12. ようこそ、我が家へ
鶯高校に入学して、ヒナタと園芸委員会に入って、ロロンと出会って、秘密の庭園を見つけ、ツバキ達と出会って、魔法の練習を始めて……あっという間に4月が終わり、ついに5月……ゴールデンウィークに入った。
ふわぁと、ミオはあくびをして食べ終わった朝食の食器を洗っていた。
食器を洗い終わると、ミオは自室の棚から箱やら缶やらをいくつも取り出した。
「今日は何を作ろうかな……」
箱や缶には、綺麗な柄の布地やフェルト、ビーズ、アクセサリーパーツが入っていた。
ミオの趣味は手芸だ。部屋には今までに作ったビーズアクセサリーやくるみボタンのヘアゴム、フェルトマスコットに羊毛フェルト、UVレジンで作ったバッグチャームが並んでいた。
ビーズアクセサリーを作るか、くるみボタンを作るか……ミオが悩んでいると、左手の小指にはめている指輪がぽわっと光る。
淡い黄色の光の粒子が人型を形成する。
「やっほーミオちゃん!ゴールデンウィーク楽しんでる?」
ミオの相棒であるロロンが姿を現した。
「今から何か作ろうと思っていたところ。ロロンはどうしてこっちに来たの?」
「今ごろミオちゃん何をしているのかなーって気になって」
ロロンは床に並べられた手芸で使うパーツを見つけて「おぉ……キラキラな物がいっぱい!」と嬉しそうに見て回る。
「ミオちゃんは、何を作ろうとしてたの?」
「ビーズリングかくるみボタンを作ろうと思って」
ミオはスマホを手に取り、昨日の夜に見ていた手芸関連の動画を履歴から探し出す。
「ビーズリングならこれを作りたいなーって思ってるの」
「わぁ〜キラキラ!可愛い!」
ロロンはスマホの画面をまじまじと見る。
「くるみボタンなら、この柄の布を使って作ろうかなって……」
ミオは箱の中から1枚の布地を取り出してロロンに見せる。
「わ、おしゃれ!蝶の柄だ!」
「ヒナタちゃんにプレゼントしようかなって思っているんだけど、ビーズリングとくるみボタン……どっちがいいと思う?」
「んーー……ヒナタちゃんなら、このビーズリングが好きそうっ!」
「ありがとう、ロロン。それじゃあ、今日はビーズリング作りで決まり!」
ビーズリングで使う道具以外の物をミオが片付けると、ロロンも手伝ってくれた。
「あのね、ミオちゃん。ビーズリング作り終わってからでいいんだけど……ミオちゃんの家を案内してもらいたいな〜って……」
片付け終わるとロロンはもじもじしながらそう言った。
ビーズリングを作り終わってからでもいいが、夕方には母親が仕事から帰ってくるし、ビーズリングはゴールデンウィーク明けにヒナタに渡すつもりだから、今日中に何が何でも作らなくてはいけない……ということはない。
「いいよ。今から案内するよ」
「え、いいの!?やったぁ!」
ロロンはミオの周りをぐるぐると飛び回った。
「ね、ミオちゃんの部屋の窓からは何が見えるの?」
ロロンはまず真っ先に窓辺へと向かった。
ミオは鍵を開けてロロンと一緒にベランダに出た。
「そんな面白いものは見えないよ。ここ、住宅街だし。あぁ……斜め前に公園があるよ」
ミオは公園を指さした。
「ブランコ、すべり台、ジャングルジムに砂場……ミオちゃんも小さい頃はあの公園で遊んでた?」
「うん。小学生の頃まではね」
「ちなみにミオちゃんが一番好きな遊具は何?」
「ブランコかなぁ……」
ミオは久々にじっくりと近所の公園を見た。二年前に修繕工事が入り、ブランコは黄色の塗装から青色の塗装に変わった。逆に青色の塗装だったジャングルジムが黄色の塗装になっていた。
ミオは一階のリビングにロロンを連れて行った。
ロロンは自由に飛び回り、写真が飾られている棚の上に降りた。
「これがミオちゃんのお父さんとお母さん……」
じぃ~とロロンは家族写真を見る。
「ミオちゃんの目元はお母さん似……かな?」
「そうだね。眉とか、唇はお父さん似って言われる」
「確かに〜」
ロロンはミオの顔と写真に写る両親の顔を何度も見比べていた。
写真を満足するまで見ると、ロロンはまたふわふわとリビングを飛び回る。
今度は、旅行先で買った置き物や、ミオが両親に贈ったプレゼントが飾られている棚にロロンは降りた。
「あ、このくまちゃんの人形……ミオちゃんの部屋にもあったよね?確か白色!」
リビングの棚に飾っているのは紫色と赤色のくまの人形だ。
「これは、二人の誕生日に私が手作りしてプレゼントしたの。お母さんは二月が誕生日だから、アメジスト色のくま。お父さんは七月だからルビー色のくま。練習もかねて作ったのが、私の部屋にあるくまなの」
「へぇ……素敵だね。ちなみに、練習のくまちゃんを白色で作ったのはなんで?」
「一応、自分の誕生石の色をイメージして白色にしたの」
「白色の宝石……もしかして真珠?じゃあ六月が誕生月?」
ミオは笑いながら首を横に振った。
「残念。四月なの。だから誕生石はダイアモンド。でも、透明な布で作るわけにはいかないから、白色にしたの」
「そっかぁ!四月……あれ、ミオちゃんの誕生日って先月!?え、いつだったの!お祝いできてない!!」
ロロンがあわあわしてそう言えば、ミオはさらに笑って答えた。
「四月三日が誕生日。入学式の前なの」
「うー……入学式の前だったとは言え、今度お祝いさせて!」
「そんな、別にいいよ?」
「だめだめ!やるっ!準備するから待ってて!庭園にいる妖精達みーんなで準備するから楽しみに待ってて!!」
「それじゃあ、楽しみに待ってるね」
ロロンが「任せて!」と胸をドンッと叩くと、きゅ〜っとお腹が鳴る音がした。
ミオはふふっと笑う。
「この間、美味しそうなクッキー買ったんだ。一緒に食べよう」
ミオがそう言えば、ロロンは照れ笑いをした。
ロロンは自分の頭と同じくらいの大きさのクッキーを美味しそうに食べていた。
ミオも紅茶と一緒にクッキーを食べる。
「ねぇ、ミオちゃん。また遊びにきてもいい?」
ミオは頷く。
「もちろん!庭園でも、家でも、一緒にたくさんお喋りして、美味しいもの食べよう」
ゴールデンウィーク初日、二人は穏やかな一日を過ごした。
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