決戦の時②
「兄上、再戦することになったせいで、また無様な姿を晒さなくちゃいけないなんて、かわいそうにな。悪いが、今日は手加減しない。魔法ありの真剣勝負だ」
のっけからブレントはサディアスに挑発を仕掛ける。
「望むところだ、ブレント。無様な姿を晒さないよう、気を付けるよ」
しかしいつも通り、サディアスが挑発にのり感情的になることはない。
そんな態度も気に喰わなくてブレントは舌打ちしたをした。
(余裕ぶってられるのも今のうちだ)
舞台袖に視線を移すと、観戦席にいるパトリシアの姿が目に入る。だが目が合う事はない。彼女の視線の先にいるのはサディアスのようだった。
(クソッ、クソクソクソッ!!)
ブレントは、ますます気に喰わなくてギリギリと奥歯を鳴らした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ブレント殿下の方は、試合前から随分と苛立っているようだな」
「え?」
クラウドに言われて見ると、遠くにいるブレントと目が合った……ような気がしたが、すぐにプイッと逸らされてしまった。
「始まるぞ」
「はい」
サディアスとブレントが向かい合い、構えた所で開始の笛が鳴る。
その瞬間、二人は同時に前へ踏み出し真剣のぶつかり合う音がキィンッと響いた。
力の強さが拮抗しているのか、二人は剣を交えしばらくの間睨み合う。
ブレントが拮抗を崩し振るった剣をサディアスが弾く。が、畳み掛けるようにブレントは好戦的な攻撃を続けた。
激しく真剣のぶつかり合う音が鳴り響き、まさに手に汗握る試合だった。だが。
「あっ」
パトリシアは、思わず声を零した。
大きく振りかぶったブレントの剣を上段で受け止めたサディアスの剣が折れ、剣先が場外に突き刺さる。
まるで過去の試合の再現のようだった。
あの時は、この瞬間に試合終了の笛が鳴ったが……
サディアスは間髪入れず振り落とされたブレントの剣を素早く飛び退いて避ける。その目は少しも勝負を諦めていない目だ。
(がんばれ……がんばってっ!!)
あの時の気持ちが蘇る。気が付けば、勝ってほしいと心からサディアスの事を応援している自分がいた。
サディアスの手元に闇色の魔法陣が浮かび上がる。
そうして放たれた魔法の矢をブレントは土魔法の防壁で弾き落とした。
「今の魔法陣の色って……闇魔法?」
「そんな……直系の王族に闇属性は、禁忌じゃないか……」
観戦していた者たちが、ざわめきはじめる。
「国に災いが!?」
「でもさ、殿下が生まれてから今まで国に大きな災いなんてなにもなかった、よな?」
「あれはただの伝承だったんだよ、きっと」
恐れる者もいれば、冷静な反応を見せる者もいる。
「闇属性を隠していたんだな」
クラウドも驚くことなく「やはりな」と言った感じだ。
もっと観客たちが荒れた反応になるかと思っていたパトリシアは、ほっと肩を撫でおろす。
そんな思いで試合から気が逸れていたパトリシアは、また「わぁー」という立会人たちのざわめきに反応して二人の戦いに視線を戻した。
サディアスが……ブレントの土魔法により地面に足を取られ、水魔法を浴びせられもがいている。
「ハハッ、良いざまだな、サディアス。降参するなら解放してやるぞ?」
水で出来たブロックに全身を浸かされ溺れているような状態のサディアスを見て、ブレントは高笑いをしていた。
右手には土属性の魔法陣、左手には水属性の魔法陣を浮かべる両刀使いだ。
闇属性の魔法は禁術とされているモノが多く制限が厳しい。それに比べ二属性を使えるブレントとの魔法対決は、禁術解禁がない限りサディアスの方が不利かもしれない。
「ハハハハハッ、いいザマだ! やはり、兄上には敗北がお似合いだ!!」
流石に試合で死人を出すわけにはいかないので、このままドクターストップが出るかと思われたが。
サディアスは、まだ諦めていなかった。もがきながらも水の中から右手を出す。
「な、なんだっ!?」
サディアスの魔法により、徐々にブレントの魔法陣が破壊され水と土の魔法もそのまま消えた。
禁術を使ったに違いないと観客席の誰かが非難したが、水から解放され姿を現したサディアスの片目は赤く光ってはいない。禁術には手を出していない証拠だ。
「くそっ、悪あがきしやがって!!」
すぐにまたブレントが出現させた大きな魔法陣がサディアスの足元に浮かぶと、そのまま身体を引き裂くように尖った地面が突き上げられる。
「っ!」
パトリシアは、それを見てヒヤッとした。
しかしサディアスは串刺しにされることなく、姿を消した。
「チッ、どこに消えた!?」
空中に逃げたかと見上げるブレントだったが、次にサディアスが姿を現したのは……
「これで終わりだ、ブレント」
影移動の魔法を使ったサディアスが、ブレントの背後に伸びる影から姿を現す。
「なっ!?」
声に反応して振り返ったブレントは隙だらけだった。
そのまま腹に魔法の一撃を喰らい吹っ飛ばされる。
「ガハッ……」
ブレントが落とした真剣を拾い上げたサディアスは、起き上がる事も出来ずに蹲る彼の首筋へその刃先を向けた。
ビイィィィィィッ――
そこで試合終了の笛が鳴り響く。
「勝った……」
パトリシアは思わずそう呟いた。
これは誰が見ても文句の付けどころなくサディアスの勝利だと。
だが、審判が勝者の名前を呼ぶことを、誰もが静かに見守るなか「待った」を掛ける声が聞こえた。
ブレントの従者であるジュールだ。
彼は舞台に上がると、審判の耳元でなにかを伝えた。すると、顔色を変え戸惑った表情を浮かべながらも、審判は。
「ブレント殿下の暗殺未遂容疑により、サディアス殿下を失格とする。よって……勝者ブレント殿下!!」
「なんで……」
パトリシア同様、他の立会人たちも大半が困惑していたが、一部のブレントの支持者たちは歓声と拍手でこの状況を祝福していた。
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