第18話 告白2

僕はもう一度メッセージを見る。尼崎から、一緒に遊びに行かないかと誘いが来ていた。その日は特に予定もない。だから行ってもいいのだが、最近、尼崎はぴょん吉抜きで遊びを誘ってくるようになっていた。だが、別に尼崎とぴょん吉の仲が悪くなった様子はなく、大学では3人でよくご飯を食べる。こうも何回も2人だけの外出が増えると僕は嫌でも意識せざる終えなくなってくる。それが恐ろしかった。断ってもいいのだが、毎回断ることは不可能だし、友達として付き合いが悪いと思われたくない。ゲームセンターに行ったことを合わせると2、3回くらい出かけている。もし告白されるのならば、今日だろう。

「どうやって傷つけないように断るか」と僕は考える。断って終わりではなく、友達は続けたい。結局はその気持ちを正直に伝えることが大事だろう。


尼崎と水族館でカラフルな魚を見た後、尼崎は魚が食べたいと言い出した。魚料理が美味しい店を調べて2人で行く。少し高い値段だったが、かなり美味しかった。久しぶりに健康的な食事をした気分だ。2人でゆっくりと駅まで歩いた。改札で別れようとしたが、尼崎はなかなか帰らなかった。会話が終わるたびに帰るタイミングが出来るが、無言でじっと話題を探しているようだった。僕は察した。やはり今日告白されるのだと。

「せんぱい、今日は楽しかった。こんな日が毎日続けばいいなって最近いつも思うの」と彼女は笑って話す。僕の心は揺さぶられ、固く口を結ばなければ、告白に応じてしまいそうだった。

「そうだな僕も、ぴょん吉と尼崎と社会人になっても友達を続けたいっていつも思っている」と僕は牽制した。尼崎は「そうだね」と小さくつぶやいた。僕は安堵した、またしばらくはこのままでいられると。

「せんぱい、私、ずっと前から…」と尼崎は無理やり告白を始めた。僕に止める手段はない。尼崎の口を押さえてみたらよかったのか。それとも、もっと早くに帰ってしまえばよかったのだろうか。だが、結局は先延ばしにするだけで尼崎の告白は止められなかっただろう。僕はすぐに目を閉じた。尼崎がカエルになる瞬間を見たくなかったからだ。

「本当に、ずっと前からせんぱいのことが好きでした」尼崎の声が僕の頭の中で何回も反響していた。さまざまな、言葉や情景がフラッシュバックしてその中に、ぴょん吉が言ってくれた言葉を思い出した。

人間は見た目じゃなくて中身だと、ぴょん吉は僕に教えてくれた。全くその通りだ。見た目がたとえカエルになってしまっても、中身は僕がよく知っている尼崎のままだ。カエルは好きなれなくても、尼崎自身を好きになればいい。そう心に決めて、僕はゆっくりと目を開けた。


尼崎は”人間のまま”だった。「私と付き合ってくれませんか?」と尼崎は確認するように僕に聞いてきた。僕には信じられなかった。彼女が人間のままの姿だったことに、感動して涙が止まらなかった。今はなぜカエルに見えないのかなんてどうでもよかった。今までの苦労が報われたように感じたのだ。僕は周りに人がいるのを忘れて泣いた。感情が収まるとようやく実感が湧いてくる。僕にも普通の人同じように恋愛ができるのだ。尼崎は僕にとって運命の人なのかもしれない。

「ありがとう、僕も尼崎の事が好きだ」と僕は尼崎を抱きしめた。

「えるもせんぱいのことが好きだよ」と耳元で小さく聞こえた。


尼崎と付き合い始めたことをぴょん吉に言うか僕は迷ったが、直接伝えることにした。ぴょん吉の家まで訪ねて行く。チャイムを鳴らすとゲーム機を持ちながら裸足で弟が出てきた。

「にいちゃんなら、駅前のカフェ行くって言ってたよ」と大きい声で教えてくれる。弟に礼を言って、僕はあえてぴょん吉に連絡せずにカフェに向かうことにした。普段の僕なら考えられないほどに足取りは軽い、恋をすると人はここまでエネルギーが出るものなのかと感心して走り出す。そして、駅前まで来て僕のエネルギーはすぐになくなった。駅まで走って疲れたわけではない。


カフェはおしゃれな内装でガラス張りだった。その1番手前の席に、ぴょん吉の姿を見つけて喜んだ僕は、向かい側に座っている嘉元しょうこを見て一気に気持ちが冷めた。

「何で2人が一緒にいるんだ」と僕は声が漏れる。ぴょん吉が無理やり連れてこられたわけではないだろう。ぴょん吉は普段見ないような真剣な顔だった。その場でカフェに入り問い詰めることなどできるはずもない。ぴょん吉から言ってくれることを願いながら、いつも通り問題を先送りにした。僕は逃げ帰ったのだ。

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