第23話 ぴょん吉2
ふと携帯を開くと、ぴょん吉から1通メッセージが来ていた。
「待ってる」と朝の10時から来ている。今は17時を過ぎたところだ。僕は北山大学前駅まで戻ると、合コンをやった居酒屋まで早歩きした。「いるはずないが、中を確認しよう」とそう思った。中に入るとそれなりに混み合っている。僕は店員に会釈をして中に入ると、すぐに席を見渡した。そして盛り上がる他の席に対して、角の座敷で携帯をいじりながら、僕を待っているぴょん吉を見つけた。そして、ぴょん吉も僕を見つけたらしく、いつものように片手を上げた。
「もう、来ないと思ったよ」とぴょん吉はグラスを仰いだ。
「まさか、まだいるなんて思わなかった。今日はクリスマスだぞ?」
「知ってるよ、だからこうして待ってたんだろ」
「……悪いな、携帯見てなかったんだ」と僕は靴を脱いで、座敷に上がった。
「そっか、でも何でこんな微妙な時間なんだ?もっと早く来るか、そもそも来ないか、の二択だと思ったよ」とぴょん吉は大量の料理の残骸をどかした。
「色々あってな……尼崎と別れたんだ。ぴょん吉も知ってたのか?尼崎の本名は薬師寺(やくしじ)珠緒(たまお)だって」
「え、どうゆうこと?そっちの話が気になるんだけど」とぴょん吉は前屈みになった。
「知らなかったのか、その話はまだ精神的に出来そうにないから後だ。それより、ストーカー行為は続いてるっぽい。今日、嘉元しょうこから荷物が届いた」
「そうか、それ今日持ってきたか?」とすんなりとぴょん吉は受け入れる。
「いや、中身見ないで捨てちゃったけど」
「なっ、何してんだよ!外じゃなくて家の中で捨てたのか?」と大声を出した。僕は周りを見渡したが、他の席も十分うるさいため、誰も気にしていないようだ。
「そうだけど、何だよ急に」と僕は少し引き気味に答えた。
「まだ、セーフだな。いや、セーフなのか?ギリギリアウトのような気もするけど」とぴょん吉は腕を組んで気持ち悪くうねっていた。
「ぴょん吉、いいから早く説明してくれよ。こっちは1週間も前から待ってんだ」
「それもそうだな、なんせ何時間も1人でいたから、話すのが止まらなくてな」そう言って一呼吸置いて、真面目な顔で話しはじめた。
「古池さ、お前は高3の時に事故に遭って、それまでの“人間関係の記憶”を失っているよな?」
「そうだけど、話してなかったけか?」と僕は顔を顰めた。
「いや、聞いてないわ!何で思わなかったんだよ!嘉元しょうこはお前の本当の知り合いかもしれないって…実際はそんな軽い関係じゃなく本当の彼女だったよ」とぴょん吉は呆れた顔で言う。
僕は言葉が出なかった。僕にとって、記憶がないことは当たり前のことで、日常生活を送る時にそのことについて何も考えていなかった。いちいち知り合いかもと疑って周りの人を見ないで済むように、僕は熊本から神奈川に出てきたのだ。それに、みんな都会に行けば、地元の友達や知り合いを忘れて大学生の友達を作り、新しい生活を始める。僕は自分もそうなりたいと望んでいた。
「知らなかった………って言っても許されないよな」と僕はかろうじて声を絞り出した。
「さぁな。俺には何とも言えないけど。その様子だとまだ思い出してないみたいだな池田」とぴょん吉は言った。
「……池田か。父さんの名字で呼ぶなよ、今の僕は古池だから」 と僕は過去思い出そうと必死になったが何も得られなかった。思い出は色褪せてこそいないが、水を含んだようにぼやけている。
「でも、池田でもあるだろ」とぴょん吉は携帯を出した。僕は何も言えずにただ固まっていた。
「俺、しょうこさんからデータを預かってきたからさ。それを今から送る」とぴょん吉は携帯のアルバムを開いた。
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