第9話 冒険者
ギルド【ミョンミョン】に着いた俺はギルドマスターのミルヒさんと冒険者試験の試合をした。
だが、俺とシルクはミルヒさんに手も足も出ず完敗となる。
そしてギルドマスターの部屋へ行く事になった。
「ここが私の部屋です」
ギルドの3階にあるギルドマスターの部屋まで着くとミルヒさんに中まで案内される。
「そちらにお座り下さい」
ミルヒさんに促され黒いソファーに座る。
わざわざ部屋に案内して、これから冒険者失格を言い渡されるのか?
「さて、カケルくん。 貴方は冒険者になりたいとの事ですが、ハッキリ言うと最低ランクのFにも実力が達していないでしょう。 冒険者とは命懸けで依頼を達成する職業です。 諦めた方が良いと言うのが私の本音です」
だろうな.…、あんな何にも出来ないのだ。 冒険者は無理か……?
「しかし、そちらの精霊様は……」
「シルクと申します」
「……コホン、シルクさんはBランクに近い実力があるでしょう。 手加減して無ければ私と同じAランク、もしかしたらそれ以上の実力があると私は見ています」
「そんなに……?」
俺は自分との実力の差を聞いて唖然としてしまった。
「カケルくんは召喚士の戦い方をご存知か?」
「いえ……知りません」
地球では剣すら握ったことのない俺だ。 戦い方なんて知りもしない。 ならばここは色々聞いておいた方が良いだろう。
「召喚士と言うのは仲間を召喚して、戦わせる職業。 仲間が強ければそれだけで優位に戦えます。 しかし、仲間が強くとも召喚士が弱ければ狙われ、倒されれば召喚した仲間も消えてしまいます」
そうか、だからミルヒさんはシルクより俺を狙ってきたのか。
「カケルくんが強くならないと、冒険者としてはやって行けないでしょう」
「冒険者は不合格と言う事ですか……?」
こればかりは仕方ないか……。
「いえ、合格ですよ」
「え?」
「それはどう言う事でしょうか?」
シルクも合格と言われ驚いている。
「冒険者になる為に試験と言うのは特にございません。 登録さえすればどなたでもなれます」
「じゃあ、なんで?」
「テイルさんからこれから冒険者登録に来るカケルくんと言う少年は、とても強い精霊様を召喚出来るとか聞きましてね。 実力を見てみたくなりました」
「そうだったのか……」
安堵のため息を吐き、胸を撫で下ろす。
「ひとつ私から提案なのですが……」
ミルヒさんは白い髭を摩りながら紙を1枚テーブルの上に出してきた。
「これは?」
「こちらの方はこの冒険者ギルド【ミョンミョン】に登録しているテイマーです」
「テイマー?」
「そうです。 動物や魔物などを自分の仲間として一緒に戦う職業の方で、カケルくんの召喚士と戦い方は似ています。 この方に戦い方を学んでみてはいかがですかな?」
何程。 戦い方が似ていれば良い勉強になるかもしれない。
「わかりました。 で、こちらの方は今何処に?」
「下で冒険者登録してくればその内来ますよ」
ギルドマスターの部屋を後にして階段を下りる。
「翔様よかったですわ」
『翔やったな!』
『兄ちゃんやったね!』
冒険者になる事は出来そうだ。
俺は受付で登録をする。
「これで登録完了です。 これからはミョンミョンの冒険者として頑張って下さいね」
受付のお姉さんからギルドカードを受け取ると、俺も冒険者になったのだと実感が湧く。
そしてしばしミルヒさんに言われたテイマーの人を待つ。
10分程待った所で後ろから背中をポンっと叩かれる。
「君がカケルくん?」
びっくりして後ろを振り向くが誰も居ない……?
「こっちよ! こっち!」
下を向くと赤いローブを纏った身長120㎝位の小さい女の子がいた。
「お嬢ちゃんどうしたの? 迷子?」
「違うに決まってるでしょ! マスターにカケルって人をシゴいて欲しいと言われたからきたのよ!」
ええっ! この子がミルヒさんが言っていたテイマー?
「あ、子供じゃ役に立たないとか思ったでしょ? 私こう見えてもランクDの冒険者なんだからね!」
ランクDだって! この子テイルさんより上なのか?
「私は【リアス・イエル】14歳よ! リアスと呼んで」
「俺は安龍・翔 18歳だ。 色々教えて欲しい。 宜しく」
「良いわ! 教えてあげるから明日の朝、ここで待ってなさいよね」
それだけ言うとリアスはシルクをチラ見してギルドから出て行ってしまった。
「なかなか個性的な方でしたね?」
『なんなんだあの餓鬼んちょは!』
「先程の方はリアスさんですね。 ギルドマスターのお孫さんと聞いております」
受付のお姉さんが仕事をしながら教えてくれた。
お孫さん!?
