4. 声に導かれて
中庭の花壇に球根を植え、後片付けが始まったのは五時半頃だった。
「ふぅ……スコップ綺麗に片付いた~!ミオちゃんの方はどう?大丈夫?」
「うん、大丈夫。散乱してた軍手とかじょうろ、綺麗に棚に入れ直せた」
ミオとヒナタは用具庫を見回した。ちゃんと足の踏み場があり、今は綺麗に片付いている。
先輩に用具庫の場所を教えてもらい、スコップや軍手を片付けにきたミオ達は最初、驚いた。
足の踏み場がないほどにじょうろや軍手……空気の抜けたサッカーボールやバレーボールが散らばり、掃除で使う竹箒がぐちゃぐちゃに角にまとめられていた。
これは流石にこのままではいけないだろうと思ったミオ達は、綺麗に整理整頓することにした。
そうして綺麗に片付け終わり、ミオが腕時計を見ればもうすぐ6時になろうとしていた。
「ヒナタちゃん、急いで戻ろう。もうすぐ6時になる」
「本当!?急げ急げ~!」
ミオとヒナタがいそいそと用具庫を出ようとした時だった。
『みぃ~つけたっ!!』
幼い少女の声が聞こえた。
ミオとヒナタは後ろを思わず振り返る。しかし、誰もいない。
『ねぇ、こっち!こっちに来て!』
また少女の声が聞こえるが、さっきとは違う少女の声だ。
ミオとヒナタの前でチラチラとキラキラと光の粒子が用具庫の奥へと2人を誘う。
『良い子だね~そうそう、こっち!』
『私達の見立ては間違ってなかったね!あ、そこ!その扉を開けて!』
ミオとヒナタは目を見開く。
薄暗く土埃舞う用具庫の奥に汚れ1つない真っ白な扉があったのだ。
「扉……さっき見た時はなかったのに」
ミオはそう呟きながら、そっと指先でドアノブに触れる。
さわれた。固い感触。幻でも何でもなく、その真っ白な扉は存在している。
『開けて開けて!こっちに来て!』
少女が開けてとせがむ。
「ヒナタちゃん……どうする?」
「……とりあえず、開けてみない?」
ヒナタがそう言えば、ミオはドアノブを掴み、扉を開ける。
パアッと眩しい光が2人を包み込んだ。
「うぅ……」
目をシパシパさせるミオ。
そんな時、ふわりと心地の良い風がミオの頬を撫でた。
目をおそるおそる開けたミオは、絶句した。
目の前に桜の木。もう校内の桜は花びらは全て落ち、青々とした葉が生い茂っていた。
しかし、目の前の桜の木は、柔らかなピンク色の花がまだ咲いている。
正直な話、桜がまだ咲いていることに関してはそれほど驚いていない。
何より驚いたのは……
桜の木の下にヒマワリが咲いている。隣に赤い花が咲く木……椿だ。
水仙、南天、薔薇、菫、南天、チューリップにリンドウ、キキョウ、シクラメン……
季節に関係なく花が咲いている。
「ひゃあっ!?」
後ろの方でヒナタの声が聞こえ、ミオは振り返った。
ヒナタが指差した先……
浮いている……というか、ひらひらと泳いでいる。金魚が。
ここは水中でもないのに。
「ここ……どこ?」
ミオはかすれた声でそう呟いた。
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