21. まったりお茶タイム

秘密の庭園に住む妖精たちが集まってお喋りをしている。


「なんか、美味しいものを作れる場所が出来るんだってね」

「おっきくて、ひろーいキッチンなんでしょ?」

「へ〜それじゃあ、大きなケーキも作れたりするのかなー?」

3人の妖精は顔を見合わせる。

「どんなのか気になるし……ちょっと覗いてみる?」

「いいね〜」

「行ってみよっ」



ヒナタたちの周りには、フェルたち以外にこの庭園に住む妖精たちがたくさん来ていた。

「フォークはあっち〜お皿はこっち〜あれ、このボウルはどこにしまうんだっけ」

「ねぇ〜フェルちゃん、この泡だて器、どこにしまうの?」

「パルくんっ!ランチョンマットを寝具にして寝ちゃだめでしょー!」

わちゃわちゃ、がやがや。妖精たちが色んな物を持って、あちこち飛び回る。


「てんやわんやっすねー」

ランチョンマットに包まるパルを剥がしつつ、ハルキは笑いながらそう言った。

「ですね〜!いつの間にか、あれこれ魔法で作っちゃいましたね!」

ヒナタは先ほどフェルと一緒に魔法で作り出したティースタンドを眺めながらそう言う。

訪れる妖精たちの要望を聞くうちに、当初予定していたよりもたくさんの物を魔法で作った。


魔法で浮かぶティーカップやスプーンがミオの前を通り過ぎた。

「何だかアリスのお茶会みたい……」

ミオは、ぼーっと目の前の摩訶不思議な光景を見ていた。

「ねーミオちゃん。ほぼ完成じゃない?」

いつの間にか、ミオの肩にはロロンが座っていた。

「そうだね。必要な設備も道具も揃ったし」

「だよね、だよね!美味しいお菓子を作ってお茶会しようよ〜!」

「やっちゃう!?みんなと一緒にお菓子作り!」

ひょこっとミオの後ろからヒナタが現れる。

「やっちゃいますか?ヒナタちゃん。あ、でも……なんのお菓子作ろう。何にも考えてなかったや」

「ふふふ……じゃじゃーん!図書館から借りてきましたっ!」

ヒナタがトートバッグから本を取り出す。タイトルは『初心者でも簡単!スイーツレシピ』と書かれている。

「あ、三日前に借りていった本っすね」

どうやら貸出手続きをしたのはハルキらしい。


「たくさんの妖精たちもいることだし、みんなでお菓子作りやろ〜!」

ヒナタがそう言えば、周りの妖精たちも、わ〜と歓声を上げた。


「ヒナタちゃん、何を作るの?」

フェルがわくわくした様子でそう聞いた。

「今回はね〜、マグカップで作る、簡単ケーキ!」

ヒナタはペラペラとレシピ本のページをめくり、みんなに見せてくれた。

「わ〜美味しそう。それにとっても簡単だねぇ」

パルのいつも眠そうに細めている目も、今はパッチリ開いてレシピを見ていた。


みんなで必要な材料を揃えたら、お菓子作り開始だ。

「まずは〜、マグカップに卵を割って入れて〜」

ヒナタの指示通りに、ミオとハルキは卵を割る。

そして、混ぜるのは妖精たち。

「くるくるくる〜」

みんな楽しそうに混ぜている。

「えっと、あとは砂糖、サラダ油、ホットケーキミックスを入れてよく混ぜるんだよね」

ミオがそう聞けば、ヒナタは頷く。

「お〜い、パル達、ダマにならないように混ぜるんですよ!テキトーにくるくる〜って混ぜてちゃダメっすよ!」

ハルキが妖精たちの様子を見ながら、時々サポートしていた。

「あれ、ヒナタちゃん、それなーに?」

フェルはヒナタが何やら茶色の粉の分量を計っているのを見つけた。

ロロンも気になってヒナタに近づく。

「すんすん……この香り、ココアパウダー?」

ロロンがそう言えば、ヒナタは「大正解!」と言ってニコッと笑った。

