第8話 皆神
語り:吹雪
「...え...?」
青い髪の青年が突然現れて、敵の1人を一瞬で無力化してしまった。あれは...誰?
「何だ...? お前、今何した...?」
「卑怯だ、なんて言うなよ」
頭が激しく割れたからか、赤毛を拘束していた奴はその場に力無く倒れた。辛うじて意識はあるみたいだけど、体に力が入らないようだ。
「は? 何、お前? ボク達の邪魔しないでくれる?」
「黙れ。胸糞悪いマネしやがって... 俺はお前みたいなのが一番嫌いなんだ」
もう1人の敵は、その青年に鋭い敵意を向けた。状況はよく分からない...けど1つだけ確かに言えることは、あの青髪の青年は私達の敵じゃないということだ。
「不意打ちで一撃入っただけで、調子乗んなよ!」
奴は視認できないほどのスピードで、青年との距離をゼロにした。身のこなしが先ほどまでと全く違う。全然本気じゃなかったんだ、私のときは...
「オラッ!」
「ぐっ...!」
彼は全く反応できないまま、奴に頬を殴られた。口内を切ったのか、彼は口から血を吐いた。
「ボクに大口叩いたんだ。こんなんじゃ済まさない...!」
奴は流れるように、彼の腹部目がけて蹴りを放とうとした。その時、
―――――青年の姿が、突然消えた。
「なっ...!?」
奴の蹴りは空を切り、体勢を崩して転びそうになっていた。青年は何の前触れもなく、奴の背後に回っていたのだ。
「お前こそ、相手を一方的にボコれると思うなよ!」
「うっ...!」
蹴り終わりで体勢が悪い敵に向かって、青年が選んだ手はタックルだった。戦闘慣れしているであろう奴も、流石に躱しきれずその場に倒れ込んだ。
「お前...! よくもこのボクに...! 絶対に許さないからな!」
「これで少しは分かったか、他人にコケにされる気分が」
先ほどまで余裕綽々だった奴の表情から余裕が消える。その凶暴な本性を露わにして叫ぶ奴に対し、青年は更に煽るように返した。
「ハッ、でももうお前の手の内は分かったぞ。まさかボクと同じ『瞬間移動』持ちの異能者だなんて思わなかったよ」
奴の能力、『瞬間移動』。さっき動きを目で捉えられなかったのは、能力を使ったからだったんだ。
「でもさ~、何と言うか、キミ戦闘経験あんまり無いでしょ? 動きが完全に素人のそれだったよ」
「...それがどうしたんだよ」
「もうボク本気出すから。だからキミみたいな素人は、何もできず殺されるしかできないってことだよ...!」
そこからは目も当てられないほどの、一方的な暴行だった。本気を出した奴の動きは、端から見ている私はおろか対峙している青年にも、理解が全く追いつかないほどに凄まじかった。『瞬間移動』を用いた、目で追うことが不可能なあらゆる方向からの強烈な打撃に、青年は何の抵抗もできていない。
気づけば奴は大の字に倒れた青年に馬乗りになり、高笑いしながら無抵抗な彼を殴り続けていた。肉と肉がぶつかり合う鈍い音が響くたびに、血しぶきが辺りに舞っている。
「ハハハ! 死ね死ね!」
青年を一方的に痛めつける奴の表情は、かつてないほど清々しい満面の笑みだった。こんなに酷いことをしておいて、どうしてあんな顔ができるのだろう。
私も赤毛も、その場から全く動けないでいた。私達は目の前に広がる凄惨な光景に、ただ恐れ慄くことしかできない。
「...だいたい分かった。お前の『異能』...」
「...あ?」
自身に振り下ろされようとしている拳を片方の手で掴み、青年はそう呟いた。
「まだ何とかなると思って―――――熱っ!」
何があったのかは分からない。でも奴が突然怯んだ。その隙に青年は即座に体を起こし、今度は逆に奴にのしかかった。
「クソ、離せ!」
「拘束されてる状態だと、『瞬間移動』は使えない。そうだろ!? 実際お前にぶん殴られてる最中、俺『瞬間移動』使えなかったからな!」
まるで自分の異能をよく知らないような物言い、少し奇妙だ。そう思ったとき、私には見えた。奴の拳に、先ほどまで無かったはずの、火傷のような痕が。
青年の物言いに違和感を覚えたのか、奴は声を荒げて叫んだ。
「何だ!? 何なんだお前!?」
「...俺の異能は『瞬間移動』じゃない」
「ぶっ...!」
青年は奴の顔に思い切り掌を当てた。直後、
「...がああああああああああっ!」
奴は突然、喉が潰れるほどの大声をあげて苦しみだした。額に押し当てられた手をどかせようと必死に藻掻いているようだが、全く振り解けないらしい。
一体何が起こってるんだろう。私には全く分からなかったが、その瞬間異臭が鼻をついた。
これは、肉が焼ける匂いだ。まさか...
「私の能力...?」
私の能力は『温度変化』。掌で触れたものの温度を変えることができる。体を掴むことさえできれば、相手に大火傷を負わせることも可能だ。
「アハハ...」
憎い敵が、私の能力で苦しんでいる。本来、目も当てられないような光景のはずなのに... ふと顔に手を当てると、私の口が三日月形に吊り上がっているのが分かった。
やがて奴の声はだんだん小さくなり、ついに聞こえなくなった。どうやらあまりの責め苦に気を失ったようだ。
「...あ...」
気づけば、青年は私の目の前まで近づいてきていた。隣には赤毛もいる。
「...悪かったな。アンタの『異能』使って、あんな残虐なことして...」
青年は、私と目を合わせずにそう言った。
「貴方は...?」
「...俺は
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