第14話 告白
携帯で調べたストーカー対処法に習い、僕は大学にいる時は視線を感じても刺激しないように近寄らなかった。
しかし、嘉元しょうこは学食で僕を見つけると、遂に告白をしてきた。その日は、前の落ち着いた雰囲気とは別で、妙に明るい印象だった。彼女は手に大学に持ってくるには大きすぎるうさぎの人形を持っていた。色合いから、年季が入っていることが分かった。
「連ちゃん、好きです。私と付き合ってください。連ちゃんが生姜焼きを美味しそうに食べること、よく寝癖がついているところ、面白いところ、いつも車道側を歩いてくれるところ、奢ってくれるところ、記念日を大切にしてくれるところ。まだまだ言い切れないくらい、あなたのことが好きです」と彼女は手を握ってくる。
学食のど真ん中で告白する彼女に、恥ずかしくなったことはもちろんだが、こんなにも自分について情報を握っていることに気持ち悪くなった。後半は完全に妄想が混じっている。思わず僕は手を振り解き、距離を取った。
「私のこと忘れちゃったんだ……」とだらりと彼女の腕が下がる。「約束したのに」と彼女の目には大粒の涙が溢れていた。
「何のことだよ」と僕は聞きたくないのに返事をしてしまった。
「こんなに沢山楽しく会話したのに全部全部、忘れちゃうなんて!」と彼女は携帯のメッセージ履歴を見せてきた。そこには、確かに連ちゃんというアカウントと話しているらしい履歴があった。僕は頭が真っ白になった。目の前の女性が何を言っているのか分からない。ただ怖くて堪らなかった。僕が泣かせたことに周りがざわつき始め、僕は自分のバックを持って逃げる準備をした。彼女も周りの雰囲気に気づいたのか、涙を拭き深呼吸をして気持ちを落ち着けているようだった。
「そうだ、連ちゃんとの日記をつけてるから見せてあげる。今からうちに来て」と彼女が再び近づいて来ようとした時、僕は逃げ出した。
まだ、後半の授業が残っているが戻る気にはなれなかった。大学生になって本気で走ったのは今日が初めてかもしれない。人気のない階段に僕は腰をかけた。
「最近逃げてばっかりだな、はは」と僕は自分の状況に笑えてくる。何で僕ばかりこんな酷い目に遭うんだ。カエルだけで十分なのに、神さまは僕に相当な試練を与えたいらしい。
「せんぱいどうしたの?」と背後から可愛らしい声が聞こえた。心臓が大きく跳ね上がり、僕は急いで振り返る。
「なんだよ、尼崎か」と息が漏れる。
「なんか元気ないねぇ」と尼崎は横に座ってきた。尼崎の良い匂いが、僕の心を落ち着けてくれた。僕たちはしばらく無言のまま黙って座っていた。
「尼崎この後授業だろ、行かなくていいのか?」
「うーん、いいや。今日はサボっちゃお」と尼崎は階段をひらひらと降りていく。踊り場でこちらに振り返るとスカートがふらりと花ように広がった。
「せんぱい、今からえると遊び行こうよ」と笑う尼崎に僕は一瞬だけ見惚れてしまった。だがすぐに顔を伏せる。尼崎は僕と友達になってくれた唯一の女友達だ。尼崎を僕がそんな目で見て良いはずはない。尼崎と友達になったときから、僕は尼崎を女の子として意識しないようにしていた。友達を絶対に失いたくなかったからだ。僕はもう1度初心を思い出して返事をした。
「いいよ、ぴょん吉も誘う?」と僕は携帯を出す。
「えぇっと、ぴょん吉は今日用事があるらしいから」と尼崎は笑った。
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