第8話 要塞都市ディメールとギルドマスター


 パラキ村からディメールへ旅立って3日が過ぎた。

 最初の野営はエルザが夜間見張っていてくれて俺の魔力も翌日には全快した。

 今回のようにいつ魔力枯れになるかわからないため、基本的に召喚するのは1日1人と決めた。


 2日目も順調に旅を続けていたが、あいにくの雨天となる。

 雨の独特な匂いがする中、シルクは水の膜で俺達を覆って雨から濡れないようにしてくれていた。

 テイルさんもメルさんも便利な能力で羨ましがっていたな。


 3日目は兎にツノが生えたような魔物【ドリルラビット】の群れに襲われたが、エルザ1人で楽勝。

 マリスが出番無くて『兄ちゃんが召喚してくれないよ〜』と嘆いていたので、夜間の見張りはマリスに頼む事にした。


「白く空に揺蕩いし柔らかな風よ 盟約に基づきその姿を見せよ!」


「やったぁ!」

 マリスは元気に魔法陣から飛び出して俺に抱きついてくる。

「今夜の見張り頼むぞ」

「任せといてよ!」

 マリスに任せ、テントに向かうと……、袖を引っ張られた。

「もう寝ちゃうの?」

 上目遣いで袖を引っ張ってる姿は小動物のようで可愛い。

「寝とかないと魔力回復しないし……」

「えー! ちょっとお話しようよー!」

「少しだけな」

 俺はマリスの横に腰を下ろす。


「よいしょっと」

 マリスが俺の膝の上に座ってきた。

「兄ちゃん暖かいね」

「ま、まぁ、そうだな」

『翔〜』

『翔様〜』

 いや、何にもしないよ! マリスは妹みたいな感じだからね!


「ねぇ、兄ちゃんはなんでこっちの世界に来たの?」

「俺も分からん……」

「そうなんだ……、でも来てくれて良かった」

 マリスは満面の笑みで応えてくれる。

「マリスはどうして俺に?」

「兄ちゃんの魔力凄いんだよ! 僕気に入っちゃった♡ だからかなぁ? よくわかんないや」

「そっか、ありがとな」

 マリスの頭を優しく撫でてあげる。

「えへへ」

「さて、そろそろ寝ないとな」

「そうだね」

「マリス本当に1人で平気か?」

「うん! 僕頑張るよ」

「ありがとな。 おやすみ」

「おやすみ兄ちゃん」

 マリス1人に見張りを任せるのは後ろ髪を引かれる思いがあるが、俺はテントに入り、寝袋で寝る。


 翌朝……。

 俺の隣にはマリスが寝ていた……。


『だから言ったじゃねーか!』

『見張りは大事な仕事ですのよ』

『ごめんよ〜! 寝てる兄ちゃんを見てたらなんだか私も眠くなっちゃったんだよ〜』

 何事も無かったし、そのくらいにしといてあげてくれ。

『兄ちゃん♡』

『翔あめーぞ』

『そうですわ! ここはちゃんと叱って差し上げないと!』

 まぁまぁ……。

 頭の中で騒がしいくしている2人を宥め、テイルさんとメルさんに説明。


「……と言う訳で……」

「いいって、何事も無かったんだし」

「私達も頼りすぎてましたし」

 良い人達で良かった。


「そろそろディメールが見えて来ますよ」

 少し高い丘の上から見えるディメール今までの村とは違い、街全体が石の壁で覆われ、まさに要塞都市と言われているだけのことはある。

 村とは違った街に俺はワクワクとドキドキが止まらず、足早に向かいたい気持ちで一杯だった。

 今いる丘からは大体半日と言った所だ。


「ディメール凄いですね!」

「カケルさんはディメール初めてですか?」

「そうなんだよ!」

「なら私が街の案内位はしますよ」

 メルさんの申し出を断る理由も無く、案内があった方が街の事がよくわかるだろう。

「助かります。 宜しくお願いします」

「僕はどこを案内しようかな〜」

 テイルさんは張り切っているが、メルさんに止められる。

「兄さんは冒険者ギルドに行ってパラキ村の報告があるでしょ! 案内は私だけで十分です!」

「そっかぁ……」

 少しシュンとするテイルさん。


「なら冒険者ギルドも行きますので、その時に色々教えてください」

「そう? なら任せといてよ!」

 うん、元気になったな。


「あ、ディメールに入るために通行書が必要なんだけど、カケルさんは持ってる?」

「持ってないな」

「私達はギルドの登録証で入れるけど、何も無いと通行料がかかるよ」

「いくら位?」

「う〜ん……、職業によって値段変わるんですよ。 商人なら銀貨5枚、農民なら銅貨8枚とかですね。 カケルさんはこれから冒険者になる予定の旅人ですから少し多くかかるかも知れません」

