第10話 テイマー少女


 今日からギルマスのお孫さんである【リアス】ちゃんに召喚士としての修行をつけてもらう事となった。


 宿を結構早めに出たが、リアスちゃんは既に来ていて「遅いじゃない!」と怒られた。


「とりあえず今日は街の外に行くわよ」

 昨日と同じく、赤いローブに身を包み、長い髪を一本の三つ編みにしている。


 街の外の平原まで来ると、「早速カケルの実力が見たいわ」とローブに付いているフードの中から1匹のドリルラビットが出てきた。

「この子とカケルだけで戦ってみてちょうだい」

 ドリルラビットには前にも戦った事がある。 (倒したのはエルザだけど……)


「行きなさい! ラビ!」

 リアスが声をかけるとドリルラビットは俺に向かって突進してくる。

 俺も鞘が付いたままのナイフを取り出し、応戦するが一向に当たらない。

 それどころかドリルラビットの蹴りで吹っ飛ばされる。

 それを見てリアスは一言「カケル……相当弱いわね……」


 それから1週間、ドリルラビットとのタイマン勝負は続き、やっと一撃当てる事が出来た。


「やっと動けるようになって来たわね」

「そ、そう?」

 リアスにそう言われるとちょっと嬉しい。

「か、勘違いしないでよね! まだまだ合格じゃないんだから!」

 こ、これは! もしやと思っていたけど……。

「ツン……デレ?」

「なにそのツンデレって?」

「い、いやなんでも」

「まぁいいわ、次の段階に行くわよ」

 リアスちゃんはローブの中から身長と同じ位の杖を出す。

 そのローブ、中身どうなってるの?


「次はラビと私の2人で攻撃するから耐え切ってみなさい!」

「え! 2人でって……!」

「ラビ! ゴー!」

 ドリルラビットはジグザグに移動しながら向かってくる。

 でも動きにはだいぶ慣れた。

 俺の攻撃をラビに合わせ、ドンピシャ! と思ったその時、ラビは俺の前を横切るとリアスのファイアボールの魔法が飛んでくる。

「あっぶね!!」

 魔法は間一髪避けたが、ラビの蹴りで俺は飛ばされる。


「まだまだね」

 リアスはため息を吐きながらやれやれと言った風に首を振る。

「もう一回だ!」

「いいわ! 行くわよ!」


 そして更に1週間が経つ頃俺の動きも良くなって来たのか、だいぶ2人の攻撃を躱せるようになって来た。

「とりあえず及第点ってところね」


 リアスちゃんとの修行を始めてそろそろひと月が経つ。


「あとは仲間とのコンビネーションは実践で学ぶ事ね」

「はぁ、はぁ……、わかった」

「あ、言い忘れたけど、ギルドの依頼は明日には受けなさいよ。 出ないとギルドクビになるわよ」

「は!?」

「聞いてなかった? ランクによって依頼をこなさないといけない日数があるのよ」

「もっと早く言って欲しかったよ……」

「今のカケルならFランクの依頼なんて容易くできるはずよ」

「わかった。 今までありがとうな」

「い、いいわよ、別に……、頼まれてしただけだし、貴方の為にした訳じゃないからね!」

 腕を組んでそっぽを向いているリアスちゃんは相変わらず良いツンデレだなと思う。


 修行の帰りにギルドに寄り、掲示板でFランクの依頼を探す。

[ゴブリン討伐10匹][薬草採取][ポーション作りの助手求む]などある中で[ガラメキ草採取]と言う依頼があった。


 ガラメキ草?

