第10話

私は黒花のことが嫌いだった。

いつも明るくて強くて、優しい。

なんで私はになれなかったんだろうって思ってしまうから近くにいたくなかった。

でも彼女といると心がすごく安らぐのだ。ずっとそばにいたかった。

世間からは大きな批判を受けるだろう。それでも————————。


そう思っていた。普通に考えれば黒花を私の私情で巻き込んではいけなかったのだ。

それを思い出した私は、彼女の元から去った…

私は秘めた思いを心の奥深くに閉じ込めた。

これで、もう大丈夫。

彼女が苦しむことはないのだ。それだけで、充分なのだ。

私なんかがいなくなっても、誰も悲しみはしなかったし、気づかないものだって居た。

無愛想なお嬢様。頭が悪いお嬢様。

私はそうやって育てられてきた。

家を出た時は悲しくなかった。家を出たおかげであなたに会えたのだから。

清々しく笑って語れる過去なのだから。

だから今回も、きっと大丈夫。


なんて強がりを言って、大丈夫じゃないっていう悲鳴を必死に押し殺した

黒花と暮らしていた所から何億kmも離れた所まできた時、私の精神はズタボロに病んでいた。

(やっぱりあなたに甘えたらよかったの…?)

頭の悪いお嬢様は、世界が変わっても変えられないのかな…

私は大雨が降る中、ろくに水よけさえせずにただただ立っていた。

「直生…? 」

聞き覚えがある声が後ろから聞こえてきた。


私は何も言わず、その死にかけた黒い目を後ろに向けた。

「直生…!! 」

その声の正体は、やっぱり黒花だった。

「どうしてこんなところまで…直生、めっちゃ心配したんだよ? 」

黒花は目一杯に涙を溜めて、私の方を向いていた。

「直生…ごめん」

その突然のに、戸惑いの声を上げることすら、あの時の私には実行できなかった。

「直生が思い詰まってたのに、うちは…うちは気づけなかった…1番大切な人の悩みに気づけなかった…こんなになるまで追い詰めて…ごめん」

黒花はさしていた傘を投げ捨てて私に抱きついた。

「くろは、ぬれちゃうよ」

「そんなことはどうでも良い!! 」

少し強めの黒花の声が、私の耳から全身へ響いた。

「もう、1人になっちゃダメ。今度は助けるから、だから…」

「だからうちのそばにいて…うちを、ひとりにしないで…! 」

私に肩に、雨粒とは違う水が、そっと流れた。


…私はこんなに大切にされていたのか。

いいの?私がこんなに愛されて。大切にされて。

お前は一生1人だってみんなに言われたよ?

私なんかを大切にして良いの?

私は、私はこんなことをしてしまうくらい馬鹿なのに良いの…?


これが、私 古閑棚 直生こがたな なおが僕になる決心をした話の、一欠片である。


◆◆◆


きっと今、黒花は悩んでいるのだろう。

謎に勘が鋭い少女だ。

自分が名付けたヴィンデをこんなふうに壊されるなんて、きっと考えてもなかったのだろう。

真っ直ぐな少女。私の友達。大切な人。

「黒花、大丈夫だよ」

「僕がついてるからさ」


「大丈夫。何があっても1人にしないから________」

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