第11話 土の鼓動

 リアスちゃんと共にガラメキ草を取りに洞窟に入った俺とマリス。

 リアスちゃんのフードから飛び出して来たドリルラビット通称ラビ。

 先頭をラビ、2番目にリアスちゃん、3番目俺、最後にマリスと言う順番で入って行く。


「ねぇ、どうでも良いけど、その子精霊よね?」

「そうだよ」

「なんでカケルに引っ付いてるの?」

 洞窟に入った時からずっと俺の背中に引っ付いているマリスを見てリアスちゃんは気になったようだ。


「だって暗いし、ジメジメするし〜」

 リアスちゃんが魔法で灯りを出しているが、1番後ろには光があまり届かないせいで、マリスは俺に引っ付いている。

 それに風の精霊だからなのか、ジメジメする所は苦手のようだ。


「やっぱりへんね?」

「へん?」

「静かすぎるわ。 魔物がいる洞窟でもいくつかの種類がいる物なのよ。 進んで来てしばらく経ったのにまだ1匹も魔物に会ってないわ」

 言われてみれば。


 そうして魔物に会わないまま洞窟の1番奥まで辿り着く。

 少し開けたその場所には綺麗に輝く石が幾つも生えている。

「この鉱石か?」

 鞘の素材として使う為に鉱石を取りに近づいたその時!


「キー!!」

 ラビが甲高く鳴くと、リアスが「カケル! さがって!」と声を出す。


 俺の居た場所に天井からドロっとした液体が落ちて来た。

 一歩下がったので、間一髪避けられたが、リアスが声をかけてくれなかったらこの液体に包まれていただろう。


「グリーンスライムだわ!!」

 ドロっとした液体は一つに固まり、ゼリー状の魔物となった。


「厄介な相手ね。 ラビ! 戻って!」

 ラビは勢いよくリアスちゃんのフードまで戻ると、リアスちゃんの火炎球がグリーンスライムに直撃する。

 しかしグリーンスライムの表面を焼いただけで、ほとんどダメージを受けていない様子。


「カケル! こいつは体内の核を狙わないと倒せない! 下手に触れると溶かされるわ! 迂闊に飛び込まないで!」

「わかった!」

 とは言え俺が出来るのはナイフでの斬撃のみ。

「僕がやるよ〜!」

 シルクは真空の刃でグリーンスライムを切り刻むが、核に当たっていないのか体が再生していく。


「この、このー!」

 シルクは幾つもの真空の刃を飛ばすが、核の的が小さい為に当たらない。

「当たれ〜!!」

 洞窟の壁を削り、やっと核に当てグリーンスライムは溶けていなくなった。

「やったね!」

 シルクは倒した事を喜ぶと、真空の刃で削った壁が崩れ落ちる。


「うそ……」

「マジか……」

 崩れ落ちた壁の奥にはグリーンスライムが10匹以上いる。

 それがこちらに這いずり出して来たのだ。


「兄ちゃん、僕に任せて!」

 シルクの真空の刃はグリーンスライムの体は切るが、なかなか核に当たらず、どんどん近づいてくる。


『翔! あたしなら纏めて1発で倒せるぞ!』

 エルザの火球だと洞窟も崩れかねない。

『翔様、わたくしの水の刃では核まで届くかわかりませんわ』

 体が液体のスライムには相性が悪いようだ。


「この! この!」

 リアスちゃんは火炎球を飛ばしているが、焼け石に水だ。

 とにかくこの状況をどうにかしないと!

 俺はエルザとシルクも召喚して3人の力なら何とかなるかも知れない! と召喚する。


「赤き紅より真紅に燃えし心なる火種 盟約に基づきその姿を見せよ!」

「青く澄んだ清流の流れよ 盟約に基づきその姿を見せよ!」


 2人を召喚し、エルザは火を纏った拳で殴りに行き、シルクは水の刃を飛ばすがグリーンスライムの流体に阻まれ核まで届かない。

 

 鉱石さえ取れれば一旦引くのに!