 お金は村での事件解決時に貰ったから大丈夫だとは思うけど……。


 俺達はディメールの西側の門にたどり着いた。

「すっげぇ!」

 間近で見るディメールの石造りの壁にテンションが上がる。

「今日は空いていますね。 これならそんなに時間かからずに入れると思いますよ」

 テイルさんが言うにはいつもはそれなりに列を作っているらしい。


「次!」

 どうやら俺達の番のようだ。


「冒険者テイルとメルですね。 確認しました。 どうぞ」

 2人はギルドカードを見せるとすんなりと街に入って行った。


「冒険者になる為に来たと……。 身分を確認する物は無し。 さっき冒険者のテイルとメルが知り合いと言っていたが本当か?」

 パラキ村で知り合ったばかりだけどこれも知り合いで間違いないはず!

「知り合いです」

「そうか、なら通行料銀貨2枚、銅貨5枚だな」

 メルさんの言う通り結構するな。

「銅貨5枚は通行証を作るための値段だ。 出来上がった通行証を持ってギルドに行けば手続きも楽になるだろう」

 そう言う事か。

 俺は門の警備兵にお礼を言って、通行証を発行してくれる場所で待つ。


「カケル様〜」

 名前が呼ばれ、通行証を受け取りに行く。

 これでついに街の中に!


「お疲れ様です、カケルさん」

「メルさんお待たせしました」

 待っていてくれたメルさんと街の中に入る。


 おおお!

 石をはめ込んだ石畳の道、カラフルなレンガで出来た家の数々、行き交う人々はどの村より多く、露天も数多く出店している。

 これは感動するな。

 キョロキョロと辺りを見回している俺は完全にお上りさん。


「ふふっ。 カケルさんキョロキョロしすぎですよ」

 あ……。

 あまりの感動につい……。

「あんまりキョロキョロしているとスリに狙われますよ」

「スリいるの?!」

「当然です」

 あまりに普通に話すので、少し驚いてしまった。

 これからは気をつけよう。


 メルさんと屋台にある肉の串焼きやフルーツのジュースを飲み食いしながら街の中を案内してもらう。

 精霊の3人は目立つから魔法陣の中で待機してもらっているが、エルザ、シルク、マリスは頭の中で騒がしくしている。

 最近少し耐性がついたのか、スルースキルが身に付いた。


「カケルさんはまず何処に行きたいですか?」

「そうだな。 まずは冒険者ギルドで登録をしたい」

「わかりました。 兄が先に行って話をしてくれているはずですから、すんなりと伝わると思いますよ」

「色々とありがとう。 たすかるよ」

「い、いえ、気にしないでください。 命の恩人なんですから!」

 メルさんの顔が少し赤くなっている気がする。


「着きました。 ここが冒険者ギルドの【ミョンミョン】です」

「ミョ……? ミョン??」

「はい、ミョンミョンです。 ……やっぱり名前気になりますよね。 ギルドの名前はその場所のギルドマスターがつける事になってるらしく……」

 な、なるほど……。

 ギルドとなると屈強な剣士や魔法使いなどが沢山いるのだろうと気合を入れていたが、出鼻を挫かれた気分だ。


「と、とりあえず入りましょう」

「お、おう」

 扉を開けて中に入る。

 中は結構な広さがあり、強そうな人達がチラホラ。

 

