19. 庭園の整備

「本当に、本当に助かりました!ありがとう!それとご苦労さまです!マジでなんで、私たちがいない時に悪魔復活しちゃうんだろうねー?今度は瞬殺してやるわ」

「ちょっと落ち着けよ、冬村……」

深々とミオたちに頭を下げるツバキ。ミナトも「ありがとな」と感謝の言葉を口にした。


昼放課、いつものように秘密の庭園のガゼボにお弁当を持ってやってきたミオたちを待っていたのは、ツバキとミナトだった。


「あ、頭を上げてくださいっ!ツバキ先輩……!」

ミオがおろおろしながらそう言うと、ガバッと頭を上げたツバキはガシッとミオの手を掴む。

「シュシュから聞いたよ!悪魔を浄化、ミオちゃんがやったんだって!すごいね!」

「それは……ロロンや、藤居先輩、ヒナタちゃんのおかげです」

「今年の1年生は、優秀な人で良かったわ。これからもその調子で頼むぞ〜!」

「ミナト先輩、オレも優秀っすよねー?」

「もちろんだ、お前も超優秀な俺の自慢の弟子だぞー!」

わちゃわちゃとじゃれてるミナトとハルキを放っといて、ツバキは平たくて大きい箱を机に置いた。

「これ、お土産のお菓子。いっぱい持ってって!!」

ツバキが箱の蓋を開けると、そこには色んな動物のイラストがプリントされたクッキーがズラリと並んでいた。

「わぁ〜!可愛いクッキー!ツバキ先輩たち、遠足で動物園に行ったんですね」

ヒナタがどの柄のクッキーにするか迷いながらそう言う。

「そーなの。見て、触れ合いパークでアルパカとツーショットしてきた!」

ツバキがスマホを取り出して写真を見せてくれた。

何だかやる気がなさそうにも見えるアルパカと、満面の笑みのツバキ。

対比が面白くて思わずヒナタとミオはクスッと笑ってしまった。


しばらくガゼボでクッキーを何枚か食べつつ、ツバキとミナトの遠足での話を聞いていた。


「さて……そろそろ本題に入ろうかな」

ツバキがピシッと背筋を伸ばすので、おのずとミオたちもシャキッとする。

「悪魔を浄化したので……今日の放課後、庭園の整備をします!」

ハルキとミナトがパチパチと拍手をする。対してミオとヒナタは首を傾げた。

「庭園の整備……って何をするんですか?」

ミオの質問にハルキが答えてくれた。

「2人も知っての通り、灰色の地面が広がってるだけで、なにもないじゃないっすか、あそこ。なので、今オレ達がいるこの場所みたいに、綺麗な場所にするってことっすよ。あ、もちろん魔法を使って!」

「ま、見たらわかるよ」

ミナトがニカッと笑ってそう言った。



そわそわと過ごしながら午後の授業が終わり、ミオとヒナタは急ぎ足で庭園に向かった。

昨日、ミオたちが悪魔を浄化した場所は、悪魔が消えただけで、あいかわらず灰色の大地が広がっていた。

「さてさて、さっそくやっていきましょうか〜」

ツバキの言葉に全員が頷く。

「まずは、俺たち先輩組の姿をその目でじーっくり見てくれっ!」

ミナトがビシッと指を差した。

「ミナト、人を指差すのはよろしくないのでは?」

ミナトの傍でふわふわ飛んでいるフィーナに注意される。

「ちょっとミナト先輩、いきなりカッコ悪いところを見せちゃって、どうするんっすかー」

「しょ、しょーがないじゃんかぁ。ハルキ、そんな目で俺を見ないでっ!」

「はいはーい、お喋りはそこまで〜。庭園の整備、始めるよー」


気を取り直して……。

シュシュ、フィーナ、パルは杖を取り出した。

「それで?ツバキ、この場所はどんな感じにするんだ?」

シュシュがツバキにそう尋ねる。

「そうだね、とりあえず芝生にしよっかな。二人もそれでいいよね?」

「りょーかいっ」

「大丈夫っす!」

ツバキたちのはめている指輪が光り、シュシュたちの杖からキラキラと光りの粒が溢れ出す。

「灰色の大地から、芝生の大地に〜なれっ!!」

シュシュたちが杖をくるっと回す。

心地よい風が吹き、若草色の光りが灰色の大地を覆う。

光りが消えると、芝生の大地が広がっていた。

「す、すごい……」

「わぁ……!キレイ!」

ミオとヒナタは感嘆の声をあげる。


「ふぅ……ちゃんとシュシュたちの魔法が使えたってことは、この場所にいた悪魔をちゃんと浄化できたってことね」

ツバキは満足そうな表情だ。

「悪魔がいる限り、灰色の大地をキレイにしようとしても、ロロンたち妖精の魔法はきかないってことですか?」

ミオがそう聞けば、ツバキとミナトは頷き、苦笑いする。

「そうなんだよ。過去にさ、悪魔を浄化できた〜って思って整備しようと魔法を使ったんだけど、全く反応しなくってさぁ」

「あの時は驚いたよね。まさか、私たちが浄化したのは手下で、ボスは離れた場所にいたっていう……」

「ふんっ……だいたい、手下の方が体格がいいのが悪いんだよ。あんな細くてひょろい方がボスだなんて思わないだろ……」

シュシュが当時のことを思い出して苦い顔をする。

「ほえ〜過去にそんなことが……。まだ、庭園には灰色の大地……悪魔が残ってますよね。昨日みたいに、悪魔の封印が解ける前にパッと浄化したいですねぇ」

ヒナタの言葉にミオは頷く。

「庭園に残っている悪魔の像は確か……あと3体ですよね」

「明日からは、悪魔の像を浄化する班と、この新たな地を整備する班で分かれて作業しようね。ハルキ、ミオちゃんとヒナタちゃんと一緒に整備よろしくね。私とミナトは悪魔の像の浄化してくるわ」

ツバキがテキパキと采配し、今日の活動はここまでとなった。


「庭園の整備か……ちょっと緊張しちゃうな」

庭園からの帰り、ミオがぽつりとそう呟いた。

「大丈夫だよ〜、ミオちゃん。庭園の整備はね〜、すごい楽しいんだよ!ね、だからそんな不安にならなくてもだいじょーぶ!」

ロロンの屈託のない笑顔にミオの不安は和らいだ。

「わかった。じゃあ、ロロン……また明日!」

ミオは、明日の庭園の整備が少し楽しみになった。

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