 どうにかしてあの壁の向こうに追いやって土で埋められれば……。


『私なら出来ますよ』

 頭の中で声がする。

 もしかして精霊?!

『はい』

 壁をどうにか出来るのか?

『壁だけでなく、グリーンスライムも倒せると思います』

 わかった! 頼む!!

『では、召喚の魔法をお伝えしますね』


『緑の優しき土の恵みよ 盟約に基づきその姿を見せよ!です』

「緑の優しき土の恵みよ 盟約に基づきその姿を見せよ!」


 緑の魔法陣が現れ、緑の髪を2つに分けて縛り、眼鏡をかけた女の子がゆっくりと出てきた。


「さぁ、行きますよ〜!」

 両腕を地面に当てると地響きと共に俺達の前に大穴を開け、グリーンスライム達が落ちていく。

 両手を天井に掲げると鍾乳石のツララが現れその穴目がけて落ちていく。


 グリーンスライム達は鍾乳石のツララに潰される。

「どんどん行きますよ〜」

 残りのグリーンスライムも女の子が放つ無数の石つぶてに核を破壊され倒された。


 うわ〜……まるでマシンガンだな……。

 

「うそ……」

 グリーンスライム達を一掃した事に驚いているのか、リアスは口を開いたまま唖然としている。


「は、初めまして翔さん。 私は土の精霊シャルと申します」

 シャルはこちらに振り向きぺこぺことお辞儀をして挨拶をしてくる。


「シャル! 助かったぜ!」

「お久しぶりですわ、シャル」

「シャルー!」

「わわ」

 マリスはシャルに勢いよく抱きついた。


「ちょっとカケル……」

「なに?」

 リアスちゃんが服を引っ張って何か聞きたそうにしている。

 きっとシャルについてだろうな。


「カケルが精霊を召喚出来るのは知ってたけど、まさか4人も召喚出来るなんて聞いてないわよ!!」

 リアスちゃんはシャルに驚いたのでは無く、俺が精霊を4人も召喚出来た事にあった。

「ごめんごめん、秘密にするつもりは無かったけど、俺もいつ増えるのか分からなかったから……」

「ふ〜ん……まぁ、いいわ。 とりあえず依頼をこなしちゃいましょ」

「そうしよう」


 俺達は依頼のガラメキ草を手分けして探し、採取した。

「これで依頼達成だな」

「色々疲れたわ……そろそろ帰りましょ」

「そうしよう」

 俺も何もしてないのに疲労感はある。


「翔、鉱石とやらの採取もしないとだろ?」

「そうだった」

 エルザに言われて思い出したが、グリーンスライムとの戦いですっかり忘れてた。

「しかし……、どれがその鉱石なんだか……?」

 鍛冶屋にはあらかじめ鉱石の種類を聞いていた。

 でも似ている石が多すぎる。


「わたくしにも鉱石はわかりませんわ」

「兄ちゃん、この石綺麗だよ」

「鉱石? そんなの何に使うのよ?」

 リアスちゃんには剣の鞘を作る為に必要だと簡単に説明した。

「あの鍛冶屋か……」

「知ってるの?」

「そりゃしってるわよ。 ディメールで結構名の知れた鍛治士よ」

 それだけ有名なら良い鉱石を取って行かないとな。


「か、翔さん、私に任せてもらえませんか?」

 シャルが困っている俺を見かねたのか声をかけてくる。

 シャルは土の精霊だったな。

 なら鉱石の良し悪しもわかるかも知れない。

「頼むよ」

 シャルに任せれば大丈夫だろう。


 しばらくシャルは洞窟内を彷徨き、色々な鉱石を見定め、集めて来てくれた。


 シャル以外は魔法陣の中に戻ってもらい、初の洞窟探検は終了し、ディメールへ戻るのだった。

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