「せっかくだから、ココアパウダー入りのも作ろうと思ってね!」

フェルとロロンはじーっとヒナタの作業の様子を見る。

「ヒナタちゃん、めっちゃ手際いいね。なんか慣れてるっていうか……」

ロロンがそう言えば、フェルが「ヒナタちゃんね〜お菓子作るの得意なんだよ〜!」と教えてくれた。


材料を混ぜ終えたら、レンジに入れて加熱。

加熱している間にみんなで手分けして、テーブルの準備や、飲み物を用意する。

ふわっと甘い香りが漂う。

「ん〜!美味しそうな香り〜」

ティーカップを準備していたフェルは幸せそうな顔をする。

「食べるの楽しみだねっ!」

隣りにいたロロンも待ちきれないといった様子だ。

そんな時だ。

「お、美味しそうな……香り……」

「腹が……腹がぁ減った……」

うめき声がフェルたちの耳に聞こえた。

バッと振り向けば、腹をすかせたヨロヨロゾンビ……ではなく、ツバキとミナトがいたのだ!

「先輩!だ、大丈夫ですか……っ!」

ミオたちは慌ててツバキたちの側に駆け寄った。

ぐきゅぅううと二人のお腹から主張の激しい音が聞こえた。

「悪魔の浄化、終わった……」

「え!?もう終わったんすか?は、はやい!」

「俺達、超頑張ったんだぞ……ちょっと頑張りすぎたけど」

へなへなとツバキとミナトはしゃがんだ。

よく見ればフィーナとシュシュも、ぐったりとしていた。

「あの!先輩、ちょうどマグカップケーキが出来上がったので、良かったら!あと、紅茶も!」

ヒナタはトレーに乗せたケーキと紅茶をツバキたちに渡した。

それを見た途端、ツバキとミナトの目がキラキラ輝く。

「い、いただきますっ!!」

ツバキとミナトは勢いよく食べる。シュシュとフィーナもはんぶんこにしてマグカップケーキを食べる。

「ん〜!美味しいっ!」

「うま〜!」

「美味しいな……これ」

「美味しいですね〜」

みんな幸せそうな顔だ。他の妖精たちも、早く食べたくてそわそわしている。

「よ〜し、みんな準備して早く食べよっ」

ヒナタたちは急いでお茶会の準備をする。


「それにしてもすごいね〜!ひろーいキッチン!色んな調理器具あるし!」

ツバキはおかわりした紅茶を飲みつつ、周囲を見回す。

「それを言ったら、ツバキ先輩たちもすごいですよ〜!2、3日で悪魔を一体浄化しちゃうなんて」

ヒナタがそう言えば、フィーナとシュシュは苦笑いをする。

「まぁ、なんていうか……2人の溢れんばかりのやる気のおかげ、ですね?」

「全く……一蓮托生の俺たちの気持ちにもなって欲しい。それに、途中からアホみたいな勝負事に巻き込まれるし」

「ちょっとシュシュ!アホってなに?あれは、真剣な勝負だったの!」

ぎゃーぎゃーと騒ぐツバキとシュシュを放っといてハルキはフィーナに話を聞く。

「アホみたいな勝負ってのは?」

「ツバキとミナト、どっちが多くの面積を浄化できるか……です」

「ちなみにどっちが勝ったんすか?」

「一応、ツバキです。ですが、五十歩百歩です」


「とにかく、お疲れ様〜」

ロロンがちょこちょこっとシュシュとフィーナの側にいく。

「そっちもご苦労さま。いい感じになったじゃないか」

シュシュがそう言えば、フェルは得意げな顔になる。

「えへへ〜!私が発案者なのですっ!」

「流石です、フェル。残る封印された悪魔は、あと2体……。みんなで力を合わせて頑張りましょうね」

フィーナの言葉にみんな力いっぱい頷く。

「ま、ひとまず今は、美味しいケーキと紅茶を食べてまったりしよ〜」

パルがふにゃふにゃ笑顔を見せてそう言った。

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