第6話 合コン作戦会議
1階からドタバタと階段を上がって来る音が聞こえて、ぴょん吉がカップ麺を持って部屋に入ってきた。ぴょん吉の部屋は小さく物が多いが、綺麗に纏まっていて男の部屋にしては綺麗だった。ゲーム機のコントローラーが多いことから兄弟がいるのだろう。
「大家さん寝てるっぽい」と僕は携帯をベッドの上に置く。明日、連絡するしかないだろう。鍵穴ごと変えるとなったら、かなり高くつきそうだ。
「そっか、鍵無くすなんて災難だったな。古池、腹減ったろ。生姜焼き味のラーメンならあるぞ」とぴょん吉はお湯の入ったカップ麺を机に置いた。
「奇遇だな、それ僕も沢山持ってるんだ」と僕は笑うと、話題を変えた「ところでぴょん吉、両親は?」
「まだ帰ってこないから、これ食べたら先に風呂入っていいぜ」とぴょん吉はラーメンの蓋を開けて、スープの素を入れる。
「色々ありがとな」と言い、僕はかやくのふやけた生姜焼きをラーメンと一緒に啜った。温かいスープと麺が、胃に入っていくのを感じる。
「別にいつでも泊まりに来いよ、それに明日の合コンの作戦会議をやるつもりだったからな。風呂上がったら、気合い入れろよ」
「そうだな」と僕はラーメンを啜る。
明日うまくいけば、誰かといい感じになれるかもしれない。恋人ができている未来の自分を想像しながら、黙々と食べ進めた。だが、その一方で友達がいれば今のままでも十分だとも思えた。
風呂に入りながら、僕は浴室の天井を見つめていた。食べた後すぐに風呂に入るのは失敗だった。僕自身がラーメンになったようにふやけていた。血が巡ってふわふわとしている。生姜焼きラーメンは不味くもないが特別美味しくもない、値段相応の味だった。ぴょん吉はスープまで飲み干していたところをみるとかなり好きだったのかもしれない。身も心も温まり、僕は風呂を後にした。
「そういえば、合コン初めてなんだけど僕とぴょん吉以外に誰かいるのか?」と2階まで戻って、頭を拭きながら僕はぴょん吉に聞く。
「あぁ、それなら。落研の高木ブリザードっていうやつがいる」とぴょん吉は携帯をいじりながら背中越しに答えた。
「誰だそれ、外国人か?」
「いや、在日の純日本人だけど」と写真を見せてくる。バキバキに割れた液晶画面には、ニヤリと笑う眼鏡をかけた色黒のアフロが写っていた。
「キャラ濃いな」と僕は見たままの感想を言う。
「まぁ、心配するな、こいつは当日来ない」とぴょん吉は写真をそのまま消去した。
「なんでだよ?」
「こいつ基本、合コンに金持ってこないから俺が立て替えてたんだが、全然返さないんだよ。そのくせに合コンに参加したいとか、ぬかすから今回は別の場所を教えておいた。」
「うわぁ、ひどいな」
「だろ!?」
「お前もな」
「甘いな、古池。おまえ高木ブリザードの前で同じことが言えるかな」
「でも僕は会うことないから、大丈夫なんだろ?」
「……そうだな、今は野郎の話なんかしている場合じゃない。見ろよ、相手は看護学科の2年生だ」と明日のメンバーを見せてくれる。写真は加工されているだろうが、可愛い子ばかりだった。
「合コンってのはな、チームプレイが大事なんだよ、つまり俺たちは仲間だ。だからこそ、狙う子は別々にしなければならない」とぴょん吉は腕を組む。
「なるほど」と僕は合コン歴の長い先輩の言うことに従うことにした。携帯から写真を並べて互いに狙いの子を指さす。
「俺はこの金髪のギャルの子がいい」とぴょん吉は活発そうな子を選んだ。
「僕は大人しそうな子」と写真に指をさした。
「古池とは全く趣味が合わないな、良かったけど」とぴょん吉が言ったところで、僕の携帯が鳴った。
「ちょっとごめん、父さんから電話だ」と僕が言うとぴょん吉は頷いた。
部屋から出て、携帯を耳に当てると騒がしい音と共に、落ち着いた父の声が聞こえてきた。
「元気にしてるか?」
「うん、そっちは今何時なの?」
「朝の8時だ、これから仕事だよ。何か困ったことはないか?」
一瞬カエルの顔がフラッシュバックしたが、正直に今の悩みを父さんには言えなかった。
「…大丈夫」と僕は思いを押し込んで答えた。
「………母さんとは連絡をとっているか?」と父さんは微妙な間を作って聞いてくる。本当に聞きたいのはこの問いだったのだろう。
「……うん」と僕は答えておく。
「そうか、また連絡する」と言い、短い通話が終了した。
部屋に戻ると「お父さん何て?」とぴょん吉はポテチを食べながら聞いてくる。
「元気にしてるか?ってさ」と僕は答えて、騒がしい作戦会議に戻った。
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