「なんでもマスターに鍛えられたとか聞いておりますが……」
あのマスターか……。
「ギルドマスターのランクっていくつなんですか?」
「マスターはAランクですね」
「Aランク!? 強い筈だ……」
「ギルマスになるにはAランクは必要なんですよ」
Aランクなんて勝てるわけが無かった……。
とりあえずの目標はミルヒさんから一本とる事だな。
受付のお姉さんに挨拶して、ギルドを出た所でメルさんが待っていてくれた。
「どうだった?ギルマスとの話は?」
「俺は冒険者にはむかないってさ」
「え! じゃあ、冒険者には?」
「なれたよ」
「良かった〜」
メルさんは自分の事のように胸を撫で下ろしている。
「なら、今度一緒に依頼を受けてみませんか?」
「ごめん、明日からしばらくテイマーのリアスちゃんに着いて修行なんだ」
「あのリアスさんですか!?」
「知ってるの?」
「ここでは有名ですよ。 ギルマスのお孫さんで、優秀なテイマーと聞いています。 でもそっか……、修行なら仕方ないですね。 リアスさんが教えるなんてカケルさん期待されてる証拠ですよ」
「そうなのか?」
「そうですよ! 期待が無ければわざわざ部屋に呼んだりしませんもの」
こんな俺でもそれなりに期待されてるのか。
「じゃあ、次は鍛冶屋ですね」
「あ、そうだった。 案内宜しく頼む」
「はい!」
俺とシルクはメルさんに案内され、小ぢんまりした一軒の家までやってきた。
「ここがこのディメールで最高の鍛冶屋です」
「ここが?」
どう見ても普通の家。
「とにかく入ってみましょう!」
扉を開け、中までに入るおカウンターには長い髭を生やした小さいおじさんがいた。
「おじさん! お客連れてきたよ!」
「ん? なんだメルか? ちょっとは上達したか?」
「う、そ、それはまた今度、今回はお客さんだよ」
小さなおじさんは俺の方を軽く見るとシルクに目線をやる。
「精霊じゃねぇか!」
おじさんはめを丸くして驚く。
「シルクと申します」
シルクは驚いているおじさんにペコっとお辞儀をする。
「こりゃ驚いた。 で、精霊とそのお連れさんが何の用だ?」
お連れさん……。
「あ、この剣の鞘を作って欲しくて」
ダガレ村の武器屋で貰った剣を差し出し、経緯を説明した。
「ほぉ、ダゴレの武器屋からもらうとはなかなかだな」
ガハハと笑いながらおじさんは剣をマジマジと見る。
「作ってやりてぇのはやまやまだが、今はコイツに合う材料がねぇ」
「材料を取ってくれば作ってもらえますか?」
「もちろんだ。 だが、このディメールより北東の山岳にある洞窟でないとこいつの材料は取れねぇ」
「北東の洞窟ですね。 取ってきます」
「おいおい、話は最後まで聞け。 あの洞窟には魔物が住み着いているって話だ。 無理はしない方が身の為だぞ」
「大丈夫です! 任せて下さい」
明日からの修行と冒険者としてやっていく為、手頃な武器、防具を見繕ってもらい、持っていた剣は預けてメルさんと武器屋を後にする。
そしてメルさんに「武器屋の店主はこの辺りでは珍しいドワーフ族なんですよ」と聞かされる。
ドワーフ! ファンタジーの定番種族! テンションあがる!
『あたしらにもテンション上げて欲しいよなぁ』と頭の中で響くがスルースキル発動。
メルさんに安めの宿を案内してもらい、宿代を安くする為にシルクには魔法陣の中に戻ってもらう。
そして世話になったメルさん、テイルさんに夕食をご馳走する事にした。
やはり大きな街の料理は少し違う。
骨付きの肉、芋を油で揚げた物にディップソースが3種類、サラダもパンを細かくして揚げた物がトッピングされ、レモンとオイルのさっぱりとしたドレッシングがかかり、スープは肉と野菜のコンソメスープっぽい物、パンは黒パンではなく小麦粉で作られた柔らかいパン、そして酒。 ビールのような匂いがする。
『翔! あたしも食べてぇぞ!』
『こんなご馳走ならわたくしもご一緒したかったですわ!』
『兄ちゃん、僕も肉食べたい!』
すまない! 全員分まで金が回らない!
冒険者で稼いだらご馳走するから!
実際、精霊は食べなくてもマナさえ有れば大丈夫らしいが、エルザ達は料理の味をしめたらしい……。
テイルさん、メルさんは明日からまた依頼をこなす為に街を少し離れると言っていた。
食事も終わり、テイルさん、メルさんと別れ、宿の部屋へ。
明日からの修行の事を考えながら今日は眠りに着いた。
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