にしない。

 この年頃の子供たちなんてこんなものだ。


「中身薬草でしょ? 売ってくれない?」

「は? 嫌に決まってるだろ」

「一袋1100Lでどう?」


 安く買いたたかれると思っていただろう子供たちが顔色を変えた。


「本気か?」

「本気だよ。五袋欲しいから。その分は1100Lで買う」

「…………」

「冒険者ギルドだとよくて1000Lだろ? 儲かってるよな? どう?」

「金、本当に持ってるんだろうな?」

「ほら」

「わかった」


 金を見せたら交渉成立した。

 子供たちはちょうど五人いたので俺が用意していた大袋に薬草を移してもらい、代金を支払う。


「ありがとよぅ!」


 普通より儲かったのだから子供たちは嬉しそうに帰っていった。

 俺は人気が耐えた森に入ってそれをゲームの中に入れる。

 手に入った薬草は俺が集めた分も含めて六袋分だから百二十個。

 これをクラフト部屋に持って行って下級回復ポーションを製作。前と同じように六十個。


 300Lで売れれば18000L。

 経費が1100×5の5500Lとゲームからの引き出しに150×60で9000L。

 合わせて14500L。

 儲けは3500L。


「うーん、微妙かなぁ」


 大人しくリンゴだけ売っていた方がいいかもしれない。

 とはいえ、ゲームとは違うからいつまでもリンゴだけを売っているわけにはいかない。

 果物は他にもあるから季節ごとに変化を付けるつもりだけど……。

 それにこれなら、あのフードの子たちも少しは儲けが増えるし……。


「…………あ」


 悩んでいて、はたと気付いた。


「しまった」


 陽が落ちてしまった。





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