23. 明日もテストなので
ガヤガヤと騒がしい教室。
英語のテストが終了し、生徒たちは少し疲れた顔をしながら、テストの出来栄えについて話していた。
「はぁ〜……」
ヒナタが頬杖をつきながら、ため息を吐く。
「ヒナタちゃん、お疲れ様。英語のテストの出来はどう?」
ヒナタの前の席に座るミオがくるりと振り向いてそうたずねた。
「なんとか……って感じ。ハルキ先輩に教えてもらってなかったら、ひどい出来だったかも。ミオちゃんは?」
「んー、私はまぁまぁかな。それより、明日の生物のテストが心配だな……」
「あ〜生物ねぇ。植物の構造とか受粉とか、成長のアレコレとか難しいもんね〜」
コクコクとミオは頷く。
「あ、ミオちゃん。このあとはどうするの?家に帰る?」
「ううん。学校で勉強してから帰ろうかなって」
「じゃあ、私も一緒に学校で勉強しよっと」
生徒たちは各々、帰ったり、教室に残って勉強したり、図書館に移動したりしていた。
ミオとヒナタも、荷物を持って秘密の庭園へと向かった。
秘密の庭園には先客がいた。
ツバキ、ミナト、ハルキの3人だ。
しかし、ミナトの様子が……。
「浜矢先輩……?ど、どうしちゃったんですか?」
ベンチの上で寝転んでいるミナトの顔は、魂が抜けた顔をしていた。
「こて、こて……こ、てん、が……」
「え、おでん?まだ6月ですよ、ミナト先輩。おでんが美味しい季節はもっと先だと思うんですけど〜?」
「ヒナタちゃん、たぶん浜矢先輩、古典って言ってる。先輩、古典のテストで……やらかしちゃったんですか?」
ミオがまさかと思い、おずおずと聞いてみる。
ミナトは、わしゃわしゃわしゃ〜っと髪を掻き回した。
「うがーーーっ!!漢文の問題でやらかしたぁあああ!解答欄を一つずらして書いちゃったんだよぉ!」
「あらら〜」
フェルがなんとも気の抜けた声でミナトの方を見た。
「まぁ、問題集から出題された問題とか、授業で習った所の問題はバッチリ解けたんでしょ?」
ツバキがミナトの顔を覗き込む。
「そうなんだけどさ……せっかく苦手な漢文、めっちゃ頑張ったのにぃい」
「ミナト先輩、気持ちを切り替えるっす!明日はテスト最終日!明日を乗り切れば、あとは楽しい夏休みを待つだけっすよ〜!ほらほら、明日のテスト勉強をするっすよ〜」
ハルキはフィーナとパルがミナトのカバンから引っ張り出してきた数学の問題集を、ミナトの手に握らせた。
「はぁ〜……頑張るかぁ」
ミナトがヨロヨロと起き上がった時……。
「た、た、た、大変だよぉお!」
ミオたちのもとに一人の妖精が慌ててやって来た。
「どうしたの、そんなに慌てて」
ツバキがそう聞けば、妖精は早口で言った。
「悪魔の封印が解けたっ!!」
「そんなっ!この間、封印魔法をやったのに!?」
シュシュの顔がみるみる青ざめる。
「みんな、急いで行くよっ!」
ツバキの言葉にみんな頷き、走って悪魔のもとへ急いだ。
灰色の大地に立っている悪魔。
封印が解けたばかりのせいか、動きは少し鈍い。
「クックック……」
悪魔は嬉しくてしょうがないといった様子で、ニヤニヤと口元を歪めて笑った。
ぎこちない動きで悪魔はゆっくりと歩く。
そんな時だ。
「そこの悪魔ーーー!止まりなさ〜い!」
遠くからロロンが悪魔に向かって叫ぶ。
ロロンたち妖精の少し後ろを息を切らしながら走るミオたちがいた。
「本当に封印が完全に解けてる……!」
ミオは驚きを隠せず、思わずそう呟いた。
悪魔は人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「ハハハッ!オマエたちに気づかれないように、ゆっくりと内側から封印を解くなんて朝飯前なんだよ!!さぁ、観念しろ!この庭園は俺様の場所だ!さっさと人間と妖精たちは去れ!」
ビシッと悪魔はミオたちを指さして、そう宣言した。
しかし、ミオたちは逃げたりなんかしない。
「この庭園は、妖精たちの大事な居場所です……!貴方の場所なんかじゃない!」
ミオはハッキリとそう言った。
悪魔はチッと舌打ちをした。
「だったら追い出してやる!いや、殺す!!」
