第20話 気まずい

その後、ご飯を食べて僕は駅で尼崎を見送った。その間、僕が尼崎の顔を見れなかったのは、僕の弱さ故だ。尼崎だと分かっていても、嫌悪感が拭えない。そのことに僕はショックだった。12月の夜は僕を責めるように、肌を寒さが突き刺した。ため息が形となって出ていくことで、少しは僕の気持ちが晴れる事を祈った。ぴょん吉に相談したいが、最近のぴょん吉は少し距離感を感じる。それに、ぴょん吉が嘉元しょうことカフェで会っていたことについて、まだぴょん吉に聞けていなかった。


僕は噴水の前のベンチでしばらく考え込んでいたが、思い切ってメッセージで聞いてみることにした。

「なぁ、ぴょん吉に聞きたい事があるんだけど」と僕は送信する。「1ヶ月くらい前にカフェで嘉元しょうこと一緒にいるところを偶然見ちゃって。あの時、何を話してしてたんだ?」既読がつく前に続けて送った。送った後、僕はその場で貧乏ゆすりをしていた。送ったメッセージを消そうかと何度も考えて、その度に踏み止まった。思っていたよりも早く既読がつく。

「見られてたのか、全然気が付かなかった」と返信がくる。僕は何かを送ろうと画面に触れるが、何て言えば良いか思い浮かばなかった。

「俺、古池が精神的に相当追い詰められているって知ってさ。ストーカーを辞めるように、本人に直接話に行ったんだよ」

その文を読み「僕はなんて酷いやつだ」と自分を責めた。ストーカーと古池は知り合いだったのではないかと邪推したことがあった。ぴょん吉が裏でそんなふうに、僕のために動いてくれているとは全く思っていなかった。僕は良い友達を持ったのだ。寒さで鼻がつんとして視界が滲んだ。確かにあの時期くらいから、嘉元しょうこの姿を見かけなくなった。ぴょん吉がストーカーを辞めさせたのだ。僕はお礼を言おうとメッセージを打ち始めたが、ぴょん吉の次の文を読んでその手は止まった。

「でもダメだった。俺には止められなかった」とぴょん吉は続けた。

「どういうこと?まだストーカーは続いているのか?」と僕はメッセージを送る。

「そうじゃない。ストーカーなんて最初からいないんだよ」と返信がくる。

「は?何を言っているのかわからない、説明してくれ」と僕はメッセージを送ると、怖くなり周りを見渡した。既読がついたが、しばらくしても返信が来ない。

「古池、俺にはどうすればいいのか分からない。本当に説明してもいいのか?」とぴょん吉からの返信がくる。僕は寒気が止まらなかった。

「説明してくれ!説明してくれないと何も分からないだろ」と僕は食い気味で返信を送った。

「分かった。12月25日に、合コンやった居酒屋に集合してくれ。時間はいつでもいい、待ってるからな」というぴょん吉の返信に僕は疑問を覚えた。クリスマスまであと1週間ほどある。

「今説明してくれないのかよ」と僕は少しむかつきながら返信する。

「メッセージじゃ絶対伝わらない」

「なら別の日にしてくれ、その日、僕は誕生日で尼崎と出かけているはずだ」

「逆だ、その日しか話すつもりはない。来ないならそういう運命だったってことだろ」とぴょん吉からのそっけない返信がくる。

「意味がわからない。お前最近変だぞ」と僕は打ち込んで、送らずに消去した。

「分かった、その日時間があったら顔を出す。知っていること全部教えろよ」と僕は送った。ぴょん吉は既読をつけて、何も送り返しては来なかった。


それからの1週間は、僕が大学に入って、最も最悪な週間となった。尼崎は僕が予想した通り、次第にカエルになり、人間の姿には戻らなくなった。僕は尼崎の顔を全く見ないように過ごした。僕なりの努力だったが、尼崎に何度かそのことについて問い詰められた。「なんで最近目を合わせてくれないの」と。その度に僕は、誤魔化して逃げて、避け続けた。そして、尼崎は問い詰める事をやめたが、その分会話も減っていった。ぴょん吉は今まで通り接してくれるが、それが僕には逆に恐ろしかった。今からでも聞きたい事があるのに話題に触れないようにしている事が気持ち悪かった。今までの友好が全て偽物だったように思えた。

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