20. 何を作ろう?
ミオたちは今、芝生が広がっているだけの、何もない場所に立っていた。
「それでは〜庭園の整備を始めるっすよ〜!」
ハルキが元気いっぱいにそう言えば、ハルキの肩でうとうと寝ていたパルがハッと目を覚ました。
「ハルキ先輩、質問です!庭園をキレイに整備する、というのはわかるんですけど……どんな風にキレイにしていけばいいのか、なんていうか〜基準?がよくわからないです!」
ヒナタがシュバッと手を上げて質問する。
「そっすねー。まずは、妖精たちのことを第一に考えてくださいっす!この庭園は、妖精たちの住処なので!」
ハルキの説明をミオとヒナタはふむふむと頷き、頭の中にメモする。
「あとは、オレたちのワクワクする気持ちをカタチにするといいっすね」
「ワクワクする気持ちを……カタチに?」
ミオは首をかしげた。
「妖精たちのことも考えつつ、オレたちも楽しむことが大事っす!妖精と人間の双方の強い想いが、強力な魔法を生み出しますからねー!」
ハルキは「言葉で説明するより、行動した方が早いっす!」と言って、さっそくパルに話しかける。
「今回は何を作りたいっすかー?」
「ボク、大きくてふわっふわの綿菓子みたいなクッションとか欲し〜い」
パルが、ほわほわした笑顔を見せながらそう言う。
「却下っす。ちょっと前にもそんなこと言ってたっすよね!?ふかふかのクッションが欲しいって!」
「ちょっと違うよ〜。前は、ハンモックが欲しいって言ったのー!ゆらゆら〜って揺れて寝たーいって〜!ついでに、ふかふかのクッションも付けて〜頼んだの〜」
「あーそうでしたねー?ちょっとパルさん、寝具系以外に欲しいのないんすか?」
「えー?じゃあ、アロマキャンドル欲しいなぁ。ゆらゆら揺れる幻想的な炎といい香りで安眠……」
「睡眠目的じゃないっすか!!」
ハルキとパルの攻防……というか話し合いはしばらく続きそうだ。
ミオとヒナタもロロンとフェルから話を聞くことにする。
「フェルは何が欲しい?」
ヒナタがそう聞くと、フェルはヒナタの頭の上に乗って考える。
「んー……あ、キッチンが欲しい!」
「キッチン?」
「ヒナタちゃんたちと一緒にお料理したいの〜!それで、みんなで青空の下でご飯を食べるの〜!きっと美味しくて楽しいはず〜!」
「なるほど、そういうことね!とっても楽しそう!」
「ヒナタちゃん、フェル。それ、協力させて欲しいな。私もみんなでお料理したりしたい」
ミオもフェルとヒナタの考えに賛同だ。
「いいねー!家庭科の調理実習とか、野外炊飯みたいで楽しそう!ちょっとあこがれてたんだよねー!」
ロロンもノリノリな様子だ。
「お、何を作るか決まったっすかー?」
ハルキとパルも駆け寄ってきて、ヒナタとフェルの話を聞いた。
「えっと〜……ひとまず、何が必要か書き出すところからでいいですかー?」
すちゃっとノートとペンを用意するヒナタ。
「はーい!ガスコンロが欲しいで〜す」
「調理器具もたくさんいるよね〜?フライパンとか、包丁、まないたとか〜」
フェルとロロンが指折り数えながら欲しいモノを口に出す。
「調理器具か……圧力鍋とかあったらきっと便利だよね」
ミオがそう呟くとハルキが反応する。
「あ、めっちゃ便利っすよー!!我が家で愛用してるっすー!」
「あ、やっぱり便利なんですね。私の母が最近気になっていて……」
「便利と言えば、蒸し器もすごい便利なんですよっ!根菜系とか軽く蒸しておくと料理するときに時短になるんですよ〜」
ついついミオ達は便利な調理器具トークで盛り上がってしまう。
「ふわぁ……」
パルがうとうとし始める。
「ぱるぅ寝ちゃダメだよー」
ロロンがゆさゆさとパルを揺する。
「そうだ、わたあめを作る機械も欲しいよね〜」
フェルがそう言うとパルはパチッと目を開けた。
その様子を見てロロンとフェルはくすくす笑う。
「パル、わたあめ好きだもんね。ねぇ、パルも一緒にお洒落な食器のデザインとか考えよー!!」
「お洒落な食器……?」
「美味しい料理を食べるには素敵な食器も必要でしょ?あのね、ヒナタちゃんのお家に可愛い食器がたくさんあったの!ネコの顔のカタチをした小皿とか、パンダのイラストが書いてあるマグカップとか、うさぎが跳ねてる可愛いお茶わんとか〜!」
「へ〜ハルキの家はねぇ~、ワンプレートばっかりだったよ。たくさんのお皿洗うの大変だから、ワンプレートばっかりにしてるって言ってた〜」
「ミオちゃんがね、冬は土鍋ばっかり使ってるって言ってたー!うどんとかおでんとか……冬はそういう料理が食べたくなるから、土鍋をよく使うんだって」
妖精達も、パートナーの家の食生活トークで盛り上がっていたり……。
「わわわ〜!いつの間にか話し込んじゃった!意見もいっぱい出たし、そろそろ作業に移ろう〜!」
ヒナタがぱたんとノートを閉じれば、みんなも魔法を使う準備をし始める。
「早く完成させたいだろうけど、焦らず、欲張りすぎず、丁寧にやることが大事っす!魔法を使う時、妖精たちは魔力を、オレたちは体力を使うんで、『疲れてきたー』って思ったら、魔法を使うのはストップ!疲労時に魔法で作ったモノは強度や性能が悪いモノとかになっちゃいますからねー!」
「はーい、気をつけます!」
ミオとヒナタはハルキからのアドバイスをしっかり聞き、作業を開始した。
「ヒナタちゃん、素敵なキッチンを作ろうね〜!」
「うんっ!超素敵なキッチンを作ろっ!!」
ヒナタとフェルはキラキラと輝く笑顔を浮かべた。
だだっ広い芝生が広がる場所に、銀色の光、黄色の光、紫色の光がくるくると踊り、調理に必要なモノが次々と現れる。
コンロ、水場、冷蔵庫、オーブン、電子レンジ、炊飯器……。
「さ、さすがに疲れた……」
ぺたんと地面に座るミオ。ロロンもごろんと寝転んだ。
「ふぅー……今日はここまでっすね!」
ハルキは額から垂れた汗をタオルで拭きつつそう言う。
「それにしても……なんかちょっと、不思議な光景になったね〜」
ヒナタがそう言えば、ミオも「確かに」と頷く。
「野原にキッチンがあるのって不思議な感じ」
ミオはぼんやりと目の前の景色を見ながらそう呟いた。
すると、寝転んでいたロロンとフェルはピコッと起き上がる。
「完成が楽しみだねー!早くみんなでお料理したいっ!」
「明日も頑張ろ〜ヒナタちゃん!」
2人のワクワクした気持ちがヒナタたちにも伝わり、今日の疲れが少し和らぐ。
「明日も頑張るぞ〜!」
ヒナタの叫び声が庭園内に響いた。
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