友よ、いつかきっと私もその場所に――

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第1話

 相棒と共にその男を見つけたのは、硝煙と火薬と血の世界だった。

 しかし、予感はあったのだ。

 

 なぜならその男とあいまみえるのは、決まって戦場だったから。


「よう。まだ生きてやがったか」

「貴様もな」


「こんな風に会うのは何度目だ?」

「いちいち数えるヤツなど、極少数だろう」


「違いねぇ……」


 何か懐かしむような目をした相棒は、咥えていたシケモクを足元に吐き捨てた。私はただ静かに状況を見守っていた。


「なぁ。最後に言うだけ言ってみるんだけどよ」

「……なんだ」


「あの頃のように、もういちど成れねえか。俺達」

「……ッ」


「自分より背の高いコーン畑をさ、バカみてえに走り回って、夕陽が沈んだらウチに帰ってよ。それから……バアちゃんの作ってくれたマズイシチューを喰って、あったけえベッドで――」


「愚か者」


 相棒の願いを、その男が遮った。


「……最後まで言わせろよ」

「聞くに堪えん話に付き合う趣味はない。まったくもってくだらん」

「………………そっか」

「そうだ」


 その男は、瓦礫の壁にもたれるようにしながら座った。


「あのシチューはマズくなかった。単に貴様の好みから外れていただけだ」


 険しかった男の顔が、一瞬だけ和らぐ。

 良い思い出を楽しげに語る子供のような表情。


 そこで私は気付いた。

 男の腹部に赤黒い染みがあることに。


「……ッ! 抜かせよ、お前が味音痴なだけだろ」

「失礼なヤツ……昔から何度も同じことを口にしおって」


 信じられない、と思った。

 私の知る限り、戦場でのみ幾度も出会い、幾度も闘ってきたふたりがこんな会話をしている事が。

 相棒が私に話しかける事はあっても、一回でも今のような表情を見せたことがあっただろうか。


「ああ……そんなに俺は同じこと言ってたか」

「……うむ」

「よく覚えてやがんな。お前、根に持つタイプだったもんな」


 カチャリと音がする。

 その次は音がしなかった。ただ、銃口が目の前の男に向けられていた。


「……最後に、なんか、あるか?」


 相棒の声は震えていた。私にも伝わる程に。

 この表情を私には表現できない。

 だが、時折地面に吸い込まれる熱い雫だけが確認できた。


「……ためらうことはない、むしろ貴様に倒されることを希望する」

「おう」


「……生き残った部下たちは、丁重に扱ってくれ」

「善処する」


「…………いつか会えたら……妻と息子に、心からの謝罪を……」

「ッ……おう!」


「……それから……それから……」

「…………ッ、ッッ」


「…戦場で、不運にも貴様と…出会った回数は………五回目なわけだが」

「ッ!? お前ッッ」


「………………次に、会う時は……あの頃の…あの場所がいい……」



 相棒がたまらず駆け出していた。

 いつもはしかめッ面ばかりのくせに、ぐちゃぐちゃになりながら応急処置を試みる。


 私には、それを止める事はできなかった。

 その時初めて、幾度も戦った男の名を相棒の口から知った。


 この世界は残酷だ。

 相棒は必死に男を救おうとしたが、結局再び銃口を向けざるをえなかった。

 友の、願いを叶えるために。



「う、うァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」



 相棒の、あらゆる気持ちをふりしぼる様な絶叫。

 あとは銃声が響くだけ。


 私はせめて、しっかり見届けようとしたのだが……、






 直後に聞こえたのは大きな爆発音だった。





「はい――はい。ターゲットの――を確認しました」

「もう一名――ええ、おそらく――ではないかと。――の近くで――ええ、運悪く巻き込まれ――」


 誰かがなにかしら話している声が聞こえる。

 相棒とあの男の声は……ない。


 自分の意識が薄くなっていくのを感じる。

 私もおそらく、あまりもつまい。


 だが、最後の最後で私は人間の素晴らしさを目の当たりにした。

 最悪の世界で、それでもなお消えぬものがあることを知った。



 神よ。

 もしこの祈りを聞き届けてくれるのならば、


 どうか、相棒たちと同じ場所に……。
















「この壊れた銃はどうしますか」

「……回収しよう。乱暴に扱うなよ?」

「イエッサー」

 

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