第10話 真実

語り:吹雪


 赤毛に続いて私もシャワーを借りた。巳影さんが用意してくれていた服に袖を通し、居間に戻るとそこには巳影さんの姿は無く、赤毛と皆神君の2人が座って話していた。




「...あの人は?」

「ああ、アルバイトだって言って、さっき出てったぞ」

「来たな、じゃあそこ座ってくれ」

 皆神君が私の足元を指差して言った。改まってどうしたんだろう?

「...それじゃ教えてくれ。アイツらのこと」

 赤毛の口ぶりからして、彼は私達を狙っている奴らのことを知っているようだ。


「ああ、けどその前に1つ教えてほしい。お前ら一体何があったんだ。何であんなのに狙われてた?」

「それは...」

 皆神君が私の眼を真っ直ぐ見る。私は自分達の身に起こったことを話そうと、言葉を絞り出そうとした。でも...


 昨日は私と赤毛と揚羽の3人で... 港に行って... そこで...


「...ゔぅっ...!」

 思い出してしまった。つい昨日起こったばかりの、決して無かったことにはできない辛く苦しい出来事を。瞬間、体の震えが止まらなくなり、呼吸がうまくできなくなる。折角体を綺麗にしたばかりなのに、全身から冷や汗が噴き出すような嫌な感覚がした。


「...いや、やっぱり今のは忘れてほしい。今聞くべきじゃなかったな。悪かった、本当に...」

 皆神君は慌てて訂正し、こちらが申し訳なくなるほど私に謝ってくれた。けど違う、彼は悪くない。悪いのは、何もできない私だから...

「俺が話すから... 大丈夫だ...」

 赤毛が私をなだめながら、なるべく私に聞こえないように小声で皆神君に全て話してくれた。




「そうか、友達が... ...そうとは知らず、辛いことを思い出させた...」

「もう大丈夫だから、気にしないで...」


「...さて、整理すると、お前らの命を狙ってるのはその男と、今朝の2人組、計3人か」

「ああ、俺達はアイツらにどうにか復讐しようと考えてる。...けど、あの体たらくじゃそんなの、夢のまた夢だよな...」

「そりゃ間違いない。何せ奴らは、正規の戦闘訓練を経験してるからな。異能なしの肉弾戦でも、お前らじゃ敵わない。ただ、問題はそれだけじゃなくてな...」


 皆神君は頭を掻きながら言った。


「お前らは不運にも巻き込まれたんだ、異能者を統括しようとする組織の策略に」




 今から20年以上前、高度な技術力を有するとある機関が能力者を創り出す研究をしていたらしい。


「その研究の成果が実を結び、俺やお前らのような『異能者』が当時何百人も生まれたそうだ。そして、俺達はその『異能者』の血を継いでいる。奴らのお仲間は研究の末に後天的に異能を得た被験者を『一世』、俺達みたいに異能を生まれ持ってるようなのを『二世』って呼んでるらしい」


「つまり、アイツらはその組織の一員ってことか?」

「ああ、正確な規模は俺にもさっぱりだが、奴らに楯突くなら少なくとも何百人の異能者を敵に回す羽目になるだろうな」


「それと、奴らはここ最近、『二世狩り』を始めている。お前らの言う『失踪事件』も、まあ間違いなくそれだ。行方不明になってるのは俺達の同世代ばかり、消えた人達は皆『異能者』だったってことだ。ソイツらが何されてるかまでは分からないけどな」


 全く想像もしてなかった。私達が知らないところで、そんな大きな動きがあったなんて。皮肉なことに、この真実を一番知りたがっていた揚羽は、もうここには居ない。




「...というか、よくもまあ『失踪事件』なんてきな臭いことに首突っ込もうと思ったな」

「ああ、俺達にとっちゃ、いつもの事だよ。揚羽はそういう奴だったからな」

「そう...だね... 「信頼できる情報筋から仕入れた情報だ」って張り切って―――――」


「...吹雪?」

「あ... まさか...」


「信頼できる情報筋」。揚羽が何気なく発したこの言葉について、今まで深く考えたことはなかった。でも...


 その「仕入れた情報」を元に私達は港に向かい、倉庫でメカネを発見した。そして突然追われる身になったんだ。何故その港へ行ったのか。それは、直近で失踪した人が最後に目撃された場所だから。その人がいなくなって1日も経っていなかったというのに、「情報元」は何故そんな事を知っていたのだろうか。


 無闇に言いふらした事はなかったが、奇しくも私達は3人とも異能者...『二世』、奴らの標的だ。考えすぎなだけかもしれないが、あまりにも流れが綺麗すぎる。つまり、私達はその「情報元」に...


「...嵌められた」


 最悪な結論が頭をよぎった私は、そう独り言ちた。

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