 何に使う草なんだ? でも依頼書を良く見ると他に比べて報酬が高い。

 ほぼひと月修行ばかりで働いて無かったので、金銭的にそろそろ厳しい。 ここは一つ挑戦してみるか。


 依頼書を手に受付に行くと受付のお姉さんが驚く。

「これを受けるのですか?」

「何かまずい事でも?」

「いえ、特には無いのですが、このガラメキ草を取りに行くのが面倒なんで誰も受けないんです」

「面倒とは?」

「ガラメキ草の採取はそれ程難しくはないのです。 ですが、採取場所が北東にある洞窟内なんです。 しかも今その洞窟にはEランク以上の魔物がいるとか」

「ほかのランクの人は依頼を受けないんですか?」

「わざわざランクの低い依頼を受ける必要ありませんから……」

 確かにな。

 でも北東の洞窟なら鞘の材料を取りに行くから丁度良い。


「俺が受けますよ」

「本当ですか!? ……わかりました、カケルさんを信じましょう! でも無理はなさらないで下さいね」

 依頼書を受領してもらい、洞窟へ向かう為にポーションなども購入しておこう。


『わたくしがいればポーションなんて必要ありませんわよ』

 シルクはそう言うが、万が一もある。 それにポーションって一度飲んでみたかったんだよね。

 道具屋に行き、棚に並んでいる小瓶を手に取る。

 これがポーションか。

 薄く青紫色に輝いている小瓶は太陽の光に照らされて綺麗に輝く。


 ポーションを買い込むと早速街の北東へ向かう。

 

 ギルドで聞いた地図を頼りに洞窟の前までやってきた。

『今日はあたしだよな?』

『洞窟内で火は危険ですわ。 ここはやっぱりわたくしでしょう?』

『兄ちゃん! 僕! 僕〜!』


 前に洞窟内でエルザの火を使ったけど、その時は広い場所だったからな。 今回も広い場所があるとは限らない。

 となるとここは……。


「白く空に揺蕩いし柔らかな風よ 盟約に基づきその姿を見せよ!」


 白い魔法陣が現れ、マリスが飛び出してくる。

「兄ちゃんありがと〜!」

 出てくると同時に抱きついてスリスリしてくるマリス。


「あんた……、そう言う趣味なの?」

 ビクッ!!

 後ろを振り向くとリアスちゃんが引き攣った顔でこちらを見ている。

「あ……、い、いやこれは挨拶みたいなもので……」

 しどろもどろにリアスちゃんに説明すると、「はぁ、まぁいいわ」と少し呆れた顔で見られる。

「と、ところでなんでリアスがここに?」

「貴方この洞窟の依頼を受けたでしよ? いくら精霊が強くてもいきなりこんな依頼を受けるなんてバカじゃないの!?」

 リアスは腰に手を当て指を刺して文句を言ってくる。


「丁度この洞窟に用事があったから、ついでに依頼を受けてきたんだよ。 リアスは何故ここに?」

 もう一度さっきと同じ質問をしてみた。

「べ、別に貴方の事なんてどうでもいいけど、依頼達成出来ないと依頼主が可哀想だし……、一応私、貴方の先生だし……とにかく! 私の生徒がどの位戦えるか見に来ただけなんだから!」

 そうかそうか、心配出来てくれたと言う事だな。


「で、今日はあの髪が青くて長い無駄に贅肉が偏ってる精霊はいないの?」

『贅肉が偏ってるって!』

 頭の中でエルザが大笑い。

『なんて事! 翔様、わたくしを召喚して下さいませ! その小娘に言って差し上げないとですわ!』

 まぁまぁ、ここは穏便に……。


「今日は召喚してないんだ」

「それで、この子がパートナー? 冒険者なの?」

 マリスはリアスに笑顔で答える。

「マリスはね、翔のなんだよ」

「……えっ!」

 リアスは俺より3歩は後ろに下がったな。


「いや違うから! そうかもだけど……、え〜っと、マリスも精霊なんだよ!」

 どう説明して良いか分からず思わず言ってしまった。

「そんな事知ってるわよ」

「え? なんで?」

「見ればわかるじゃない。 服装が青髪の人と一緒だし……まさか精霊を2人も召喚出来るとは思わなかったけど」

 揶揄われた……。

 リアスは俺の心情を察しているのか、「ほら、さっさと行くわよ」と俺の袖を掴み洞窟の中に進んで行った。

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