「ようこそ。 ギルド【ミョンミョン】へ」

 受付のお姉さんが笑顔で挨拶をしてくれる。

「えと、冒険者登録をしたいのですが……」

「あ、もしかしてカケル様ですか?」

「そうです」

「お話はテイルさんから聞いております。 ではこちらにどうぞ」

 テイルさんのおかげですんなりとギルド登録出来そうだな。


 受付のお姉さんに連れて来られたのはギルドの裏庭のような少し広い場所。

「お、カケルくん来たね」

 テイルさんともう1人、初老位の男性が立っている。

「ここって……」

 メルさんは何か知っている様子。


「君がカケルくんかい?」

 初老の男性が話しかけてくる。

「そうですが?」

「初めまして、私がこのギルドのマスター【ミルヒ】です」

「あ、ど、どうも」

 まさかいきなりギルマスに合うとは思って無かったので、返事が変になってしまった。


「実は君に聞きたい事があってここに来て頂いた。 君は召喚士とこちらのテイルくんに聞きましたが間違い無いですか?」

 ここで嘘を言っても仕方ないだろう。 おそらくテイルさんから聞いていると思うし、ギルドの登録に必要になるかも知れない。

「そうです」

「ではこれから試験を行うので召喚して頂けますか?」

 ギルド登録のテストか?

「わかりました」

 と言っても全員召喚するつもりは無い。

 手の内は全部さらけ出すつもりは無いので、1人で十分だろう。


『もちろんあたしだよな?』

 エルザは試験内容関係なくやり過ぎそうだから却下。

『兄ちゃん僕、僕〜!』

 マリスは試験内容を把握せずにやりそうだから却下。

『やっぱりここはわたくしですわね』

 シルクならちゃんと対応してくれるだろう。


「青く澄んだ清流の流れよ 盟約に基づきその姿を見せよ!」


 青い魔法陣の中から青く長い髪を靡かせて水の精霊【シルク】が現れる。


「おお! 精霊様を召喚するとは!」

 シルクを見たミルヒさんは驚きの声をあげる。

「コホン、では試験内容をお伝えします」

 ドキドキ。

「精霊様と2人で私を捕らえられたら合格です。 もちろん攻撃もありですよ」

 シルクと2人がかりで良いのか? なら楽勝じゃないか!

「翔様、2人の息の合う所をお見せ致しましょう!」

「おう!」

「いつでもどうぞ」

 ミルヒさんは後ろに腕を組んでいてその場から動こうとしない。


 シルクは素早く駆け寄り、水の刃をミルヒさんに当てないように打ち出す。

 ミルヒさんは動かない。

 水の刃がミルヒさんの横を通り過ぎるとシルクは足元に水の刃を打ち出す。

 俺もジッとしてるだけじゃダメだ。

 武器屋から貰った剣を構え、ミルヒさんに駆け寄る。

 水の刃が地面に刺さると同時にシルクがミルヒさんに手を出す。

 が、ミルヒさんはシルクを片手で投げ飛ばした。

 シルクはうまく回転をして受身を取る。

「ぐっ!」

 駆け寄った俺もミルヒさんにあっさりと投げられる。

 もちろん受け身なんて取れないので、背中から落ちた。


「翔様、この方強いですわ」

「そのようだ……」

 シルクの回復で痛みも無くなるが、魔法も使えず、剣も握ったことの無い俺では勝てそうも無い。

「手加減しないで下さいね。 これでもギルドマスターですから」

 ミルヒさん腕はを後ろに組んだままで余裕そうだ。


「では失礼して手加減無しで参りますわよ」

 シルクはシャボン玉のような泡を沢山出現させると、ミルヒさんを泡で囲む。

「行きますわ!」

 シルクは指をパチンと鳴らすと全ての泡が水の刃に変化してミルヒさんを襲う。

 やり過ぎだ! ミルヒさんが細切れでは無くミンチになるぞ!!

 心配も束の間、ミルヒさんは凄い速さで水の刃を全て交わした。

「おや、私も鈍りましたかね」

 ミンチに水の刃が2発ほどミルヒさんの服を掠めて切っていた。

 そしていつの間にか俺に近づいていたミルヒさんの2度目の投げをくらうのだった……。


「ここまでですな」

 俺が2度投げられた所で試験は終了した。

 捕らえるどころか触れることも出来なかった……。

「翔様、すみません……」

『だからあたしにしにとけば良かったんだよ』

『僕ならあの人の速さについて行けたよ』

 2人共静かに!

「シルクは気にしないで、俺が何にも出来ないのが悪いんだから」

 落ち込むシルクを慰める。

「ですが……」

「全く持ってその通りですな」

 ミルヒさんが話に割り込んでくる。


「召喚士と言う職業を全く活かせておりませんな。 よって、精霊様は合格ですが、カケルくん、貴方は不合格です」

 だろうな。

「とりあえず、私の部屋まで来て頂いて話しましょう」

 俺とシルクはギルマスの部屋に向かう事となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る