決戦の時①
「ブレント! あなた、王位継承権を賭けた決闘の再戦を了承したというのはどういうことなの!!」
ブレントの部屋に王妃であり母であるヘレナが声を張り上げ入って来た。
「母上、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられますか! 貴方はこの国で唯一の王となるべき資格のある子なのです。それを今さら覆そうとする要求を呑むなど私は許しませんよ!!」
ヘレナがいくらそう訴えようと、王位継承権を決める決闘の再戦を命じたのは国王ザルバックであり、大臣たちも今回のブレントの醜態を知ってそれに賛同したものが多い。
それならもう一度サディアスを打ちのめし、力の差を見せつけてやるのが一番手っ取り早いとブレントは考えたまでだ。
「調子にのってるアイツの鼻をへし折ってやるいい機会です」
「なにを言うのっ、もし負けてしまったら、もう二度と貴方は王太子と名乗れなくなってしまうのですよ!!」
必死の形相で説得してくるヘレナの顔を見て、思わずブレントは鼻で笑った。
「ハッ、なにを言うのです、母上。オレが一度でもアイツに負けた事がありますか?」
恐れるに足りない相手になにを怯んでいるのかと思ったが、ヘレナは心配そうに眉を寄せる。
「ブレント、良く聞きなさい。今までは伏せられていたけれど、サディアスは闇属性の魔法が使えます」
「は?」
「あの人はもうそのことを隠すつもりもないようです。忌々しい、そんな相手と戦って貴方になにかあったら」
父上は、禁忌の子であるサディアスに、自分と同じ王位継承権を与えていたのか。そう思うと、さすがのブレントも少し困惑した。それと同時に、そんなやつと対等に扱われることへの不快感も覚える。
「とにかく、貴女が今さらサディアスと同じ土俵に上がる必要はないの。あの人が次期国王になるなんてとんでもないとおっしゃる有力者たちも沢山います。だから、ここは私に任せて、陛下の説得をっ」
「いや、ここで戦いを辞退したら、まるでアイツに負けるのを恐れているみたいじゃないか。そういうわけにはいかない!!」
「ブレント!!」
何度ヘレナに言われようと、ブレントはサディアスとの再戦を取り下げることはしなかった。
(王に相応しいのはこのオレだ。聖夜祭で恥を掻かされた分を、倍にして返してやる!!)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
王位継承権一位を再戦で決める試合の当日、パトリシアはクラウドと共に王立騎士団の闘技場へと招待されていた。
会場の雰囲気に懐かしさのようなものを感じたが、あの頃よりさらに場の空気はピリついているような気がする。
「まさか、この時期になって再試合なんて」
「一体なんの意味があるんだ? どうせまたブレント殿下が勝つだろう」
「ほら、例の一件で口うるさい大臣たちの反感をかってしまったから。ここでもう一度力の差を見せつけ黙らせるためだろうさ」
以前と同じく、ブレントが勝つと信じて疑わない人々が殆どのようだが。
「お前は、どちらが勝つと思う?」
クラウドにそう問われパトリシアは、先日のサディアスとの会話を思い出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
それは、近いうちに王位継承権を決める試合の再戦が行われると聞かされた夜のことだった。
「今回の件をきっかけに、父上が再戦を考えてると発言され、大臣たちの多数もそれに賛成しているんだ」
正直、大臣たちが賛同するとは思っていなかった、とサディアスも若干驚いた様子だった。
けれど、再戦自体には迷いのない顔をしてる。
「ブレントが王太子に決まってからしばらくして、父上は俺に隠密部隊の仕事を与えるようになったんだ。そこで色々国の内情を学んで、今年から部隊の指揮をとるように言われ。父上は、俺に影からこの国を支えるようにと言っているのだと思ってた……」
そして自分でもそんな生き方が向いていると思い始めていたんだと、サディアスは言った。
「この瞳の色に闇属性じゃ、表に立つことは難しい。けど、裏の部隊でなら自由に動き回る事ができるしやりがいも感じてた」
自分の力を堂々と活かせる居場所を見つけたサディアスに、なぜ陛下は今さら表舞台に引き戻すようなことをしたのだろう。
「けど、父上は、この王室の古い慣わしをなくしていきたいんだと思う。そして、それは俺も同じ気持ち。父上の意思を継いで忌み嫌われたこの目と力を隠さず王となり、それらを一掃させたい」
その時パトリシアは、これからを語る迷いのない彼の目を、とても綺麗だと思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「わたしは……サディアス様が勝つと思います」
先程のクラウドの問にパトリシアはそう答えた。
ブレントはサディアスを侮っている節があるから、油断していそうだとも思う。
「ほう。もしそうなったら、色々と面白い事になりそうだな」
クラウドは王室の内情をどこまで知っているのか。パトリシアの返答を聞いて少し楽しそうだった。
「そうなると、お前はサディアス殿下の婚約者となるが」
そうだろうか。サディアスの生い立ちを考えると、まず彼が廃止するのは聖女を妻にという制度のような気がする。
そんな話をしているうちに、ブレントが会場へ姿を現した。
ずっと部屋に籠っているとのことだったので、少しやつれてしまっているんじゃないかと思っていたが、見た感じ元気そうだ。
「その後、ブレント殿下と会話は?」
「ないです……」
結局、婚約破棄の件もうやむやなままこの日を迎えてしまった。でも、もし仮にブレントが再び王太子と確定したとして、自分の心はもう……
「サディアス殿下が出て来たぞ」
「前とはもはや別人だな……まさかオッドアイだったなんて」
「でもさ、今時オッドアイだからっていうのはただの差別だろ。サディアス殿下が王になるのもありじゃないか?」
サディアスの登場に会場がざわつくが、王室関係者たちのひそひそとした噂話を聞くに、サディアスを否定している人たちばかりでもないようだ。
ただ、彼が闇属性を持っている事が知れたら、また反応も変わってくるかもしれない。
そしてパトリシアも見守る中、サディアスとブレントは、それぞれ用意された真剣を受け取ると決闘の舞台へと上がったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます