22. イヤだけど学業優先

妖精たちの住まう秘密の庭園。

5人の少年少女たちは、ガゼボに集まり、必死な様子でノートに書き込んだり、教科書を読んだりしている。

「あらまほし、好ましい……まかる、参る……ゆくりなし、思いがけない……」

「reach、realize、refer、ride……」

「藤原道長、藤原秀郷、藤原純友……」

ブツブツ、呪文のように単語を唱える声が聞こえる。

「あぁあああ〜……疲れたよー」

ツバキが日本史の教科書をぱたんと閉じて手足をバタバタさせた。

「ちょっとツバキ先輩〜、集中力が途切れたじゃないっすか〜」

「ハルキ、ごめん〜!ね、ハルキってめっちゃ頭いいじゃん。わかんないとこあるんだけど〜……」

「おいおいツバキ、なに後輩に勉強を教えてもらおうとしてんだよ」

「え、藤居先輩ってめっちゃ頭いいんですか……?」

「その〜英語の文法でちょっとわからないところがあって……もし良かったら、教えてください!!」

今、ミオたちは一週間後に迫るテストに向けて勉強中だ。

しばらくは悪魔の浄化、庭園の整備といった作業はお休み。学生の本業である学業優先である。それこそ、赤点でも取って補講に参加することになったら庭園の修繕作業する時間が削られる。今後の庭園での活動のためにもテスト勉強は大事だ。


その間、妖精たちが庭園の見回りをしていた。

封印された悪魔の像に異変がないか、庭園に不審な点がないか目を光らせていた……。

「ひゃほ〜い」

空飛ぶ傘にロロンとフェルは捕まってふわふわと空を飛んでいた。

「楽し〜い!今日も庭園に異常なーし!」

庭園という名前ではあるが、色んな施設が集まっているのでテーマパークに近い。

今日も色鮮やかなワクワクする世界が広がっている。

「この間、ツバキちゃんとミナト君が超頑張って浄化したところ、今度はどんなものを作ろーね?」

ロロンがそう言えば、フェルはムムム〜っと真面目な顔をして考える。

「ん〜……みんなで楽しめるのがいいよね〜。うむむ〜迷うよ〜!」

「またみんなで話し合おう。とりあえずみんなが無事にテストが終わんないとね〜」

「そだね〜。そろそろ悪魔の像を確認しに行ったシュシュ君たちと合流しようか」

ゆっくりと空飛ぶ傘は地面へと降りていった。


「お〜い、シュシュ、フィーナ、パル!」

ロロンとフェルは悪魔の像を入念に確認する3人に手を振った。

「庭園の見回りご苦労さまです。ちょうどいいところで来てくれましたね」

ロロンたちに気づいたフィーナが手を振り返しつつそう言う。

「な、何かあったんですか……?」

フェルがそう聞けばシュシュが説明してくれる。

「ひび割れとか、溶けてるとか、そういう現象は起きてないんだが、微量な悪魔の魔力の気配を感じた」

シュシュの言葉にロロンとフェルは青ざめる。

「え、それってやばくない?封印が解ける可能性が高いってことだよね?」

「そうだな」

「ど、どどどどうするの!?ミオちゃんたちを呼んで気合いと根性で浄化してもらう!?」

「落ち着きな、ロロン。この現状は報告するがツバキたちは呼ばない。もうすぐテストだし、明日もいくつかの教科で小テストがあるって言ってたからな……。浄化で体力と時間を使って勉強する時間を削るわけにはいかない」

「な、ならどうするの?ほっといたら危険じゃない?」

「だから、俺たち5人で軽めの封印魔法をかける。ツバキたち人間と協力した方が強力な魔法が使えるが、5人も妖精が集まっていればそこそこの魔法は使える。とゆうわけで、ロロン、フェル、協力してくれ」

「なるほど……。オッケー任せて!とゆうか、パルはどこ?」

この場にいるはずのパルが見当たらず、ロロンはきょろきょろと辺りを見渡す。

「ボクはここだよ〜」

ロロンとフェルがハッと地面を見れば、寝転がっているパルがいた。

「パ、パル君!なんで寝転んでるの?」

フェルが思わずたずねる。

「あ〜……色んな角度からこの悪魔の像を見たほうがいいんじゃないかな〜って……」

「ただ単に、疲れたから寝転んでるだけですよね。パルさん」

スパッとフィーナをそう言われてしまった。


気を取り直して、シュシュたちは魔法の杖を取り出して封印魔法をかける準備をする。

「よし、みんな準備はいいな?」

シュシュがそう言えば、みんな力いっぱい頷く。


スッと悪魔の像に向けて杖を構える。

『悪魔、封印!!』

5人の声がぴったり揃う。

そして、杖をくるんと回すと、白い光が悪魔の像をふんわりと包んだ。

最後にシャンッと鈴のような音が聞こえると、白い光は溶ける雪のように消えていった。


「ふぅ……これでしばらくは大丈夫でしょう」

フィーナが杖を仕舞いつつ悪魔の像を見ながらそう言った。

「あぁ……だが、ツバキたちのテストが終わり次第、早急に浄化しないとな」

シュシュは真剣な表情で呟く。

「他の妖精たちにも話して、悪魔の像の見回り回数を増やすようにしよう」

ロロンの提案にシュシュたちは頷いた。


「それじゃあ、そろそろヒナタちゃんたちのところに行こっか〜。悪魔の像のことも早く伝えなきゃ〜」

フェルたちは少し急いでガゼボで勉強しているツバキたちのもとへ向かった。


「うわ〜!わかっんねぇえ!古典、意味わかんねぇーーー!」

「ミナト先輩、古典の問題集、バツばっかりじゃないっすか……!ちゃんと現代語訳読んだっすか?」

「藤原……藤原……フジワラダレ?」

「ツ、ツバキ先輩!お、落ち着いてください!」

「あああー!英語の文法わかんないよぉ!ハルキ先輩、助けてくださいぃい!」

ガゼボからは悲しい悲鳴が聞こえてくる……。


「ミナト……頼みますから赤点回避してくださいよ……」

「ツバキも心配だな……」

「これは……まず休憩、かな」

「何か飲み物と〜……クッキーとかちょっとつまめるお菓子を用意しましょ〜!」

「ぐっどあいでぃあ〜」

無事にテストが終わることを願う妖精たちは、お疲れのパートナーたちのためにお茶菓子などを用意しに行った……。

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