第17話 一件落着
「ちょっと待って、今出るから」と僕は携帯を持って玄関へ向かう。メッセージを確認すると「分かった気をつけろよ。何か必要だったら言ってくれ。いつでも買って持っていくから」とぴょん吉からメッセージがきている。尼崎からも心配する内容と悲しそうな絵文字が送られてきていた。
「………ぴょん吉?尼崎?」と僕は玄関に話しかける。
「……連ちゃん。私、嘉元しょうこです。中に入れて欲しいの。連ちゃんが好きな生姜焼きを作ってあげる。もし食欲がないんだったら、お粥も作れるように具材買ってきたから」と返事が返ってくる。僕は理解するのに時間がかかった。
「最悪だ、これまだ夢の中だろ。冗談じゃない…こんなこと現実味が全くないし」僕は笑えてきた。後退りして、実家から送られてきた野菜の段ボールにつまずきこけた。僕は泣きそうになる、痛かったのもあるが、自分の境遇に涙が出そうだった。
「連ちゃん大丈夫?お願い開けて!これ食べてくれたら、きっと私のこと思い出してくれるはず!食べてくれたら帰るから」と嘉元しょうこは声をかけてくる。僕はすぐに立ち上がるとドアノブをガッチリと握りしめて回らないようにした。だが、実際にはそこまで力は入らなかった。立っているだけで、呼吸が荒くなりどこかにもたれかかりたくて精一杯だ。裸足で玄関に立つと冷たく不快だった。
「もう帰ってくれよぉ!お前のせいで散々なんだよ!こんなことして何になる!はぁ…はぁ。飯なんか要らない、僕のために何かしたいなら、頼むから帰ってくれ!これ以上付き纏うなら僕は警察に被害届を出す。僕の友達にも手を出すな。はぁ、はぁ…」と僕は息継ぎをしながら捲し立てた。そこで、ストーカーを刺激しない方がいいということを思い出して後悔した。僕は風邪をひいて精神的に弱り、追い詰められていた。扉は静まり返り、雨の音だけが聞こえる。相手の反応がどう転ぶか分からず不安にさせた。
「………………連ちゃん」と嘉元しょうこはその場で泣き始めた。僕はどこかに行って欲しい気持ちでいっぱいだった。家の前で泣かれると近所迷惑だとまた隣人に怒れてしまう。
「頼むから、帰ってくれ」と僕はもう一度念を押した。
「……さよなら、連ちゃん。大好きでした」と彼女は静かに言い残して、帰っていった。しばらく扉の前で帰ってくるかもしれないと立っていたが、本当にいなくなったと分かり、僕は家の前に置いてあったお粥の材料をゴミ箱に捨てた。何が入っているか分からないものを食べるわけには行かない。
それから1ヶ月が立った。嘉元しょうこは本当に僕の前に現れなくなり、何も変わらない日常が戻ってきた。朝、遅刻気味に大学に行き、ぴょん吉と「だるい」と言いながら授業を受けて、ファミレスで尼崎と雑談して、バイトに行く。僕はこのままで十分に幸せだった。大学卒業までぴょん吉と尼崎と僕の3人で仲良く過ごせたらそれで構わない。願わくば社会人になっても、そう思っていた。だが、そうはならなかった。
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