第3話 分散

語り:吹雪


「お前らに恨みは無ぇが、まあ運が悪かったな」

 男は私達の方へ向き直り、鋭い殺意を向けてきた。私でも分かる。アレは何人も手にかけてきた殺人鬼の目だ。


「会話には... 応じてくれなさそうだね...」

 揚羽は冷静に状況を判断し、平和的に事を収めるのは無理だと悟った。

「ここは俺の『能力』で―――――」

 不幸中の幸いか、私達は他の人にはない『能力』を持っている。特に赤毛の『能力』であれば、人1人くらいなら何とか抑え込めるだろう。

 男に聞こえないよう、小声で話していたその時だった。


「...何コソコソ話してんだ!?」

 男は拳を構え、私達に向かって勢いよくスタートを切った。その拳が振り下ろされる先は―――――男に一番近い所に立っていた揚羽。

「うわっ...!」

 揚羽は必死に身を翻し、辛うじて男の拳を躱した。しかし、その勢いは衰えることなく、男はコンクリートの地面に拳を思いきり打ち付けた。その瞬間、凄まじい爆風が発生し、周辺のコンクリートがいとも容易く砕け散った。

「キャッ...!」


 揚羽は倉庫の奥に、私と赤毛は倉庫の外に吹き飛ばされた。私は背中を打ち、痛みに顔を歪ませながらも立ち上がる。

「痛ったぁ...」

「何だこの威力...」

 拳1つで人間を吹き飛ばすなんて、明らかに常人の域を超えている。思えば、最初あの男が走って来たときも、あり得ない速さだった。まさかあの男...


「...能力者...」


 外からでも、揚羽が呟いたのが聞こえた。舞い上がった粉塵のせいで、倉庫内の様子はよく見えない。揚羽は怪我などしていないだろうか。

「揚羽ー! 大丈夫!?」


「私は大丈夫だよ! それより...」

 私が大声で呼びかけると、揚羽も大声で返す。

「コイツの仲間が近くにいるかもしれない! 2人とも、直ぐに!」

 こんな状況だというのに、揚羽は私達に的確な指示を下した。本当に頼りになるな...

「で、でも...」

「いいから行くよ! 赤毛!」

 私は赤毛の手を引き、即座にその場を離れた。



「なあ吹雪! 揚羽を置いて逃げるなんて...」

 私のすぐ後ろを走りながら、赤毛が言った。気持ちは分かる。揚羽が心配なのだろう。でも...

「...揚羽は『来た道を戻れ』って言ったの! 『逃げろ』なんて言ってない!」

「は? それってどういう...」

「いい? あの男に仲間がいたら、私達は挟み撃ちされてたの。だからそうなる前に、これからやって来るあの男の仲間を見つけて、やられる前にやる! たぶんそういう事!」

「本当にそうか...?」

「私達付き合い長いんだから、それぐらいは察してあげなきゃ!」


 ただ、私も揚羽のことは気がかりだ。どうか無茶はしないでほしい。とにかく今は、あの男の仲間を捜さないと...!






「...ぶっ!」

 それは突然のことだった。私達の目の前に、何かが飛んできた。それは地面と激しく激突し、私の足元に転がってきた。

「...え!?」

「何だぁ!?」


「くっ...」

 それは頭だけのサイボーグ、メカネだった。

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