第27話 思い出
「俺、しょうこさんからデータを預かってきたからさ。それを今から送る」とぴょん吉は携帯のアルバムを開いた。それらをまとめて選択すると、送信する。
僕は自分の携帯取り出した。退院祝いに買ってもらった携帯は僕の分身といってもいい。その携帯に、2年と数ヶ月分のデータが追加された。その1枚1枚を見ると、僕は焦るようにスライドしていく。いつの間にか僕は泣いていた。
「しょうこ、卒業旅行は神奈川で遊んでさ。ついでに北山大学も見に行ってみようよ」と僕は誘った。
「えー、連ちゃんお金持ってるの?」と彼女は疑ってくる。
「大丈夫だって!バイト始めたから」と僕は答えた。僕は旅行代としょうこの誕生日代を貯めるために、必死でアルバイトに入った。計画を練って、最高の旅行にするべく全力を尽くした。
テーマパークで遊んで、ホテルに泊まり夜景を見た。水族館に行き、イルカのショーを見た、温泉に行って、綺麗な露天風呂に入った後、美味しい料理を食べた。沢山の思い出が、写真と共に僕に訴えかけてくる。
アルバムの写真の1枚に見慣れたゲームセンターが写っていた。
「ねぇ、連ちゃん!私このカメが欲しい」と彼女が指さしたのは、特に何のキャラクターでもないグダっとしたカメのぬいぐるみだ。
「これ、直接買った方が良いものあるんじゃ」と僕は渋る。
「分かってないなぁ。自分で取るからいいんじゃない」としょうこは得意気に言った。
「取るのは僕だけどな」と百円入れる。3回ほど失敗して、ようやく取れたのはうさぎのぬいぐるみだった。
「ありがとう!連ちゃん」と彼女は喜んでいた。
「もう一回やろうか、カメが欲しかったんだろ?」と僕は言う。
「ううん、これが欲しかったの!それにうさぎの方が足は早いからね」と彼女は笑った。
「その話だと、最終的にカメの方が良いことになっちゃうけど」と僕は笑う。大学までの道のりを僕たちはウサギとカメの話みたいに追いかけて向かった。
北山大学は想像しているよりも大きく、大きな噴水が印象的だった。その前で僕は、しょうこに誕生日プレゼントを渡した。欠けた形のネックレスだ。
「これ、実はペアネックレスなんだ。結構高くて、しょうこの分しか買えなかったけど。絶対似合うと思ってさ」と僕は彼女の首にかける。
「私こんなに幸せでいいのかな。なんかバチが当たりそうだよ」と彼女は喜んで泣いていた。
「泣くなよ。僕まで泣きそうになるだろ」と僕は鼻をするる。
「私決めた!連ちゃんが20歳になったら、ペアネックレスのもう片方を私がプレゼントするね!」と彼女は笑った。
「無理しなくていいって、本当に高いから」と言いながらも僕は嬉しかった。
しょうこが、神奈川の大学に入学して、一人暮らしをするようになった。僕は彼女と同じ大学に入学したいという気持ちがあり、受験に集中するために連絡を取らないようにした。そうして、自分を律して、学校でも塾でも猛勉強した。そうして、センター試験前で事故にあったのだ。
僕は携帯を握ったまま、動けないでいた。自分のしてきたことを思い出して青ざめた。僕はどれだけしょうこを傷つけてしまっただろうか。
「思い出した、みたいだな」とぴょん吉が言う。
「あぁ、なんで忘れてたんだろうな」と僕は自分自身に腹が立った。
「俺はしょうこさんに全て聞いた時に、そのことを古池に話そうと思ったよ。そうしたら、尼崎と付き合い出したって聞いてさ。俺は友達としてどうすればいいのか迷った。とにかく何日も迷って考えたが、俺は所詮友達で恋人同士の問題に立ち入ることは出来ないって思った。結局は古池が決めなきゃいけないことだろ?だから、古池が1番思い出す可能性が高いクリスマスにここで待つことにした。しょうこさんにも協力するって約束したからな」
「本当にお前と友達になれて僕は幸せもんだな」と言いながら僕は本気でそう思った。
「まぁ、クリスマスに古池が尼崎に振られるとは思ってなかったけどな!はっははっははは」とぴょん吉はいつもの照れ隠しとは思えないほど笑っていた。
「おい、まだ僕は笑えるほど傷が癒えてないんだけど」と僕は頭を抱えた。
「そうか、でもそれは俺の役割じゃないな。」とぴょん吉は笑う。
「色々ありがとうな」と僕はぴょん吉が食べた分の代金を置いて店を出た。
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