二章 中
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その日は、試験期間で放課後部活もなく、いつもの奴らと帰ろ、ということになった。
十七時の、人もまばらになった教室で人数が揃うのを待とうとしていると、外から突然音が鳴った。
思わず其処を見ると、途切れることも知らないような豪雨が辺りを濡らしていた。
全部濡れる覚悟で死にに行くか、雨脚が弱まるまで待機するか。
辺りが大げさに明るくなって、教室の机を照らすのとそれを思ったのはほぼ同時だった。いよいよヤバい感じがして、座っていた手すりから腰を下ろし、そこにあったスマホを掴む。いつの間にか教室にはもう俺しかいなくなっていて、焦りを助長させた。リュックを担ぎ、廊下を行くと、待っていた三人がちょうど向こうに見えた。唐突に俺は怒りたくなって、剣幕を隠さずに早歩きでそこに向かった。
ようやく揃ったメンバーは、どいつもこいつも餓鬼ばっかで、後先なんて考えない。でも、なかよくしてもらっているし、別段居心地が悪い訳じゃないから、強くはいえない。
やっと揃ったと思ったら、その一人が突拍子もないバカげた話をしだすから俺は教室にすぐ戻りたくなった。絶対に俺はこの雨が収まってから帰りたい、という主張を持っていたのだが、このメンバーがそれにおとなしく賛同するとも思えなかった。下駄箱の向こうの屋根下では外に出るに出れない人が溜まっている。多分、歩き組みだ。出ていこうとしている人は誰もいない。相変わらず雨は降りしきり、弱まる気配すらなかった。こういう時、荻野は待てない性である。周りの奴らもおそらくそれに便乗だ。一方の俺は、半ば目が死にかけになるも、なんとなくこうなると分かっていた。雷の轟いている校門に向かってはしゃぎながら駆けていく。一向に止む気配がないから、途中でもうどうでも良くなった。
なるようになれ。
皆傘なんかお構いなしに、縦横無尽に走るから遂に可笑しくなって、足元に気を付けることすらバカらしくなってきた。「あこ!」入ろっ!と先頭を走っていた荻野が向かったのは、体育館の軒下。あそこなら一時的な雨宿りにはなるだろう。
なりふり構わず駆け入ったそこには先客がいた。
■
あぁ、俺の中の暗い部分がまた疼きだす。
もう十数年前の事なのに、“その”事実に頬を叩かれたように衝撃が走り、思いだしたくない感情までもをまざまざと蘇らせる。痛いくらい覚えている。確かに俺らは通じ合っていた筈だった。
其処には言いようのない照れくささがあったけれど、それも途中からどうでも良くなった。
―でも、何故だろうか。あんなにも惹かれていたのに、最後は苦しかった。・・・違う。そういった単一的な表現では表しきれないほどの心境に陥ってしまっていた。
ここには、他人からすれば完成したように見えるモノがあるけれど、その実全くそうじゃない。その時々、強く惹かれたモノを引き寄せられるように形にしているだけだ。
———自分だって、作品を完全だと思いたい。
でも、それは叶わない。だからこそ、俺はそれを表現しようとしてるのかもしれないけど。薄らぼやけかけていた“穴”がまた主張を強めてくるのを感じる。幾ばくかの人が俺の作品を見ようとしてくれることは素直に嬉しい。
けど、それだけじゃ足りない。・・・あー、やってんなぁと思う。
数年前まで色々遊んでたくせして、突然こんなの作りたくなりました、なんて。
何の足しになるかも分かんないのに。・・・いや、ダメだ、これでも俺は表現者なんだから。
でもどうしても、情緒不安定じみたものが俺を襲って、自分の気持ちがよく分からなくなる。
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