「それはこっちのセリフよ!!」
今まで、ミオたちの後ろの方にいたツバキが前に躍り出た。
その手には……。
「ば、バズーカ砲!?」
ヒナタが目をまん丸にして叫ぶ。
「我ら学生は、明日テストがあるのよ!アンタに構ってるヒマとかないの!さっさと浄化してやるわ!」
「ツバキ、打て!!」
シュシュの合図でツバキはバズーカ砲を打った。
「木っ端微塵になれーーー!」
撃ち放たれた弾は、悪魔に当たるとパッと目にも鮮やかな真っ赤な光の花を咲かせた。
チリチリと悪魔の全身に淡い赤色の光の粒が纏わりつき、じわじわと浄化する。
「フンッ……いきなりド派手な攻撃をしてくるから驚いたが、こんな程度か。たいしたことないな!」
ぱっぱっと悪魔は光の粒を手で払う。
「あんまりナメてると痛い目に遭うっすよ!」
悪魔の背後からハルキの声が聞こえる。
「捕獲!!」
バサッと大きな網が悪魔の目の前に広がる。
いつの間に悪魔の背後に移動したハルキとパルは魔法で大きな捕獲用の網を用意していた。
「こんなもの、切り刻んでやるわ!」
悪魔は鋭い爪で難なく網を切り裂いた。悪魔はその勢いで、ハルキを襲おうとした。その時だ。
「隙ありっ!」
ヒナタがおおきく振りかぶって何かを投げ飛ばした。
反応が遅れた悪魔は避けきれず、顔面から受け止める。
バッコーン!
ヒナタが投げたバスケットボールが額に見事命中。
ふらつく悪魔!
その隙を逃さず、ミオは指輪に触れ、ロロンは杖を振る。
「地面が、トランポリンになれ!」
悪魔の足元が急にぽよんぽよんと柔らかくなり、悪魔は立っていられず転倒した。
「チッ!なんなんだ!」
悪魔は起き上がり、まだぎこちなく動く羽を何とか動かして飛ぼうとした。
「ミナト!フィーナ!」
ツバキが振り返り叫ぶ。
「任せろ!フィーナ、俺たちでトドメを刺すぞ!」
「えぇ、やってやりましょう。ミナト!!」
ミナトとフィーナの足元には青く輝く巨大な魔法陣があった。
「行け、シロナガスクジラ!!」
巨大な魔法陣に見合う、巨大な体が出てきた。
ミオとヒナタは、ぽかんと口を開けてその光景を見ていた。
悪魔は必死に逃げようと、羽を動かすが、封印が解けたばかりで上手く動かない。
「クソッ!クジラなんか出して……!ど、どうするつもりだ!」
ミナトはにやりと笑う。
「どうするかって?食べてもらうんだよ」
悪魔は逃げれないとわかれば、クジラに向かって攻撃を始めた。
黒い波動砲を撃ちまくるが、クジラは当たっても気にしない。
そしてついに……クジラは口をガバッと開けて、悪魔を飲み込んだ。
悪魔を飲み込んだクジラはすうっと空の方へ行き、ブシャーと潮吹きをした。
キラキラと水と光の雨がミオたちをそっと濡らした。
「あ、クジラが……」
空を泳いでいたクジラは、段々と淡い青い光の粒となり消えていく。
「無事にあの悪魔を浄化できたわね!」
ツバキは満面の笑みを浮かべた。
ミオたちが、ホッとした瞬間だ。
バタンッと音がした。
「ミ、ミナト!」
フィーナの慌てる声。
ミナトが仰向けで倒れていた。
「だ、大丈夫っすか!ミナト先輩!」
ハルキが慌てて駆け寄る。
ミナトは眉間にシワを寄せていた。
「あ、頭が……ガンガン痛い……それに、ダルい」
ツバキはミナトの顔を見て、少し笑った。
「世界最大の哺乳類……シロナガスクジラなんて出すからよ。ねぇ、パル。ふかふか寝心地最高なクッションとか持ってるでしょ?ちょっとミナトに貸してくれない?」
パルはコクコクと頷き、魔法でクッションを取り出してきた。ついでにブランケットも。
「ありがとうございます、パルさん。ミナト、しばらくゆっくり休んでください」
フィーナは小さな手で、ミナトの頬をそっと撫でた。
「フィーナもしっかり休めよ」
ミナトは、ニッと笑った。
ミナトは頑張りすぎて倒れてしまったが、封印が解けた悪魔を無事に浄化することが出来た。
これで明日のテストに向けて落ち着いて勉強できそうだ。
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