第21話 デート3

そうして気まずいまま、色々な問題を抱えて12月25日がやってきた。先送りにした問題は必ず目の前に、壁のように立ちはだかると分かりながら僕は何もしてこなかった。

今日は尼崎と横浜でデートをする約束をしている。支度をしていると、チャイムが鳴った。

「すみません〜宅配便です。えー宛名お間違い無いですか?サインか判子お願いします」

「はい、サインで」と僕は顔を顰めた。寒かったのも理由の1つだが、頼んだ覚えがなかったからだ。

荷物を受け取ると僕はその場に置いた。差し出し主に”嘉元しょうこ”と綺麗な字で書いてあった。僕は息を呑んだ。何が入っているか分からないことがこんなにも怖いとは思わなかった。ダンボールはかなり軽く、上下に振ると何か小さな物が中でぶつかっている。

僕は中を見ないで、ゴミ箱に捨てた。

外に出ると、雪が降っている。僕は久しぶりにあの病室で見た雪を思い出した。あれから僕は成長出来ているのだろうか、正月に実家にでも帰れば分かるかもしれない。


僕はテーマパークから1番近い駅で尼崎を待っていた。周りはカップルで溢れていて、人混みが嫌いな僕はすぐに帰りたくなった。

「せんぱい、お待たせ」と駅から尼崎が小走りで駆け寄ってきた。

やわらかなライトベージュのコートとチェック柄のブラウンをスカートに忍ばせて、全体的に大人っぽい雰囲気だ。黒い革靴にかぼちゃ色の靴下を履き、黒い小さなカバンを持っていた。僕はすぐに服を褒めた。カエルになってからというもの容姿を褒めることが減っている。今日はサングラスをかけてきた。

「じゃあ、行くか」と歩き出す。僕は早歩きで前を歩くことで、尼崎の顔を見ないようにしていた。

「せんぱい、何に乗る?私あれ乗りたい!」と尼崎はジェットコースターを指さす。僕も異論はなかった。並ぶ時は携帯でおすすめの動画を見せることで、顔を見ながら会話をすることを減らした。降りれば、また別のアトラクションに乗った。だが、尼崎の顔が視界に入るたびに僕は嫌悪感が胃もたれにようにムカムカと湧き上がってくる。その度にトイレに行き、冷水で頭を冷やして戻った。昼頃になり、フードコートに入ると窓から遠いテーブル席を取った。

「なぁ、尼崎は僕のどんなところが好きになってくれたんだ?」と僕は今まで、意外にも聞いていなかったことを聞いた。

「それは、また機会があったら話すよ」と笑ってはぐらかされた。朝から尼崎はいつもよりも少食だった。昼頃のため人が溢れてきた、押し流されるように僕たちは食べ終わるとすぐにフードコートを後にした。


緩い空気に慣れてしまったせいで、外に出ると遊ぶ気力がなくなるほどに寒かった。夕日が落ち始めて、西の空はオレンジに染まっている。

「ねぇ、せんぱい。観覧車に乗らない?」と尼崎は振り返って、観覧車の方を指さした。

「寒いからちょうどいいかもな。賛成」と僕は後に続く。

回ってきたピンク色のゴンドラに乗った僕はすぐに後悔した。風に煽られ、揺れる度に肝を冷やした。子ども時はこのスリルが楽しかったのだろうか。今では景色を楽しむ余裕もない。それに何より、カエルの尼崎に向かい合うことになることを深く考えなかったのだ。僕は景色も尼崎も見ずにただ床をずっと見ていた。

「ホワイトクリスマスだね」と尼崎は言った。

「あぁ、そうだな」と僕は外に視線をずらした。しばらくの沈黙のあと、尼崎はゆっくりと話を始めた。

「今日はせんぱいにお別れを言いにきたの」

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