第28話 カフェ2
「尼崎さん、謝らないでください。もう良いんです、私は」としょうこ先輩は静かにそう言った。
「何がもういいんですか?」と私は聞き返す。
「私は、連ちゃんのことを諦めます」
「諦めちゃダメです!」と私は分不相応にも口を出した。「先輩はしょうこ先輩のことが今もずっと好きなんです、今も昔も変わらず先輩の恋人は、しょうこ先輩1人です」と大きな声を出した。
「連ちゃんが私のことをまだ好き……ですか。」としょうこ先輩は弱々しく言った。「大学内で、何度も無視をされて、勇気を出して連ちゃんに声をかけたら怖がられ、落ち込んで、思い直してもう一度付き合い直そうと告白したら、逃げ出されて……また落ち込んで。雨が降ったから、いつも傘を持って行かない連ちゃんに傘を届けてあげようとしたら、裏口から帰ったらしく、私は気づかず閉店まで店の前で立っていました。次の日、大学に連ちゃんが来てないと分かり、風邪なんじゃないかと家に行ったら、怯えながら帰れって言われちゃいました」としょうこ先輩は涙目でそう語った。
「本当はいつか思い出してくれるかもって思ってました」としょうこ先輩はカバンからハンカチを出して涙を拭く。「だけど、私が大好きな連ちゃんの見た目ままなのに、同じ顔で、同じ声で、彼とは全く違う反応をする連ちゃんに私の方が耐えられなくなってしまって」としょうこ先輩は大粒の綺麗な涙を流した。先輩としょうこ先輩は同じような苦しみを味わっていたのだ。中身は変わらないが、カエルに見えることに苦しむ先輩と、見た目は変わらないが中身が変わってしまった先輩に苦しむ、しょうこ先輩。本当に二人はよく似ている。
俯いて泣いているしょうこ先輩のその姿に、昔の自分が重なった。先輩に振られて、落ち込んでいた時の私は自信がなく、何もかもを諦めていた。その時、しっかりと前を向いていれば、事故になんか遭わなくて済んだのだ。
「しょうこ先輩、よく分からないと思いますが最後まで聞いてください。先輩は事故で記憶を失った時から、恋愛をしようとすると相手の女性がカエルに見えるようになったらしいです。それが何を意味しているか、私には分かる気がします。先輩は記憶を失っても尚、しょうこ先輩のことを大切に思っていて、無意識のうちに他の女性としょうこ先輩を比べて、ギャップを感じていたんじゃないでしょうか?先輩の心の中心にはしょうこ先輩がいるはずなんです!だから、しょうこ先輩は絶対に諦めちゃいけないです。先輩はきっと思い出します」と私は言い放った。しょうこ先輩は大きな目をぱちぱちとさせて驚いていた。
「尼崎さんはすごいですね……きっと、二人にしか理解できない世界があるんだと思います」
「……そんなことは」私は咄嗟に俯いてしまった。
その静寂を狙ったかのように、しょうこ先輩の携帯が振動する。誰からの連絡か分からないが、私はしょうこ先輩の顔を見ることが出来なかった。
「すみません、用事ができたので。お会い出来て良かったです」
しょうこ先輩は丁寧にカフェ代を払って出て行った。
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