第2話 遭遇
語り:揚羽
「メ... メガネ...」
「!?」
驚いた。吹雪が持っている頭部だけのマネキンが、突然喋ったのだから。一方で、どこから声が発せられたのかを察した吹雪の顔は、みるみるうちに青ざめていった。
「イヤアアアアア!!!」
「ぶっ!!」
吹雪は全力でマネキンを地面に叩きつける。固い地面と激しくぶつかったそれは跳ねて転がり、短く呻いた。
「何だ何だ!?」
ただ事ではないと感じたのか、先ほどまで倉庫の入り口でへばっていた赤毛も急いで駆け寄ってきた。吹雪は小刻みに震えながら、痛いほど私に強く抱き着いている。
「...何だコイツ?」
「うぅ... メガネ...」
また何か喋った。メガネ...? そう言えば、向こうに落ちてたのを拾ってたんだった。私は吹雪の腕をそっと振り解き、マネキン...生首へ歩み寄った。
「ちょ、ちょっと揚羽... やめときなよ...」
吹雪の制止を聞かず、私は生首の目の前にしゃがみ込み、声をかける。
「...ねえ、メガネってこれのこと?」
近視かな? 拾ったメガネを眼前まで近づけてみよう。
「ああ、それだ。申し訳ないが、かけてくれないか、それ」
良かった。会話は成り立つらしい。
「助かったよ。何せ、首から下がないもんだから、1人じゃ何もできなくて...」
生首は淡々と礼を述べた。首だけというところ以外は普通の人としか思えない立ち居振る舞いだ。
「ねえ、生首さん。あなた何者?」
流石に訊かなければ。間違いなく只者ではない。
「そうだな、言うなれば僕は"サイボーグ"だよ。訳あって首から下とは離れ離れだけどね」
生首は笑顔でそう答えた。
「サイボーグ...?」
吹雪は少し落ち着きを取り戻したらしく、声を震わせながらそう言った。
「そう、サイボーグ。名前は... 『
『メカネ』... 頭だけだというのに、ダジャレを言えるくらいには余裕があるようだ。
「凄ぇ...! サイボーグっぽい事、何かできるのか!?」
普段は飄々としている赤毛が、今回はやたらと食いついている。サイボーグという響きが、少年心にクリーンヒットしたのだろうか。
「う~ん... この状態でもまあ、出来ないことはないんだけど、そう易々と見せられるものじゃないかなぁ... ごめんね」
「そうか... それなら仕方無いか...」
「ところで、話は変わるけど、君達はどうしてこんな所に?」
...おっといけない、話が逸れていた。
「私達、『連続失踪事件』の調査でここに来たの。直近で行方不明になった子が、最後に目撃されたのがここだって聞いて、何か手がかりがないか捜してたんだけど...」
事情を話しながらメカネの方にちらりと視線を向けたとき、終始笑顔だった彼の表情が消えていることに気づいた。軽率に話し過ぎてしまったか...
「...直近の行方不明者って、君達と同じくらいの歳の子かな...?」
「...ええ。その通りだけど...」
私は躊躇いつつも、正直に話した。警戒はしたが、彼から敵意は感じなかったからだ。すると彼は、深くため息をついた。
「そうか...」
「...悪い事は言わない。3人とも、もうこれ以上この件に首を突っ込んではいけない。僕の事も忘れて、すぐ帰るんだ」
間違いない。メカネは確実に事件の真相を知っている。本当なら意地でも真相を訊き出したいところだが、こうも真剣に遠ざけられると、流石の私もこれ以上追究しようとは思わない。
「...吹雪、赤毛、付き合わせてごめんね。もう帰ろう」
2人は無言で頷く。気持ちは今の私と同じらしい。
「そうだ。それでいい」
メカネに別れも言わず、3人揃って倉庫を立ち去ろうとしたその時だった。
「...あれ? 何だお前ら?」
出口には怪しい男が立っていた。筋肉質な金髪の男で、左目の下に古傷がある。
「...!」
男は私達3人を見るや否や、倉庫全体を舐めるように見渡した。
「クソ... 最悪だ...!」
私からは分からなかったが、メカネの表情からは余裕が完全に消えていた。そんな彼を怪しい男は目で捉え、直後邪悪な笑みを浮かべた。
「やっぱりここだったか... 全く手こずらせやがって...」
漢は私達の傍を通り過ぎ、メカネの方へ歩いて行った。吹雪も赤毛も状況が飲み込めず、歩みを止めてしまった。
「早く行こう」
2人の背後から背中を押す形で、私は言った。
「...うん」
「...ああ」
2人は少し間を置いて返事をした。決して穏やかな空気ではないから、メカネの事が気がかりなのだろう。私も同じだ。
メカネの口ぶりからして、あの怪しい男は間違いなく事件に一枚噛んでいる。しかし彼は私達に「このことは忘れろ」と言った。彼は事件の真相を知ったうえで私達の身を案じ、遠ざけようとしたのだろう。であれば彼の思いを無碍にする訳にはいかない。
きっとメカネはこれから酷い目に遭う。でも私達にはどうすることもできない。少々後味は悪いが、直ぐにでもこの場を立ち去り、この事は綺麗さっぱり忘れてしまおう。
「おい待てガキ共。お前らも逃がさねえぞ」
「...ヒッ...」
...どうやら、私達も無関係ではいられないらしい。
「おい! その子達は何も知らない! 無関係だ!」
「...あ?」
男を制止したのはメカネ。しかし彼は首だけの状態であり、男に逆らうにはあまりに無力だった。男はメカネに再び歩み寄り、壁に向かって思いきり蹴飛ばした。
「知らねえよ。お前のこと見ちまった時点で、ガキ共も消すしかねえんだよ」
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