ヴィンデ
第8話
『別世界で同じ目に遭っている』
私がこの思考に至ったのは、私達が旅を続けた中であった経験からだ。
[division現象]
名前そのまま分裂される現象のこと。精神と体が切り離され、それぞれが自分が普通の世界にいると錯覚しながら迷い続ける。
魂が抜けた体が目を覚ますことはなく、亡骸のようになってしまう。
私たちが別次元で旅をしていた頃、ある魂と話をした時。
その魂の持ち主はdivision現象のことを知っていた。持ち主はその現象のことを突き止め、どうすれば戻れる方法研究して曝け出したそうだ。だが、その方法は1人ではできないものだった。
だから諦めて、ついには命を絶ってしまった。
その罪滅ぼしとdivision現象の開発者に向けての仕返しを兼ねて、私達にその方法を教えてくれた。
その方法は、『花』を探すこと。両方の世界。体と魂がある世界で花が発見され儀式を行えば元の世界に戻ることができる。
「つまりアタシ達は花を見つければ良いってこと…だよね…」
少し俯いた様子でマツが呟いた。
いくつか理由があるのだろうが、そのほとんどを占めていることが身動きの取れなさと情報のなさだろう。
実際、現状情報はほぼ0に等しい。動こうと思えば動けるものの、大きく動くと敵組織に見つかってしまう。
死にはしないだろうが、流石に多勢に無勢だ。
「でも! 少しは希望が見えてきたってことだよね! 」
マツが少し無理やりのような気がするが声を上げてにっこりと笑って見せる。
その笑顔はひまわりのような綺麗なものだった。
「…そうですね」
少しでも進歩する。花の情報を見つける。
今はそれしかないのだから。
◆◆◆
「division現象ねぇ…」
「うちそういうのは嫌いなんやけどなぁ…」
「ねえナオー! 聞いてる? 」
僕は黒花の愚痴をひたすらにまで受け入れていた。
僕たちが目が覚めたのは半年ほど前。
横にはカノンとマツの体が転がっていて、僕と黒花だけが目を覚ました。
僕はその瞬間からこの現象のことを思い出していたが、こちらの世界についても知る必要があったのでしばらくは様子見の期間とした。
目が覚めた場所は森の泉のそばだった。泉は綺麗に輝いていて、全てを反射してしまいそうなくらい透き通っていた。
その中心だけ小さな丘のように浮き上がっていて、上には女神像のようなものが建っていた。女神像は天に向かって両手を合わせて向けており、その手の中には水晶玉のようなものがはまっていた。肩には鳥が止まっており、女神のイメージとはかけ離れた着物などという和服姿だった。
こちらの世界はヴィンデがあった方の世界とは真逆で、獣人が人間を殺すことを掲げている。
その近くには森林が広がっていて、しばらくそこで生活した。
1ヶ月ほど経った時、人間の少年に出会った。
「誰だ!? 近づくな!! 」
少年は常に命を狙われているような動作で近づいてきた。
必死に理由を説明して、さまざまなことを聞き出した。
獣人は子供でもなんでも人間を虐殺するが、人間は絶滅しないままだった。
この世界にも人間と共に戦う獣人達の組織があるようだ。
その組織は、ヴォリュビリス。
その名前がわかった瞬間、現象の解消方法の花の種類もわかった。
ヴィンデという名前を付ける理由になった花。そしてその花の名前をフランス語でヴォリュビリス。
その花の名は________________________。
『朝顔』
◆◆◆
「獣人だからって無差別に殺すなんて…許せない…」
「この世界もうちらが救った世界に仲間入りやなぁ」
「絶対に、助け出しましょう」
「人を殺す不届きものには天罰を…! 」
彼女4人らは机を中心に手を合わせる。片手を中心に集める形で留め、この世界も救う決断をしている。
(面白いことをするものだ)
人を殺す不届きもの。天罰。それらしい言葉を並べて、ヒーローになる前座を作っている。
腹の底から笑いが込み上げてきて、何百年ぶりだろうか。声を上げて笑ってしまった。
彼女らが作った組織の名前は、『ヴィンデ』。
ヴィンデ…朝に咲く花、朝顔をドイツ語訳させたもの。
その名前を聞いて、妾はピンときたよ。
これはあれを使うしかないと。自ら思ったのは初めてなのだ。
誇るが良い。そしてその誇りを埃と化して自ら塵として焼かれるがよい。
貴様らが望む朝顔が咲くほど美しい朝など、来るわけもない、不可能なものなのだから…
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